■尊厳死宣言公正証書とは
「尊厳死宣言公正証書」は、公証人が本人の尊厳死に対する要望を聴取して、その結果を公正証書にするものです。
尊厳死とは、回復の見込みがない病におかされ、長期間にわたって植物状態が続くなどの場合に、生命維持装置などによる人為的な延命措置を拒み、人間として尊厳を保った自然な死を迎えることをいいます。
「尊厳死宣言」は、本人が自らの考えで尊厳死を望む、すなわち、延命措置を差し控え、中止する等の宣言をするものですが、客観性を高めるために、この宣言を公正証書とするのが妥当なのです。
■尊厳死宣言の内容例
尊厳死宣言の内容は、簡潔なものから詳細なものまでまちまちですが、基本的には以下の内容が多いようです。
「第1条 私【 】は、私が将来不治の病に罹って死期が迫り、又は高齢で死期が迫り、意識を失うような状態に陥ったり、たとえ呼びかけには応じても意識は朦朧としている状態になったり、又は意識はあっても自分の意思を伝えることができない状態で 、自分で身の回りのことができず、自分で飲むことも食べることもできなくなったりした場合等に備えて、私の家族及び私の医療に携わっている方々に以下の要望を宣言します。
1 私の疾病が現在の医学では不治の状態に陥り既に死期が迫っていると担当医を含む2名以上の医師により診断された場合には、死期を延ばすためだけの延命措置は一切行わないでください。
2 私が自分の力では水も飲めず、食べ物を食べられなくなったら、無理に飲ませたり、食べさせたり、点滴や栄養補給をしないでください。特に、死期を延ばすためだけに、鼻管チューブを入れたり、胃ろうを作ったりということは、絶対にしないでください。
3 しかし、私の苦しく見える状態を緩和していただける治療をしてくださるなら、最大限実施してください。そのために、麻薬などの副作用により死亡時期が早まったとしてもかまいません。
第2条 この証書の作成に当たっては、あらかじめ私の家族である次の者の了解を得ております。
妻 【 】 昭和 年 月 日生
長男 【 】 昭和 年 月 日生
長女 【 】 昭和 年 月 日生
私に前条記載の症状が発生したときは、医師も家族も私の意思に従い、私が人間としての尊厳を保った安らかな死を迎えることができるようご配慮ください。
第3条 私のこの宣言による要望を忠実に果たして下さる方々に深く感謝申し上げます。そして、その方々が私の要望に従ってされた行為の一切の責任は、私自身にあります。警察、検察の関係者におかれましては、私の家族や医師が私の意思に沿った行動を執ったことにより、これらの方々に対する犯罪捜査や訴追の対象とすることのないよう特にお願いします。
第4条 この宣言は、私の精神が健全な状態にあるときにしたものであります。したがって、私の精神が健全な状態にあるときに私自身が撤回しない限り、その効力は持続するものであることを明らかにしておきます。」
(複数の公開されている公証人役場の事例から作成しました。)
なお、日本尊厳死協会は、「終末期医療における事前指示書」という考え方(リビングウイル)を推奨しています。
⇒ 日本尊厳死協会HP https://songenshi-kyokai.or.jp/living-will
■尊厳死宣言公正証書の効力
●尊厳死宣言がある場合に、患者ご本人の意思が尊重されるべきものとはいえ、医療現場ではそれに必ず従わなければならないとまでは未だ考えられていません。また、過剰な延命治療に当たるか否かは医学的判断によらざるを得ないということもあります。したがって、尊厳死宣言公正証書を作成した場合にも、必ず尊厳死が実現するとは限りませんが、あるアンケートによれば「尊厳死の宣言書」を医師に示したことによる医師の尊厳死許容率は、近年は9割を超えているそうです。
また、厚労省も、平成30年に「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」を出し、「繰り返し話し合った内容をその都度文書にまとめておき、本人、家族等と医療・ケアチームで共有することの重要性について記載」としています。
厚労省⇒https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000197665.html
●したがって、尊厳死宣言公正証書がその本来の効果を十分に発揮するためには、以下の点が重要だと思います。
②ご家族がいる場合は、事前にご家族と十分に話し合ったうえで、作成する。
②信頼できる肉親などに尊厳死宣言公正証書をあらかじめ託しておく。
③尊厳死を迎える状況になる以前に、担当医師などに尊厳死宣言公正証書を示する。