生前6点セット「④任意後見契約」とは

■誰しも、年齢とともに判断能力が不十分となり、悪質な商法に引っかかったり、財産管理や契約が単独ではできなくなってしますのではないかという恐れを感じることがあるのではないでしょうか。

■任意後見契約とは、このような場合に備えるために、自分が元気なうちに、自分が信頼できる人を見つけて、その人との間で、もし自分が老いて判断能力が衰えてきた場合等には、自分に代わって、財産管理や必要な契約締結等をしてくださいとお願いしてこれを引き受けてもらう契約です。任意後見契約は、将来の老いの不安に備えた「老い支度」ないしは「老後の安心設計」であると言われています。

■もちろん、認知症等による判断能力が低下しないまま大往生を遂げた場合は、任意後見契約は必要なかったことになり、任意後見契約書の作成費用は無駄になってしまいすが、それは、むしろ幸せなことでしょう。任意後見契約によって得られる老後の安心と比べれば、無視できるような金額の保険料です。備えあれば憂いなしです。

■任意後見契約は、高齢化社会のニーズを受けて、平成11年に成立した法律によって、内容について以下のような決まりがあります。

「任意後見契約に関する法律」(衆議院HPより)

【主なルール】

・任意後見契約は公正証書によってしなければなりません。

・任意後見契約は、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力が生じます。任意後見人は、この時から,任意後見契約で委任された事務を本人に代わって行います。

・任意後見人となる方は、本人の判断能力が低下した場合には、速やかに任意後見監督人の選任の申立てをすることが求められます。

・任意後見監督人の役割は、任意後見人が任意後見契約の内容どおり、適正に仕事をしているかを、任意後見人から財産目録などを提 出させるなどして監督することです。また、本人と任意後見人の利益が相反する法律行為を行うときに、任意後見監督人が本人を代理します。任意後見監督人はその事務について家庭裁判所に報告するなどして、家庭裁判所の監督を受けることになります。

・任意後見監督人は、家庭裁判所によって選任されますが、その役割等から、本人の親族等ではなく、第三者(弁護士、司法書士や行政書士、社会福祉士等の専門職や法律、福祉に関わる法人など)が選ばれることが多くなっています。なお、任意後見人となる方や、その近い親族(任意後見人となる方の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹)等は任意後見監督人にはなれません。

■ 任意後見契約を利用した例 (法務省HPから引用)

・本人の状況:脳梗塞による認知症の症状
・任意後見人:長女
・任意後見監督人:弁護士
・概要
本人は、記憶力や体力に衰えを感じ始めたことなどから、将来に備えて、できる限り自宅で生活を続けたいといった生活に関す
る希望などを伝えた上で、長女との間で任意後見契約を結びました。その数か月後、本人は脳梗塞で倒れ、左半身が麻痺するとと
もに、認知症の症状も現れました。そのため、任意後見契約の相手方である長女が任意後見監督人選任の審判を申し立て、家庭裁
判所の審理を経て、弁護士が任意後見監督人に選任されました。
長女は、任意後見人として、事前に把握していた本人の意向を尊重し、本人が在宅で福祉サービスを受けられるようにしました。

■任意後見契約の公正証書が作成されたときに、家庭裁判所又は公証人からの嘱託によって登記されます。登記される事項は、下記のとおりです。

【任意後見監督人の選任前】
本人、任意後見受任者、代理権の範囲

【任意後見監督人の選任後】
本人、任意後見人、任意後見監督人、代理権の範囲

■任意後見人に報酬を支払うか否かは、本人と任意後見人になることを引き受けた者との話し合いで決めることになります。一般的には、任意後見人を、第三者に依頼した場合には、報酬を支払うのが普通ですが、身内の者が引き受けた場合には、無報酬の場合が多いです。

■任意後見契約を結ぶ際に必要な書類は、以下のとおりです。

【本人について】
印鑑登録証明書(又は運転免許証等の顔写真付身分証明書)、戸籍謄本、住民票

【任意後見受任者について】
印鑑登録証明書(又は運転免許証等の顔写真付身分証明書)、住民票
(留意事項)印鑑登録証明書、戸籍謄本、住民票は、発行後3か月以内のものに限ります。

■本人の判断能力が衰えている場合に任意後見契約を結べるかですが・・・、補助や保佐の対象となり得る者であっても、判断能力の衰えの程度が軽く、まだ契約締結の能力があると判断されれば、任意後見契約を締結することができます。

本人に、契約締結の能力があるかどうかは、医師の診断書、関係者の供述等を参考にして、公証人が慎重に判断して決めます。

しかし、任意後見契約は、本来は、ご本人が元気で、しっかりしているうちに、自ら、将来の事態に備えて、自分が一番信頼できる人を自分の目で選び、その人とあらかじめ契約をして準備しておくというもので、既に認知症の症状が出てきた場合には、むしろ、法定後見の制度(注)を利用した方が無難と考えられます。

(注)家庭裁判所に、法定後見の申立てをして、鑑定及び調査の結果認められた判断能力の不十分さの程度に応じて、後見、保佐、補助等の開始の審判を受け、それに対応して家庭裁判所で選任された後見人、保佐人、補助人がその事務を処理することになります。