判例変更|相続預金の払戻し請求に銀行が慎重姿勢になった/杉並区行政書士が解説

従来、相続預金は遺産分割対象外だったので、相続人から法定相続分の範囲内の金額の払戻し請求があれば、銀行は応じることができました。しかし、平成28年の最高裁判例で、相続預金は遺産分割の対象と判断されました。このため、銀行は相続預金の払い戻しに慎重な態度とならざるを得なくなりました。

この対応策として、今回の民法改正で、相続預金の仮払い制度ができましたが、手間はかかります。遺言があれば相続人の苦労は軽減されますので、ますます遺言の重要性が高まっていると言えるかと思います。

相続預金の払戻しに関する判例変更

共同相続人が数人いる場合、相続財産は共有となります(民法898条)が、預貯金債権に関しては相続開始と同時に相続分に応じて、各相続人に分割されるので、相続の遺産分割協議が整う前であっても、相続人に対して銀行は法定相続分の範囲内で払戻しに応じても、法律的な問題はありませんでした。

ところが、平成28年12月19日の最高裁判例で、この考え方は転換されました。事例としては(少しアレンジしてますが)、相続財産は預貯金が4000万円、家が200万円の計4200万円。相続人はAとBの2名です。相続人Aは、被相続人の生前に5000万円の贈与を受けていました。生前贈与とは相続分の前渡しですから、これを考慮すると、5000+4000+200=9200万円を2人で4600万円ずつ分けるべきです。しかし、Aはすでにこれを上回る配分を受けているので、今回の相続分は0円です。

ところが、従来の考え方であれば、4000万円の預金は遺産分割対象外であって、Aは2000万円相続できることになってしまいます。これは、どう見ても不公平ですから、最高裁は「預金も遺産分割対象」であると判例変更したのですす。

平成28年12月19日最判(預貯金債権の共同相続)事例イメージ図 ®行政書士中村事務所

銀行実務への影響

実のところ、銀行は、この判例の前からトラブル防止のために、相続人の一人からの払い戻し請求の場合は、原則として法定相続人全員の実印を求めていました。

しかし冒頭に書いたように、法定相続分の範囲内の払戻しに応じても法的な問題はありませんでした。この判例以降は、法定相続分の範囲内の払戻しでも安易に応じられなくなりました。従来からの慎重姿勢に判例がお墨付きを与えたことになります。

民法の改正⇒相続預金の払い戻し制度の誕生

現実には、相続開始後には、生前の医療費精算、葬儀代等の費用を賄うために、故人の預金を使う必要があることが多いのです。そこで、民法は「相続預金の払戻し制度」を作りました(民法909条の2。施行は令和元年7月2日)。

これにより、相続預金は1行あたり150万円を限度に法定相続分の1/3まで引き出しできることになりました(家裁に申してる方法もあります)。ただ、制度利用のためには相続人全員の戸籍などの書類収集が必要となります。相続人が多い場合は大変です。

制度利用に必要な書類(全銀協資料) https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/article/F/7705_heritage_leaf.pdf

まとめ 遺言の重要性が高まった

預貯金も遺産分割の対象であるという平成28年12月最高裁判例がでて、相続預金の引き出しについて、銀行の姿勢は益々慎重になりました。また、民法改正でできた相続預金の払い戻し制度も、集める資料が多くご遺族は相続直後の多忙な中で大変です。このため、相続手続きをスムーズに進めることができる「遺言」が益々意味を持ってきました。

遺言も法的要件がありますので、ご自分の場合どのような遺言の書き方がいいのか等で不安のある場合は、専門家にご相談されることをお勧めいたします。

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