親子や兄弟で共有名義になっている不動産は、相続が発生する前に共有関係を解消しておくべきといえます。一見すると問題なく見える共有名義ですが、相続後にトラブルの種になることが少なくありません。
例えば、親が相続税対策になると考えて、親所有のマンションの50%の共有持分を子供に譲渡した場合を考えます。その管理費支払い、固定資産支払いも50%子供が負担してくれるでしょうか?もし、将来、親が経済的に困窮する事態になったとき、どうなるでしょう。
マンションが共有となる原因
マンションが共有となるにはいくつかの原因があります。
1.親所有のマンションの共有持ち分を子供や孫に譲渡する場合
親が相続税対策として、子供や孫に自分の所有するマンションの共有持ち分を譲渡することがあります。生前贈与とすれば、110万円の基礎控除と、相続時精算課税の選択などのメリットがあるからです(とはいえ、相続時精算課税は、相続税の先延ばしですが)。また、共有とすることで、親も全くマンションを手放すことはないので、安心感もあるかもしれません。
2.夫婦や親子がマンションを共有で購入する場合
購入者が2人となることで、それぞれが住宅ローンを使えます。また、住宅ローン金利の所得税控除も、借り手それぞれが使えますので、一人で買うよりは有利になる場合があります。
3.親のマンションを兄弟が共有で相続する場合
親所有のマンションを相続する場合、とりあえず、子供の相続割合で共有しようかという遺産分割協議が成立することがあります。
4.いわゆる「おしどり贈与」の場合
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、贈与税の申告をすることにより基礎控除額110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できるという特例があります(国税庁 No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除)。この特例を使って、夫名義のマンションを妻との共有にすることもあります。
マンション共有の問題点
マンション共有の問題点は以下の通りです。
1.不動産の活用・売却が困難
所有者は自由にその所有物を処分する権利を有します(民法206条)ので、共有であっても自分の持分だけは自由に売却可能です(買いたい人がいれば・・ですが)。
しかし共有不動産全体は、共有者全員の同意がなければ活用や売却ができません。たとえば、マンション一室の売却や賃貸運用をしたい場合でも、1人でも反対する共有者がいれば手続きは進められないのです。
2.固定資産税の負担とリスク
不動産の共有者は、共有持分に応じて固定資産税を負担する必要があります。納税通知書は代表者に送付されますが、共有者の誰かが税金を支払わない場合、その分を他の共有者が立て替える必要があります。
例えば、共有者である子供が税金を支払わなければ、共有者である親がその分を支払う義務を負う可能性があります。この場合、立て替えた金額は後からBに請求することができますが、支払いを巡って争いになるケースも多いです。
3. 管理費用の請求と不可分債務の問題
マンションなどの共有不動産の場合、管理組合への管理費や修繕費の支払いも問題となります。
例えば、親と子が1/2ずつの持分でマンションを共有している場合、管理組合は次のような対応が考えられます。
・分割債務の場合:AとBそれぞれに1/2ずつの負担を請求
・不可分債務の場合:AとBそれぞれに全額を請求
東京地裁や東京高裁の判例では、管理費等の支払債務はマンションの共用部分の維持管理という不可分な利益の対価であることから、「不可分債務」に該当するとされています。そのため、管理組合はAとBそれぞれに対して全額を請求できるという扱いになります。
このように、共有名義では管理費用の負担が複雑化するだけでなく、支払いトラブルが生じるリスクも高まります。
4.共有者の死亡リスク
共有者の1人が亡くなると、その持分が相続され、共有者が増えることになります。こうした状況では、意見の対立が起こりやすくなり、不動産の活用や売却がより一層難しくなる可能性があります。
共有名義を解消するための解決策
1. 生前贈与で所有権を一本化
親子で不動産を共有している場合、親の持分を生前贈与することで、子どもに所有権を一本化する方法があります。生前贈与には贈与税が発生する可能性があるため、事前に税理士や専門家に相談し、税負担を軽減する対策を検討することが重要です。
2. 単独名義への変更
共有者の間で話し合い、誰か一人の名義に変更する方法もあります。この場合、共有者間で買い取り金額を設定し、名義変更を進めます。名義変更に伴う費用や税金も考慮しながら進める必要があります。
3. 遺言書の作成
相続が発生する場合に備えて、遺言書を作成し、不動産の分割方法を明確にしておくことも有効です。ただし、共有状態を継続する内容の遺言はトラブルの原因となることがあるため、できるだけ単独名義に集約する方向で検討するのが望ましいでしょう。