空き家や所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し

空き家問題は深刻

空き家については、少子高齢化の進展や人口移動の変化などを背景に、増加の一途をたどっており、管理が行き届いていない空き家が、防災、衛生、景観等の面で人々の生活環境に影響を及ぼすという社会問題が起きています。

2018年度の総務省の住宅・土地統計調査の結果、空き家数は848万9千戸と過去最多となり、全国の住宅の13.6%を占めていることが分かりました。

株式会社野村総合研究所の調査では2033年には空き家数は空き家率は16.1%まで上昇すると予測(2019年調査)されています。

このように、空き家対策は待ったなしの状況です。

空き家問題の背景

空き家問題では、登記簿上所有者がはっきりしない、所有者が判明しても、所在が不明で連絡できないなどの問題があります。

この背景としては、相続登記が義務でないため、相続人の20%程度は相続登記をしないという実態がある(2019年 国土交通省調査)ことや、同じく、住所変更登記も義務でないこと、遺産分割をしないで相続が繰り返されると相続人がねずみ算式に増えてしまうことなどの問題が横たわっていました。

相続登記義務化など様々な対策が2024年から施行される 

 そこで、これらの問題を解決するため、2021年に大きな法改正がありました。

 この施行は2024年からですので、まだ準備のための時間はあります。今後、具体的な内容が決まってくるものと思われますが、法制度改正の概要は以下のようなものです。

対策1  相続登記の義務化(不動産登記法の改正)

 ①不動産を取得した相続人は、3年以内の相続登記の申請が義務化(正当な理由のない申請漏れには過料の罰則あり)。

  同時に、相続登記がしやすくなるような以下の施策も創設される予定です。

  (例)相続人が単独で申告登記できる制度の新設、登記費用の軽減(検討される予定)、特定の者が名義人となっている不動産の一覧できる制度の新設、地方公共団体との連携(死亡届を提出した人への啓蒙) 等

 ②登記名義人の死亡等の事実の公示の仕組みつくり

 登記官が他の公的機関(住基ネットなど)から死亡等の情報を取得し、職権で登記に表示することで、登記で登記名義人の死亡の有無の確認が可能になります。

対策2 住所変更登記の義務化(不動産登記法の改正)

①所有権の登記名義人に対し、住所等の変更日から2年以内にその変更登記の申請をすることを義務付ける(正当な理由のない申請漏れには過料の罰則あり)

②他の公的機関から取得した情報に基づき、登記官が職権的に変更登記をする新た  な方策も導入する。

対策3 相続等により取得した土地所有権を国庫に帰属させる制度の創設(相続土地国庫帰属法)

2019年の政府調査では、相続等で空き家の取得した人の約30%は空き家のまま保有予定、約20%は売却・賃貸予定、同じく約20%はセカンドハウス、13%が取り壊しです。そこに住みたいという方はわずか7%です。

相続した土地が、売れればいいですが、買い手が着かないような土地は、そのまま放置されて、近隣の環境に悪影響を与えかねません。

そこで、相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により取得した土地を手放して、国庫に帰属させることを可能とする制度を創設されることになりました。

ただし、管理コストの国への転嫁や土地の管理をおろそかにするモラルハザードが発生するおそれを考慮して、一定の要件(詳細は政省令で規定)を設定し、法務大臣が要件を審査します。

この制度により、国庫に自分の土地を帰属させたい方は、審査手数料と10年分の土地管理費用相当金額を負担することで、土地の所有権をなくすことができるのです。

対策4 所有者不明土地の利用の円滑化を図る方策 (民法改正)

① 土地・建物の管理制度の創設 

  個々の所有者不明土地・建物の管理に特化した新たな財産管理制度を創設されます。

② 不明共有者がいる場合への対応

  裁判所の関与の下で、不明共有者等に対して公告等をした上で、残りの共有者の 同意で、共有物の変更行為や管理行為を可能にする制度を創設されます。

③ 遺産分割長期未了状態への対応

  相続開始から10年を経過したときは、個別案件ごとに異なる具体的相続分による分割の利益を消滅させ、画一的な法定相続分で簡明に遺産分割を行う仕組みを創設します。

④ 隣地等の利用・管理の円滑化 

  ライフラインを自己の土地に引き込むための導管等の設備を他人の土地に設置する 権利を明確化し、隣地所有者不明状態にも対応できる仕組みが整備されます。