遺言信託 杉並区 | 行政書士中村光男事務所

家族信託は、主に高齢者が自分の財産の管理・処分を信頼できる家族に委ねる方法です。

家族信託は、信託法によって3つのパターンで設定ができます。この3つの方法一つが、「遺言信託」です。

しかし、「遺言信託」という金融機関の商品(実は法的な信託とは関係なく、遺言や相続のアドバイスサービスのことです)もあったり、「家族信託で遺言の代用ができる」(これは生前信託で行うことです)という側面もあったりで、「遺言信託って何なの」ということが分かりにくくなっている気がします。

そこで、本稿では、「遺言信託」についてご説明します。ただ、遺言信託には弱点があります。その弱点を補うことのできる遺言代用信託という仕組みも最後に解説します。

まず最初に、家族信託とは何か、法律の書き方などを見たうえで本論に入ります。

家族信託とは

認知症などによる資産凍結リスクに備えて、早いうちから家族信託の利用を検討している方も増えています

家族信託は、自分の老後や介護が必要になったときに備えて、保有する不動産や預貯金などの管理・処分を信頼する家族に任せる仕組みです。
家族を信じて任せるから家族信託です。

任せる人を委託者、任せられた家族を受託者と言います。

委託者から受託者に託された財産は、受託者名義になりますが、その財産は一定の目的に従ってしか管理・処分できません。したがって、信託された財産は、受託者名義ではあるが、まるで受託者のものではないように扱われるのです。 家族信託というのは一般的な呼称ですが、法律にはない用語です。家族信託の根拠法である信託法では、単に「信託」と呼んでいます。

目的無くして信託なし 信託の定義

「信託」の定義は、次のように、信託法2条にされています。(定義)

信託法 第2条(定義) この法律において「信託」とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう。

この条文で言う「特定の者」とは誰を指すでしょうか? この人は「一定の目的専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をす」るのですから、受託者のこと言っているのです。重要な点は、「目的」です。「目的無くして信託なし」ということですね。目的しばり。目的があるがゆえに、目的以外のことには、受託者は信託財産を使えないのです。

信託の方法は3つ 信託行為の定義

同じく信託法2条の2項で次の3つのパターンが記載されています。

信託法 第2条2項 この法律において「信託行為」とは、次の各号に掲げる信託の区分に応じ、当該各号に定めるものをいう。

 次条第1号に掲げる方法による信託 同号の信託契約

 次条第2号に掲げる方法による信託 同号の遺言

 次条第3号に掲げる方法による信託 同号の書面又は電磁的記録(同号に規定する電磁的記録をいう。)によってする意思表示

第3条で具体的に以下のように記載されています。

(信託の方法)

信託法 第3条 信託は、次に掲げる方法のいずれかによってする。

 特定の者との間で、当該特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約(以下「信託契約」という。)を締結する方法  ※1号は「信託契約による方法」です。

 特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法
            ※2号は「遺言による方法」です。

 特定の者が一定の目的に従い自己の有する一定の財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為を自らすべき旨の意思表示を公正証書その他の書面又は電磁的記録で当該目的、当該財産の特定に必要な事項その他の法務省令で定める事項を記載し又は記録したものによってする方法        ※3号は「信託宣言による方法」です。

上記の第3条には、各号に主語がないですね。なぜか。それは、第2条4で「この法律において「委託者」とは、次条各号に掲げる方法により信託をする者をいう。」と定義したからです。定義条項があるのだから、主語はいらないといことでしょう。

「遺言による信託」は法律にしっかり規定されている

「遺言による信託」とは、上述の信託法3条2号が認める信託の方法一つです。

条文は、「特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法」とあります。

「特定の者」とは、受託者のことです。「目的無くして信託無し」ですので、「一定の目的に従い」という用語はしっかり入っています。

具体的には、「遺言書」に「○○(例 「残される妻の老後の生活支援」など)の目的のために、□□(例 自宅不動産と金銭5000万円)の財産を管理・処分することを、△△(=長男)に託す」と書くような場合です。このような遺言で、家族信託は設立可能です。

遺言信託の成立時期

さて、遺言信託にはいくつか問題があります。実は、遺言は、相手のある契約と異なり、遺言者一人の意思でするものですから、ここに書かれているのは、「指示事項」や「命令」といった性格になります。しかし、指示や命令を受けた受託者は、これを拒否することができます。では、実際に拒否されたらどうなるのでしょうか。

まず、信託法4条は、安全弁を提供しています。つまり、遺言信託は、受託者の受託の承諾の有無に関わらず、遺言の効力の発生とともに有効になるとしているのです。遺言としての効力を生ずるのは、遺言者死亡の時からです(民法第985条1項)。そもそも、遺言者死亡時には、受託者と想定されている人が遺言の内容を知っているかどうかはわからないので、このようにしておかないと、遺言者の財産が相続人のものになってしまう可能性があるためです。

(信託の効力の発生)

信託法 第4条

前条第1号に掲げる方法によってされる信託は、委託者となるべき者と受託者となるべき者との間の信託契約の締結によってその効力を生ずる。

2 前条第2号に掲げる方法によってされる信託は、当該遺言の効力の発生によってその効力を生ずる。

3 略

遺言信託の受託者が就任を承諾しなかった場合は

遺言で指定された受託者が就任を承諾しなかった場合はどうなるのでしょう。その場合は、利害関係者(上の例でいえば受益者である妻や、他の相続人など)が裁判所に受託者を選任することを申し入れることができるとされています。

(遺言信託における裁判所による受託者の選任)

信託法 第6条 第3条第2号に掲げる方法によって信託がされた場合において、当該遺言に受託者の指定に関する定めがないとき、又は受託者となるべき者として指定された者が信託の引受けをせず、若しくはこれをすることができないときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、受託者を選任することができる。

 前項の申立てについての裁判には、理由を付さなければならない。

 第1項の規定による受託者の選任の裁判に対しては、受益者又は既に存する受託者に限り、即時抗告をすることができる。

 前項の即時抗告は、執行停止の効力を有する。

相続人は遺言信託の委託者になれない理由

・遺言信託の場合は、委託者(=遺言者)の相続人は、信託行為で別段の定めがない限り、委託者の地位を相続しません。

(遺言信託における委託者の相続人)

信託法 第147条 第3条第2号に掲げる方法によって信託がされた場合には、委託者の相続人は、委託者の地位を相続により承継しない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

相続は、相続人が亡くなった人(被相続人)の財産上の権利や義務のすべてを承継する「包括(一般)承継」が原則ですので、これは例外的な扱いです。

この条文の理由付けは、いくつか考え方があります。

ひとつは、「遺言信託は、法定相続分とは異なる財産の処分となるため、類型的に相続人と利害が対立する可能性があるため、相続法の原則が妥当でないため立法した」という説明。立法者はこの考え方の様です。

もう一つは、「遺言信託は遺言者が死亡するまでは有効でないため、そもそも、委託者の地位は相続の対象にならないという当然のことを注意喚起した文章」という説明です。こちらの方が、筋は通っているような気もします。

遺言信託と遺留分侵害

家族信託共通の問題となりますが、遺言信託の場合は、特に、相続人の有する遺留分との関係が問題になります。

この問題については、生命保険が相続財産から外れるのと同様に、信託設定した財産は相続財産から外れるという主張もあります。生前信託では、このように考える判例もあるのですが、一般には、信託設定しても遺留分減殺請求権からは逃れられないというのが多数の実務的な考え方とされているようです。

細かく言うと、「信託設定したこと自体」ではなく「受益権者の受益権取得」が遺留分侵害に当たり得るということですので、遺言信託の際には、遺留分侵害請求権を持つ相続人の権利に配慮する必要がでてきます。

遺言信託は契約でないのが弱点?

遺言信託という類型が信託法で定められたことにより、遺言者は、だれにも気兼ねせず、自分だけの考えで家族信託を(自分の死後に)成立させることができるようになりました。

自分が亡きあと、高齢の妻は認知症になって、生活の面倒を誰が見てくれるのか?施設入居の際に、自宅売却はできるのだろうか?といった悩みが、遺言信託の活用で解消できることもあるかと思います。

ただ、まさに、この「単独行為であること」が弱点でもあります。信託契約による方法」すなわち、生前に、受託者との間で条件を決めて契約する普通の生前信託(信託法3条1号)であれば、契約と同時に信託行為は有効となり、受託者も押さえてあるので安心です。遺言信託では、遺言の時点では、信託行為は有効ではなく、死亡後に、想定した受託者が確実に承諾してくれるかどうかは不明です。

もちろん、遺言信託であっても、通常は、家族や親戚に意図を話して了解を得てもらったうえで、受託者も事前にその旨を伝えて、了解をもらうことは可能です。が、契約ではありませんので不安は残るところです。

もし、時間があるのであれば、生前に信託契約による方法」を十分に検討しておいた方が良いのではないかと思います。

最後に 遺言信託の弱点を補うのが遺言代用信託

遺言信託が単独行為であり、かつ、遺言者が死亡してから有効になる信託のため、受託者がシナリオ通り就任してくれるか不明であるという点に弱点があるということを述べました。

一方、遺言代用信託は、生前に信託契約を受託者と契約しますので、このような弱みがありません。

遺言代用信託とは、委託者の死亡を始期として、信託から給付を受ける権利を取得する受益者について、「委託者の死亡の時に受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する旨の定めのある信託」(信託法90条1項1号)と、「委託者の死亡の時以後に受益者が信託財産に係る給付を受ける旨の定めのある信託」の2種類があります。

遺言代用信託は、生前に自己の財産を他人に信託して、委託者自身を受益者にし、自分の配偶者や子供を「死後受益者」とすることで、自分の死亡後における財産分配を達成しようとするものですから、死因贈与と似た制度です。

遺言代用信託については、別の稿で解説します。


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