生前6点セット「⑤死後事務委任契約」とは

65歳以上で一人暮らしの方は、2020年では約700万人(65歳以上の人口の18%)、2040年には約900万人(65歳以上の人口の24%)になると推計されています。亡くなった後の必要な手続きを「死後事務」と言いますが、今、身寄りがない高齢者などを対象に、この「死後事務」の依頼を法律手続きの専門家が生前に受ける「死後事務委任契約」や、サポートする自治体の取り組みが注目を集めています。

内閣府:令和元年版高齢社会白書より

死後事務とは

 「死後事務」とは、文字通り亡くなった後の事務手続きです。
 例えばお墓のことや関係機関への通知、行政への届け出などを「死後事務」として扱うというものです。これは資格が必要な制度ではありませんが、弁護士や司法書士、行政書士などが、生前に委任契約を結んで手続きを代わりに行うことが、比較的多いようです。

なお、似たような制度で「成年後見制度」や「遺言」もありますが、それぞれ役割は異なります。「後見制度」は、判断力が衰えてその人が亡くなるまでのサポートで、亡くなった時点で契約は終了します。「遺言」は死亡後に執行されますが、法的な効力があるのは財産などです。(なお、死後事務委任で、財産分割などの遺言事項は対応できません。)

家族がいる場合 

 家族や親族がいて、お墓のことなどについて、引き受けてくれるのであれば、専門家へ死後事務を委任する必要はありません。しかし、65歳以上の単身世帯は2040年には男女とも2割を超えると推計されます。

 いわゆる「お一人さま」あるいは高齢の夫婦で身寄りがない、あるいは遠い親戚には頼むことができない。そういう場合は、あらかじめ委任を検討してもいいのではないでしょうか。

【実際にあったケース】

 NHKの番組の事例ですが、高齢の夫婦2人で、先に亡くなった夫は自分の墓に入りましたが、後に一人暮らしになった妻が亡くなった時には、身寄りがなくどこに墓があるか誰もわかりませんでした。結局妻は自治体が火葬にして、無縁納骨堂に収められたということです。

(NHK 「知っていますか『死後事務委任』」(くらし☆解説))より

■どうしたらいいか。

 まずは、遠い親戚でも、死後の事務を引き受けてくれる人がいれば、事前に希望を伝えておくのが一番でしょう。それがいない場合、先ほど述べた弁護士などのほかに税理士、行政書士、NPOや企業、一部の社会福祉法人(注)など、ご自分が信頼できる相手に、死後事務の委任をすることが考えられます。

(注)一部の社会福祉協議会によっては、事前に預託金を預かることにより、万が一の際の葬儀や家財処分などのサービスを実施するところもあるようです。

また、死後事務委任契約の契約は、当事者間でもできますが、第三者が実際に死後事務手続きを行う際に、他の相続人とのトラブル回避や、役所での手続きをスムーズに進めるためには、公正証書にするのが適切であると思います。

■死後事務委任契約の内容

専門家へ委任する場合は、ご本人が委任者として、専門家(個人、法人を含む。)に対して、亡くなった後の諸手続、葬儀、納骨、埋葬に関する事務等に関する代理権を付与して、死後事務を委任する形となります。

なお、法律的には、委任契約の委任者が死亡した場合、委任契約は終了するとされています(民法653条1号)ので、「死後事務などの委任ができるのか?」という疑問もわきますが、「この規定は任意規定であり、委任者が受任者との間でした自己の死後の事務を含めた法律行為などの委任契約については、委任者が死亡しても終了しない」という判例があるので大丈夫です。(最高裁平成4年9月22日)。

【死後事務の内容 例】

① 医療費の支払いに関する事務
② 家賃・地代・管理費等の支払いと敷金・保証金等の支払いに関する事務
③ 老人ホーム等の施設利用料の支払いと入居一時金等の受領に関する事務
④ 通夜、告別式、火葬、納骨、埋葬に関する事務
⑤ 永代供養に関する事務
⑥ 相続財産管理人の選任申立手続に関する事務
⑦ 賃借建物明渡しに関する事務
⑧ 行政官庁等への諸届け事務

亡くなった後の手続きは、これまでは残された家族が行うことが一般的でした。しかし、少子高齢化が進み、最後は単身世帯になる状況が増えています。信頼できる誰かにきちんと希望を伝えておかなければ、自分の望む最期を迎えることができないおそれがある時代になりました。

今後は、後見制度や遺言などと合わせて、この「死後事務委任」をセットで依頼することも増えてくると思います。