高齢化社会が進む中で、高齢者が増える事が地域の負担ではなく、むしろ資産(アセット)としてとらえようという動きがあります。この考え方をアセット・ベースド・アプローチといいます。
ネットでも読める「令和2年版 高齢者社会白書」では、
「日本の高齢化率は30%に近づき、高齢者は「支えられる人」ではなく可能なかぎり支える側に立って活躍することが求められている。同様に、海外においても支えられる側から地域に参加してその地域を活性化する役割を担う高齢者が増えている。その基本的な考え方はアセットベースト・アプローチ(自分と地域の資源を活用する方法)であり、自分自身の持てる力(資源)と地域にある社会的資源を生かして力強いコミュニティを作っていく動きが広まっている。」
という記述があります。
さらに(VOL. 18 NO. 3 2014 j WORKING WITH OLDER PEOPLE)では、
「asset-based community development (ABCD)」という手法が「高齢者層が、主体的に、地域を変革して、地域をすべての世代にとって、より良い場所にするアプローチ(頭文字をとってABCDと略す))」であるという記述があります。
アセットベースト・アプローチとは
Asset-based community development (ABCD)を、調べてみると、例えば、一般財団法人長寿社会開発センターのHPでは、「制度やサービス、地域の中心にいるのは「本人」である。本人・地域のポジティブな側面に焦点をあて、国と市民、専門職と利用者、ヘルスとケアの新しい関係を築いて、健康&Well-beingを向上させていこうとするのが「アセットベースト・アプローチ」である。」と説明されていました。
個人の力量やスキル・人脈というような個人の資産(アセット)だけでなく、地域の側にある図書館などの地域の施設、ケア体制のよう地域のソフト面も、アセットととらえようという考え方かと思います。
先のVOL. 18 NO. 3 2014 j WORKING WITH OLDER PEOPLEでは、「まずは、地域の問題点に目を向けるのでなく、ポジティブに、地域にどのようなアセット(図書館、集会場等々)があるかをリストアップしてみると、ほとんどの人が驚くほど、自分たちが知らないアセットが地域にあることに気づく」。それでは、どうしたら、高齢者が自分の能力(アセット)で地域に貢献できるかを聞いてみると、多くの人が「自分に人より優れた能力はない」というところから始まるのだそうです。
しかし、だれでも、地域に貢献できる何物をかをもっているものであり、地域のアセットと個人のアセットが組み合わさったときに、高齢者にとっても、他の世代の方にとっても地域はより良い場所になるという趣旨のようです。
このような、考え方は、”地域貢献”とか”高齢者ボランティア”とか、日本でも広くあるものではないかと思いますので、欧米の最近の考え方だからと言って、まったく新しいものではないのではないかと思います。
それでも、定年後の地域への貢献や、高齢にとってからでも生き生きと暮らすための知恵として、参考になるものと思いますので、今後も関心をもって情報収集したい分野と思います。
生きがいの指針として
自分自身のことを考えても、アセットベースト・アプローチで、高齢者の生活満足の向上を目指す場合、大事なのは、なるべく長く自宅で元気に活動できる期間を延ばすことかと思います。
冒頭の「令和2年版 高齢者社会白書」では、海外の例として
①英国公衆衛生庁ではコミュニティを公衆衛生の中心に置くことは健康格差を減らし、人々が自分の人生と健康についてより大きな発言権を持つように力を与え、健康弱者の参加を促し、絆があり回復力のある共生的なコミュニティを作ることとなるとして地域活動を強く推奨している。
②オーストラリアでも保健省ができるだけ長く在宅生活を続けることを提唱している。
と紹介し、「海外では充実した地域生活のための活動と介護予防・孤立防止のための政策とがますます密接な関係を持ちつつある。日本で進められている地域づくりにとっても参考になる動きである。」と結論付けしています。
ただし、批判もある
Asset-based approaches, older people and social care: an analysis and critique(Published online by Cambridge University Press: 28 March 2017)では、アセットベースドアプローチへの批判も見られます。その趣旨は趣旨は「理論化が不十分で経験的証拠が不足しているという意味で、アセットベースのアプローチは「期待されすぎている」」というものです。
高齢者個人や地域とのつながりをアセットとみる
ちなみに、今話題のAI「チャットGTP」に聞くとこのような文章が生成されます。
「アセットベースドアプローチ(Asset-Based Approach)は、高齢者支援策の一つであり、地域の高齢者の能力や資源に焦点を当てる考え方です。このアプローチは、高齢者を単なる需要者や受け手ではなく、地域の資産やリソースの提供者として位置づけることを目的としています。
アセットベースドアプローチでは、高齢者の持つ能力、知識、経験、関係性などを「資産(アセット)」と捉えます。高齢者が自らの資産を活かし、地域社会に参加し、貢献することで、彼ら自身の生活の質や幸福感を向上させることを目指します。
このアプローチの基本的な考え方は、以下のような特徴を持っています:
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能力志向性(Asset-Based): 高齢者の能力や資源に注目し、それらを支援の基盤として活用することを重視します。高齢者の経験や知識、技能を活かし、地域社会の課題解決やサービス提供に貢献できるような環境づくりが求められます。
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参加と共同性: 地域社会への参加を促し、高齢者が自己の役割や貢献を発揮できるような機会を創出します。高齢者自身が関与し、地域の活動やイベントに参加することで、社会的なつながりや自己実現感を深めることが期待されます。
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ネットワークの活用: アセットベースドアプローチでは、地域内のリソースやネットワークを活用することが重要です。地域の組織や団体、個人との連携を通じて、高齢者のニーズや資産を支援するための仕組みを構築します。
アセットベースドアプローチは、従来の高齢者支援の枠組みとは異なり、高齢者の能力や資源にフォーカスし、彼ら自身の主体性と尊厳を尊重するアプローチです。」
昔から「年をとっても何かの役割を担うことが生きがいになる」という考え方に通じるもので分かりやすいですね。
最後に
英国のような、ボランティアが根付いていて個人の自覚のしっかりした国でも、アセット・ベーストアプローチは、徐々に進んできているということは面白いなと思います。
これは行政側の政策の問題ではなく、高齢期になっても自分自身が生き生きと生きるガイドラインとして考えると、役に立つ考え方ではないでしょうか。
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