信託契約受託者交代 杉並区 | 行政書士中村光男事務所

サッカーの試合では、主審がケガなどで退場するリスクに備えて、第4の審判という方が控えています。

これと同様に、家族信託の信託契約では、受託者が死亡などで空席となるリスクを避けるために、当初受託者に加えて、予備的に後継の受託者を指定することが多く行われます。

受益者の安心な老後を目的にしている家族信託ですから、受益者の資産管理を行う受託者が、病気や死亡により、受託者としての役割を果せなくなったために受託者が空席となる事態は避けなければならないからです。

さて、当初受託者から第二受託者に受託者が変更される場合、契約上はどのような手当てが必要でしょうか。杉並区の行政書士が解説します。

実際の信託契約の条項例

後継受託者(予備的受託者とか第二受託者とも言います)を定める、信託契約の条項例は以下のようなものです。

(受託者)

第6条 本信託の当初受託者は、次の者である。

住    所             〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
氏   名             〇〇 〇〇(例 委託者の長男)
生年月日             〇〇○○年〇〇月〇〇日

 2 当初受託者が死亡し、もしくはまたは 法令 により受託者の任務を終了した時は、次の者を後継の受託者に指定するものとする。

住   所           〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
    名           〇〇 〇〇(例 委託者の次男)
生年月日           ○○○○年○○月〇〇日

2つの疑問

このとき、疑問になるのが、①予備的な受託者も予め、当初の信託契約の当事者としてサインしておくべきか?②信託契約に従って、当初の受託者から予備的な受託者に変更する場合に、信託契約を結び直す必要があるか?です。 

⓵予備的な受託者も予め、当初の信託契約の当事者として調印しておくべきか?

 これについては、応えは、「第二受託者が調印者に加わる必要はない」です。

なぜなら、上記の文章でも分かるように、信託契約上の記載は「○○を後継の受託者に指定するものとする。」としているだけですので、指定された後継受託者は、将来指定されたときに、その任務を引き受けるか否かを意思表示すればいいのであって、今から当事者として調印する必要ないのです。

 ②信託契約に従って、当初の受託者から予備的な受託者に変更する場合に、信託契約を結び直す必要があるか?

 答えは、「新たに信託契約を結び直す必要はない」です。

 その理由ですが、信託契約で後継受託者となるべき方が指定されているので、当初受託者の方の任務が終了した時点で、その指定された方が受託者となることを承諾すれば、その方に受託者としての地位が承継されることになるためです。

信託契約に後継受託者の記載がない場合は?
〇信託契約で後継受託者となるべき方が指定されていない場合でも、信託の受託者を交代させる(受託者の更迭)ことは、当事者間の合意で可能です。

〇受託者が任務を継続できないと判断される場合や、不測の事態が起こった場合などに、受託者を交代させることがあります。
この場合は、受託者を交代させるには、受益者(委託者)、現受託者、新受託者の三者間契約(受託者変更契約)を締結します。

口座名義と登記の変更は?

 なお、受託者が交代する場合は、信託専用口座の名義の変更、信託財産に不動産がある場合の受託者の登記の変更等の手続きは別途必要となります。

口座名義の変更

⓵ 信託専用口座(受託者名義の個人口座)の場合

信託専用口座
信託専用口座とは、受託者個人名義で新しく普通口座を開設することをいいます。この口座は、受託者個人の口座であることから、口座名義は受託者の名前が載るだけで通帳を見るだけでは信託財産とは判別できません。

 

信託専用口座を開設し、信託契約で信託金銭を管理する口座とすることは、実務上は、一般的なケースです。この方法は、対応できる銀行が多いので取り組みやすい方法ですが、デメリットは、委託者(受益者)より先に受託者が死亡した場合、口座が凍結してしまうことです。信託専用口座は受託者個人の口座であり、金融機関の内部では、受託者の死亡によって受託者個人の「相続財産」として扱われることになるからです。

したがって、受託者死亡による受託者交代に当たっては、通常の相続に準じるような複雑な手続きを銀行から求められる可能性もありますので、注意が必要です。

当初受託者が生存しているなら、当初受託者の口座から新たな受託者名義の信託専用口座に送金するなどして、預金を移動させるという対応が可能です。

② 口座が信託口口座の場合は、各金融機関に相談しながら進めます。

信託口口座

〇信託口口座は、受託者が信託財産を自身の財産と分別して管理する目的で利用する預金口座です。信託法第34条において受託者には「分別管理義務」が定められており、受託者は自分が持っている財産と、委託者から預かった財産を分けて管理しなければなりません。
〇信託口口座は、受託者の名義ですが、もし受託者が死亡しても口座が凍結されることはありません。

日本弁護士会の資料では以下のような記述があります。

「信託行為に後継受託者の定めがあることを前提として,受託者の死亡などにより受託者が交代した場合には,信託行為に記載された者が新受託者に選任されたことを,新受託者において金融機関に対して資料をもって疎明したときには,仮に受託者の相続人の同意がなくても,金融機関においては新受託者名への口座名義の変更に応じることが可能であると考えられる。

ただし,口座名義の変更も金融機関による審査を経てなされるものであるため,事案に応じて金融機関が口座名義の変更に応じない場合もあり得る。また,金融機関によっては,その事務・システム上の理由により,解約・払戻しをした上で新たな口座開設をするよう求められる場合もあり得ること想定しておく必要がある。 」

 出典  信託口口座開設等に関するガイドライン(日本弁護士連合会)
https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/activity/civil/shintakukouza_guide.pdf

登記の手続き

受託者の変更に伴う不動産の登記手続きは、登記の仕組み上は「所有権移転」という形となり、新たな受託者の住所と名前を登記簿の所有者欄(甲区)に記載することになります。

当初受託者が死亡の場合

新受託者が単独で手続き可能です(不動産登記法第100条第1項)。

当初受託者が辞任した場合

後継受託者を登記権利者、前受託者を登記義務者として、共同で登記申請を行います(不動産登記法60条)。

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