家族信託のデメリット / 杉並区の行政書士が解説

家族信託にはどのようなデメリットがあるでしょうか。杉並区の行政書士が解説します。

1. 初期コストがかかる。

家族信託を始めるには、専門家の報酬や公正証書作成費用、登録免許税などの実費を合計し合計30万円~100万円程度の初期コストがかかります。
 (もっとも、家族信託は、初期コストはかかりますが、家族信託の基本型では、成年後見制度(毎年24万円程度の専門家報酬が、本人死亡まで必要)のようにランニングコストはかかりません。)

2. 身上監護はできない

家族信託でできることは、財産の管理を信託することです。このため、身上監護が家族信託ではできないということが、家族信託のデメリットとされることがあります。

具体的には、介護施設への入居手続きや、介護保険の請求手続きのような「身上監護」は、家族信託ではできないので、「身上監護」をすることのできる任意後見契約も締結しておいた方が良いというような説明をよく見かけます。

たしかに、認知症になった親の施設の入居契約を締結する際に、施設が「契約が無効になるリスクがあるので、成年後見人を選定して欲しい」という可能性はあります。

(当然のことながら、介護施設は、高齢者本人に意思能力があるか疑わしく、成年後見人等の法定代理人もいない場合には、本人の意思能力について慎重に検討する必要があると考えます。)

実際上は、もともと家族には扶養義務があります(民法752条、877条①)ので、特に約定はなくても、老親の世話をすることは可能なはずです。

【民法の規定】
第752条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
第877条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。

ですので、通常の、こまごまとした手続き代行を家族が行うのは、当然のことと周囲も見ますので、特段のデメリットとは言えないはずなのですが・・。法的リスクから、施設が上記のような主張をするとすれば、対策(任意後見人制度の利用)を予め、考えるべきという結論が正しいと思います。

ただ、法定後見人制度を施設に入居するためだけに利用するは、コストも時間もかかります上に、本人が亡くなるまでやめることもできなくなりますので、現実的ではありません。完全にご本人の意思能力が亡くならないうちに、対応しておく(この段階であれば、代行契約も可能でしょう)ことが必要ですね。

3. 信託に入れにくい財産がある

〇株式・債券  
銀行は、信託専用口座を認めるところが、徐々に増えてきましたが、証券会社では、信託に対応している会社は少ないようです。
〇借地
信託する場合、貸主の同意を得る必要があります。
〇住宅ローンが残っている自宅
抵当権者の銀行や保証会社が同意する必要があります。また、住宅ローン契約の書き換えが必要になりますので、現実的には難しいと思われます。

4. 長期にわたり家族を拘束することも

家族信託では、遺言にはできない、受益者を連続して指定する「跡継ぎ遺贈型の受益者連続型」が可能です。これは、家族信託の大金メリットですが、同時に、将来の財産管理や受益者を先の先まで決めてしまうことが、常に妥当なのだろうかという問題は残ります。

信託法上は最長30年までの受益権者を指定できます(91条)。30年時点で存在する受益権者が生存する限り、家族信託は続くことになります。家族信託で設計した家族の形が100年近く存続することになります。果たして、それほど長い期間、適切な資質のある受託者を家族内で次々と確保できるのかも、家族会議で十分に考える必要があります。

5. 節税効果は期待できない

家族信託という仕組み自体に、節税効果はありません。税務では、利益が帰するところに課税するのが原則です(実質所得者課税の原則)。したがって、税務上は、受益権を持つものに課税されます(受益者等課税信託⇒法令解釈通達)。
このため、家族信託は、契約時には委託者(例えば父)=受益者(例えば父)、委託者=子ども、という関係でスタートすることが多いので、家族信託の前と後で、父が支払う税額は変わりません。

もし、当初から、委託者=父、受益者=母という信託設計であれば、母に贈与税が課税されます。ただし、20年以上連れ添った配偶者への自宅の贈与は、110万円の基礎控除に加え、最高2,000万円まで控除(配偶者控除)が使えます。

父の死によって、受益権者が母に移転する信託設計であれば、母に相続税が課税されますが、配偶者の税額の軽減(「1億6千万円」か「配偶者の法定相続分相当額」のどちらか多いほう)があります。

繰り返しになりますが、これらの特典は、家族信託による受益権の移転であろうと、贈与、相続であろうと同じことです。

6. 損益通算ができなくなる(受益者が個人の場合)

受益者が個人の場合、アパートなどの収益物件を信託した場合には、信託しなければできた「損益通算」ができなくなります。税法上、信託した不動産から生じた損失は不動産所得の計算上、損失は計算上なかったものとされるためです(租税特別措置法41条の4の2第1項)。

受益者が法人の場合は、信託から生じた損失も、一定範囲で損金となります。

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