1.配偶者居住権が便利なケース
高齢の父と母、長男1人の家族で、父の所有する自宅土地・建物に、家族3人で住んでいたとします。父は、自分が亡くなった後に、母がずっと住み慣れた建物に住んで欲しいと思っていますが、母に自宅を相続させると、母の相続分(1/2)がほとんど、自宅に取られてしまい、母が法定相続分の範囲で相続できる金融資産が少なくなってしまうのではないかということが心配です。
このようなケースが増えていることに対応して、2020年に民法で新しく創設された制度が「配偶者居住権」です。
参考コラム民法改正による新制度 配偶者居住権とは?
配偶者居住権は、父が遺贈か相続人間協議で、被相続人(父)の所有していた建物に、相続人である母が終身で、かつ無償ですみ続けることができる権利を与えることができるものです。
また配偶者居住権は、建物の価値に比べると低い価値しかないので、妻の法定相続分の中に占める割合を小さくできます。
2.配偶者居住権の設定の注意点
父が遺言で妻に配偶者居住権を設定してあげたいと思った時に、遺言には“妻に配偶者居住権を「遺贈する」“と書かないといけません。これを「相続させる」と記載すると、妻が配偶者居住権を辞退したい思っても、「相続放棄」以外に手段がなくなります。
「遺贈する」と書いておけば、妻は、配偶者居住権のみを個別に辞退出来ます。
3.配偶者居住権の問題点
1)母の老人ホーム入居資金などのために配偶者居住権は売却できないこと。
配偶者居住権を制定した認める目的は「残された配偶者が、安心して従来通りの住環境で生活を継続できるようにする」ことです。したがって、配偶者居住権の第三者への譲渡はできないことになっています。(民法1032条Ⅱ)
このため、母が老人ホーム等に入居するために、資金が必要な場合、配偶者居住権だけを売却して資金化できません。
2)配偶者居住権を消滅させて自宅を売却するのも課税の問題あり
配偶者居住権を母と子の合意で消滅させて、まっさらな土地・建物にして売却することは可能です。しかし、その場合、配偶者居住権の価値分だけ母と子の間で、譲渡や贈与があったことになりますので、課税が発生します。
3)母が認知症になるとますます難しくなる
母が認知症となり老人ホームに入る場合、やはり実家を使って資金調達しようとすると困難な事態となります。母に判断能力がないため、配偶者居住権の消滅や、建物の賃貸による現金収入を得る方法などの法的契約能力がないとされてしまうリスクがあるためです。
4.まとめ
このように、配偶者居住権には、メリットもあれば、留意点もあります。実際に、その活用を考える場合は、専門家(行政書士も含まれます)のアドバイスを聴きながらお考えになるのがよいと思います。