
遺言の方式のひとつである「公正証書遺言」は、最も確実性が高く、相続手続きでもスムーズに活用されることが多い方法ですが、公正証書遺言には、「原本」「正本」「謄本」といった言葉が出てきて混乱する方も少なくありません。この記事では、それぞれの違いについて、解説いたします。
公正証書遺言とは
公正証書遺言は、公証役場で公証人が作成する遺言書です。
証人2名の立会いのもとで作成され、遺言者の最終意思を確実に残すことができます。
法律上の根拠は、民法第969条に規定されています。公正証書によって遺言をするには、遺言者がその趣旨を公証人に口授し、公証人がこれを筆記して読み聞かせ、遺言者と証人が筆記の正確なことを承認し、各自署名押印しなければならないとされています。
民法(公正証書遺言)
第九百六十九条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
原本・正本・謄本の違い
遺言公正証書は、通常、原本、正本および謄本を各1部作成し、原本は、法律に基づき公証役場で保管し、正本および謄本は、遺言者に交付されます。原本、正本、謄本には次のような違いがあります。
原本(げんぽん)
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公証役場に保管される唯一の文書 実印が押されるのは原本だけです。
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遺言者本人も手元に持つことはできません
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万が一、正本や謄本を紛失しても、原本があるため再発行が可能です
■ 正本(せいほん)
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原本の内容を正確に写した公文書で、正規の効力を持つ写し
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遺言者本人が相続開始前に保管しておくことが多い
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家庭裁判所の検認手続きが不要で、そのまま相続手続きに使えます
■ 謄本(とうほん)
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原本の内容をそのまま写した書類
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正本と異なり、正式な写しではあるが「原本に代わる効力」は持たない
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記録・参考資料として利用されますが、相続登記などでは正本の提出が求められる場合があります
遺言の検索と、謄本の再発行
手元の謄本が見当たらなくなった場合は、遺言を作成した公証役場で再発行してもらえます(有料)。
では、そもそも公正証書遺言があるのかどうかも不明な時はどうしたらいいでしょうか。
平成元年以降に作成された公正証書遺言は、全国の公証人役場でオンライン検索できます。相続開始前に、検索ができるのは遺言者本人だけです。
一方、相続開始後に、相続人等の利害関係人が、「公正証書遺言があるかどうか調べたい」という場合は、相続の利害関係人が、決められた証明書類を示して、検索の請求ができます(無料)。
検索の結果、公正証書遺言を作成した公証役場が判明すれば、その役場に出向くか郵送で、謄本再発行が請求できます。郵送請求の場合、謄本請求者の本人確認の資料として、マイナンバーカード、運転免許証等の顔写真付き公的身分証明書を利用した場合には、テレビ電話を利用して本人確認を行うことになります。遺言書を保管している公証役場が分かれば、事前に保管公証役場に連絡を入れてご相談ください。
公正証書遺言の保存期間
公正証書の保存期間は、公証人法施行規則27条で、20年と定められています。さらに、同規則では、特別の事由により保存の必要があるときは、その事由のある間は保存しなければならないと定めています。遺言公正証書は、この「特別の事由」に該当すると解釈されており、遺言者の死亡後50年、証書作成後140年または遺言者の生後170年間保存する公証役場の実務となっています。
公証人法施行規則
第二十七条 公証人は、書類及び帳簿を、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に掲げる期間保存しなければならない。
一 証書の原本、証書原簿、公証人の保存する私署証書及び定款、認証簿(第三号に掲げるものを除く。)、信託表示簿 二十年
(略)
3 第一項の書類は、保存期間の満了した後でも特別の事由により保存の必要があるときは、その事由のある間保存しなければならない。
参考:日本公証役場連合会HP