■親の成年後見人である子供が親の財産を無断で使った場合「業務上横領」に当たります。
■高齢者の財産管理は相続トラブルになることが多いので、親子間であっても「財産管理等委任契約」が必要です。
■そのうえで、将来の相続トラブルを避けるために、親に代わって預貯金や現金を出し入れした場合は、その都度、金額や使途をメモしておき、領収書等を保管しておくとよいでしょう。
1.成年後見人が、親の財産を無断で使えば「業務上横領」となります。
2002年に最高裁は、親の成年後見人である子供が親の財産を無断で使った場合「業務上横領」に当たるとしました。
最高裁判例⇒https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=82627
刑法では、認知症等で財産管理が出来ない親族の財産を管理する者が、その財産を自己のために処分すれば横領罪が成立します。もっとも、配偶者、直系血族、同居の親族である場合は刑が免除され、それ以外の親族は告訴がなければ公訴を提起できないことになっています(刑法244条 もちろん民事上の責任を免れることはできません。)。
この最高裁判例では、成年後見人が横領を行った場合は、もはや、親族間の犯罪とは言えないと判断したのです。
その理由としては、以下のような判断があったと解釈されています。
①横領罪は所有権その他の本権のみならず、信頼関係害さないことも保護法益としている。
②後見人は家庭裁判所によって選任され被後見人の財産を管理処分し、これについて報告するなど、家庭裁判所との間の信頼関係が成立している。
③たとえ親族間の横領であっても、後見人は家庭裁判所への信頼関係を破壊している。
④よって、もはや親族間の犯罪とは言えず、免除等は認められない。
2.「財産管理等委任契約」の内容
このような、トラブルを避けるためには、たとえ親子間であっても、「財産管理等委任契約」を締結しておきましょう。
本人が、病気や寝たきりとなって、銀行や役所などに行けない時、子供が代理を行うためには、その都度、委任状の作成が必要ですが、毎回毎回、委任状を作成するのは、煩雑です。そこで、手続き全般について、予め当事者間で代理権の目録を作って「財産管理等委任契約」を締結しておけば、第三者にも有効な包括的な委任状としての役割を果たしてくれるのです。
この契約の形式は自由ですが、それほど費用も掛からないので公正証書にしておくことが安心です。
財産管理等委任契約の内容ですが、大別すると「財産管理に係る事項」と「療養看護に係る事項」です。
「財産管理に係る事項」は、銀行・証券会社・保険会社との取引、役所の手続き、日常生活全般に係ることです。
「療養看護に係る事項」は、医療・介護、施設の手続き、要介護の申請等に係ることです。
契約の方法としては、契約本文と別紙の構成にし、本文契約では、趣旨と委任事務の範囲は別紙で定めることを明示します。
●趣旨
「Aさんは、現在、自宅において何不自由なく暮らしていますが、将来の判断能力の低下や車椅子生活・寝たきり状態・手が不自由で文字が書けないなどの事由により、預貯金の払戻しや印鑑証明書・戸籍謄本の取得などが困難になる状態に備え、Bさんに対し、本日以降、Aさんの生活、療養看護及び財産の管理に関する事務(以下 「委任事務」と 、いいます )を委任し、法律上の正式な代理権を与 えるものです。」
●委任事務の範囲
Aさんは、Bさんに対し、 「別紙代理権目録(委任契約 」に記載してある委任事務(以下 「本件委任事務」といいます。 )を委任し、Bさんにその事務処理のための代理権を与えます。
別紙では、委任する事項を具体的に列記します。
【例】代理権目録(委任契約)
1 不動産、動産等すべての財産の管理、保存。
2 ○○銀行○○支店、○○信用金庫○○支店、○○農業協同組合○○支店、その他の金融機関の委任者名義の預貯金に関する払戻し、預入れ、口座開設、振込依頼、解約、その他すべての取引。
3 家賃、地代、年金その他の社会保険給付等定期的な収入の受領、家賃、地代、公共料金等定期的な支出を要する費用の支払並びにこれらに関する諸手続等一切の事項。
4 生活に必要な送金及び物品の購入等に関する一切の事項。
5 保険契約の締結、変更、解除、保険料の支払、保険金の受領等保険契約に関する一切の事項。
6 登記の申請、供託の申請、住民票、戸籍事項証明書、登記事項証明書の請求、税金の申告・納付等行政機関に対する一 切の申請、請求、申告、支払等 。
7 医療契約、入院契約、介護契約、施設入所契約その他の福祉サービス利用契約等、委任者の身上監護に関する一切の契約の締結、変更、解除、費用の支払等一切の事項。
8 要介護認定の申請及び認定に対する承認又は審査請求に関する一切の事項。
(上記の契約例は、美濃加茂公証人役場のHPの掲示情報を参考にさせていただきました。)
3.財産管理等委任契約の注意事項
財産管理等委任契約は、他の制度(成年後見制度等)に比べれば社会的信用や認知度という観点では劣るとも言われています。また、公的監督者がいないため、チェックが難しいことや、成年後見制度のような取消権はないことも注意が必要です。
また、銀行によっては、「財産管理等委任契約」の取り扱い事例が少ないところもあるので、いざ、代理人の子供だけで銀行に行くと、窓口が戸惑うこともあるようです。なので、予め、親子で事情を説明に訪問しておくと、その後がスムーズなようです。