家族信託を現実に契約しようとするとき、色々な疑問が生じます。例えば、よくある「委託者=受益者」で、受益者が死亡すると家族信託も終了するケースで、受益者の葬儀費用を信託財産から支出できるかという点を考えます。
家族信託に詳しい「じゃっく君」が「しば君」の質問に答えます。この記事を読めば、家族信託の葬儀費用問題がスッキリすると思います。
自益信託の場合の受益者の葬儀費用について
一人暮らしの高齢の方が、仮に認知能力が低下しても、自宅の処分や生活費用の支出を、親族の誰かが行えるように、家族信託するケースが多いですね。
自益信託といわれるものです。家族信託で一番多いパターンですね。
自益信託では、受益者が死亡したら、信託は終了して、残りの財産は、相続人に行くケースが多いですね。
そうそう。自益信託は、委託者自身の生存中のための仕組みだから、委託者つまり受益者が亡くなったら、終了とするのが分かりやすいから、そういう契約にすることが多い。
で、わからないのは、この高齢の方は、家族信託の委託者に、ご自分の葬儀費用も信託した財産から賄ってもらいたいと思っているはずだけど、葬儀が発生したときには、信託が終了している訳だから、理論的には、委託者は信託財産に手を付けられないのではないかと思うんだけど・・・
その疑問は鋭い。家族信託の終了の時点では、そのような曖昧なことが発生しなしように、きちんとした仕組みを考えて、契約書に記載しておく必要があるよ。
どうすればいいのかな?
信託財産と残余財産の違い
まず、家族信託と相続の問題を整理したい。そもそも、信託とは、ある目的にしか使えない、誰のものでもない財産を作り出す仕組み。家族信託とは、委託者の財産を「受益者のため」という目的のために、委託者の財産から「信託財産」に移転すること。委託者は「受益者のため」に、その信託財産を管理する。
そういう仕組みを作ることで、委託者が認知症になっても、委託者の財産は凍結されず、委託者つまり受益者のために、きちんと使われるんだね。
そうなんだ。ただ、受益者が生存中は、信託財産とその管理人である受託者と言う概念が、存在するんだけど、受益者が死亡すると、信託契約が終了するので、もはや信託財産も受託者と言う概念は存在しない。しかし現実に財産はあるので、これを残余財産と言う。また、受託者も法的にはいなくなるが、代わりに清算受託者という方が登場する。ただ、現実には、「信託財産」が「残余財産」、「受託者」が「清算受託者」と名前を変えただけとも言える。
相当わかりにくいけど、何となくわかる。
信託終了事由を、葬儀終了後にしたらどうだろう?
それで、葬儀費用問題に移るけど、そういうことだから、この高齢の委託者(=受益者)の葬儀費用は、理屈上、信託財産で支払えない。なぜって、死亡したとたんに、委託者も、信託財産もないからだ、
だったら、信託の終了事由を、「受益者が死亡し、受益者の葬儀費用を支払ったとき」としたらどうだろう?ドックいや、グッドアイデアじゃない?
だじゃれかい。まあ、そういう考え方もあるよ。ただ、そうしてしまうと、受益権は、当初の委託者兼受益者の死亡後も残るので、短い期間だけど受益権は誰が持つかを、契約で決めないといけない。また、契約で決めなければ、相続人になる。そうすると登場人物が増えて、複雑な関係になるし、受益権を得た人の考え方次第では、受託者と意見が対立して、もめ事が発生しないとも限らない。
解決策
シンプルなやり方はある。というのも、実は、信託法では、受益者が死亡して信託が終了しても、即、誰のものでもない信託財産という存在が亡くなって、相続人の財産に戻るという考え方をとっている訳ではないからだよ。
はい?
信託契約が終了した場合に、清算受託者は、受託者から業務を引き継ぎ、その時点で残った財産で、信託契約に関わる債務を弁済したり、財産の相続人などに名義を変えたりと必要な清算手続きを行うことになっている。その業務が終了するまでは、信託財産は残余財産と名前を変えるものの、信託法や信託契約で約定した費用支出はできるんだ。
(信託の存続の擬制)
第176条 信託は、当該信託が終了した場合においても、清算が結了するまではなお存続するものとみなす。
ほうほう。
このため、清算受託者の業務として、「清算受託者は、自益者の葬儀費用を残余財産から支払う」という条項を入れておけばいい。こうすれば、実質的に、委託者兼受益者の死亡後の葬儀費用を、信託財産から支払うことできるわけさ。
よくわかりました。すっきりしました。
信託法の関連条文
第163条信託は、次条の規定によるほか、次に掲げる場合に終了する。
一信託の目的を達成したとき、又は信託の目的を達成することができなくなったとき。
二受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続したとき。
三受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が1年間継続したとき。
(略)
九信託行為において定めた事由が生じたとき。
(清算受託者の職務)
第177条 信託が終了した時以後の受託者(以下「清算受託者」という。)は、次に掲げる職務を行う。
一 現務の結了
二 信託財産に属する債権の取立て及び信託債権に係る債務の弁済
三 受益債権(残余財産の給付を内容とするものを除く。)に係る債務の弁済
四 残余財産の給付
(清算受託者の権限等)
第178条 清算受託者は、信託の清算のために必要な一切の行為をする権限を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
第182条残余財産は、次に掲げる者に帰属する。
一信託行為において残余財産の給付を内容とする受益債権に係る受益者(次項において「残余財産受益者」という。)となるべき者として指定された者
二信託行為において残余財産の帰属すべき者(以下この節において「帰属権利者」という。)となるべき者として指定された者
2信託行為に残余財産受益者若しくは帰属権利者(以下この項において「残余財産受益者等」と総称する。)の指定に関する定めがない場合又は信託行為の定めにより残余財産受益者等として指定を受けた者のすべてがその権利を放棄した場合には、信託行為に委託者又はその相続人その他の一般承継人を帰属権利者として指定する旨の定めがあったものとみなす。
3前二項の規定により残余財産の帰属が定まらないときは、残余財産は、清算受託者に帰属する。
第183条信託行為の定めにより帰属権利者となるべき者として指定された者は、当然に残余財産の給付をすべき債務に係る債権を取得する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
2第88条第2項の規定は、前項に規定する帰属権利者となるべき者として指定された者について準用する。
3信託行為の定めにより帰属権利者となった者は、受託者に対し、その権利を放棄する旨の意思表示をすることができる。ただし、信託行為の定めにより帰属権利者となった者が信託行為の当事者である場合は、この限りでない。
4前項本文に規定する帰属権利者となった者は、同項の規定による意思表示をしたときは、当初から帰属権利者としての権利を取得していなかったものとみなす。ただし、第三者の権利を害することはできない。
5第100条及び第102条の規定は、帰属権利者が有する債権で残余財産の給付をすべき債務に係るものについて準用する。
6帰属権利者は、信託の清算中は、受益者とみなす。
第184条清算受託者は、その職務を終了したときは、遅滞なく、信託事務に関する最終の計算を行い、信託が終了した時における受益者(信託管理人が現に存する場合にあっては、信託管理人)及び帰属権利者(以下この条において「受益者等」と総称する。)のすべてに対し、その承認を求めなければならない。
2受益者等が前項の計算を承認した場合には、当該受益者等に対する清算受託者の責任は、免除されたものとみなす。ただし、清算受託者の職務の執行に不正の行為があったときは、この限りでない。