遺言信託と家族信託の違い/杉並区の行政書士が解説

最近、信託銀行の相続・遺言に関するサービスのCMをよく目にします。このうち、信託銀行の代表的サービスの「遺言信託」とはどのようなものでしょうか。家族信託との違いは何でしょうか。杉並区の行政書士が解説します。

(注)信託法3条柱書2号で「特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法」とされているものも「遺言信託」と言いますが、本稿では、信託銀行の商品である「遺言信託」を「遺言信託」としています。

信託銀行の遺言信託とは

信託銀行の行う遺言信託は、意外なことに、法律的な信託ではありません。信託銀行が、顧客の公正証書遺言の作成をサポートし、保管し、相続開始とともに、信託銀行が遺言執行者に就任するサービスです。

費用はどれくらいかかるのでしょうか。某信託銀行のHPの料金表を参考にさせてもらって、下記ケースで試算してみました。

【前提】
・作成する遺言 公正証書遺言
・資産     不動産(固定資産評価)5000万円
        預金 3000万円(自行預り)
        株式 3000万円(他金融機関預り)
・手数料
①基本手数料   330,000円
②遺言保管料   年間6,600円
③遺言書変更時  55,000円
④遺言執行時   最低1,100,000円 

料金表を見て、④を上記資産で計算すると、概ね186万円程度になるようです。

不動産(固定資産評価)5000万円×2.2%=110万円、預金 3000万円(自行預り)×0.33%=9.9万円、株式 3000万円(他金融機関預り)×2.2%=66万円 計185.9万円 

①~④を合計すると、219万円+6,600円×保管期間となります。

どう考えるべきか

このサービスと金額をどう考えるかですが、良い点として、次のような点は言えるかと思います。

1.遺言を公正証書にするため、法的に無効になるリスクが少ない。
2.作成、保管、執行まで銀行が関与してくれるので、安心である。特に、相談したり遺言執行者を頼める家族がいない方などには頼もしいサービスと思われます。

一方で、考慮点として、次のような点も言えるかと思います。

1.遺言作成には、身近に弁護士・司法書士・行政書士など多くの専門家が存在していること。
2.遺言執行者は身内に適当な方がいれば、無報酬でも引きけてくれる可能性が多いこと。
3.遺言書保管については、公正証書遺言は無料で、公証人役場で保管してくれること、自筆証書遺言は、法務局で数千円の手数料で保管してくれること。
4.遺言だけでは、生前の老後問題・介護問題の解決に役立たないこと。超長寿化社会では、遺言を考える前に、老後や介護時の生活なども含め、ライフプランを家族で話し合っておくことも大切な場合があること。

なお、銀行は遺留分を侵害する遺言書作成はサポート対象外とすると思われます。遺留分を侵害された法定相続人から遺留分減殺請求を受ける可能性やトラブルを恐れての制限です。ただ、妻の生活維持を重視する等の理由で、子も納得の上、結果として子の遺留分を侵害する遺言作成もあり得ます。現実の家族の形に合わせて様々な遺言を考える場合には、小々窮屈なしばりかもしれません。

家族信託との比較

「遺言信託」と「家族信託」は言葉は似ています。しかし、前者は、遺言書の作成・保管・遺言執行のサービス業務のため、死後の財産処分のみが対象です。一方、家族信託の主な目的は、生前の老後・介護時期を安心に過ごす目的が主であるという点が異なります。

また、家族信託では、委託者と受託者の契約によって、遺言より柔軟に死後の財産処分を指示できます。柔軟である例としては、1点目として、遺言のような厳格な様式や要件はないこと、2点目として、受益権を得る受益者を何代も指定できること(限度30年*)です。

*信託法91条 信託設定以後30年経過した時点における受益者が指定した次の受益者が最終の受益者となり、それ以降の受益者連続は認められない

家族信託のコストですが、資産総額にもよりますが、金銭債権と不動産を対象に、家族信託を組む初期コストは、相場で50万円~100万円と言われます。下記の比較表を参照ください。

まとめ

まとめて言えば、家族信託=生前の財産管理+死後の財産処分(次世代のみならず、次々世代の指定も可能)であるため、遺言信託(実態は公正証書遺言)よりも、カバー範囲が広い仕組みであるということが言えます。

比較表を作成しました。

◆比較表◆ 私案
遺言信託(信託銀行の商品) 家族信託
概要 ・信託銀行で遺言を作成し、保管してもらい、信託銀行に遺言執行者となってもらう仕組み。機能としては、遺言書以上のことはできない。
・信託銀行は、所定の手数料を得て、下記の3業務を引受ける。
①公正証書遺言の作成サポート業務
②公正証書遺言の保管業務
③遺言執行業務
・自分の老後や介護時に備え、保有する不動産や預貯金などを信頼できる家族に託し、管理・処分を任せる財産管理の方法のこと。
・遺言書以上に幅広い遺産の承継が可能であるほか、信頼できる身内に財産の管理を託すため、高額な報酬が発生しない特長がある。
家族会議 原則不要。
事前の家族会議はしてもよいが、遺言自体は単独でもできる。
原則必要。
委託者・受益者・受託者、信託の目的等、委託者死亡時の扱いなどを、決めるので、通常は家族会議でプランの共有化をする必要あり。
老後生活の安心効果(認知症対策等) × (遺言だけでは、生前の認知症対策にならない) 〇(老後や介護時の財産管理を託す仕組み)
死後の財産処分 〇 (民法の定める厳格な要件に合致していることが必要。) 〇 (遺言内容を、信託契約に書き込むことで、遺言書機能を兼ねる。また、委託者と受託者の契約であるので、遺言書作成のような厳格な要件は不要となる)
後継ぎ遺贈(受遺者死亡後の受遺者の指定 できない。 〇 受益者の死亡により、順次他の者が受益権を取得する旨の定めのある信託契約とすることができる(後継ぎ遺贈型受益者連続信託)。期間制限あり。
遺留分を侵害する遺言 △(遺留分を侵害する遺言は銀行内規で受託しない場合あり) 〇(家族会議を開いた結論として、遺言者の意思尊重。ただし、相続人から遺留分侵害額の請求は起こり得る。)
財産の受取人 ①相続人
②相続人以外の第三者
③寄付先
①相続人
②相続人以外の第三者
③寄付先
契約の効力 ・委託者(遺言者)の死亡により効力有効
・遺言内容に相続人全員が納得できなければ遺言の内容を実行せずに撤回できる。
原則は信託契約締結時から有効となる。ただし、停止条件、始期をつけられる。
費用 手数料例(MS信託HPより)

①遺言書の作成  330,000円  
②遺言書保管料 年間6,600円 
③遺言書の変更  55,000円
④遺言の執行時 
   MS信託への預け資産 0.33%
   上記以外       2.20%~

【初期コスト(標準的ケース)】相場50~100万円
・信託契約公正証書の作成手数料 3万~10数万円
・(信託財産に不動産がある場合) 
⇒登録免許税 不動産固定資産評価額×0.4%
⇒司法書士報酬 実費 
・家族信託設計専門家相談料 数十万円~

【ランニングコスト】
・受託者が家族の場合 任意。無報酬のケースも多い。家族なので高額報酬は不要。

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