法務大臣が「技能実習制度見直し検討」を強調

古川禎久法相は7月29日(2022年)の閣議後記者会見で、外国人が日本で技術を学ぶ技能実習制度について「国際貢献という目的と、人手不足を補う労働力として扱っている実態が乖離(かいり)しているとの指摘がある。理念と実態が整合した制度づくりを目指す」と述べて、本格的な見直しに取り組む考えを示しました。

古川法相は会見で、技能実習について「人権侵害が生じやすい制度になっている。外国人との共生社会の実現は歴史の本流であり、時代の要請だ。構造的な問題を直視して、これまでの適正化策とは次元を異にした制度づくりを目指す」と意欲を示したそうです。

■以前、このコラムで、古川大臣が技能実習制度の見直しに並みならぬ意欲を持っていることはお伝えしましたが、大臣は今年2月以降に「技能実習と特定技能の両制度の課題」を整理するための勉強会をスタートさせており、今回の表明は、この勉強会後の大臣会見で明らかにしたものです。

■技能自習制度の本来の目的と実態の乖離問題とは

上記の大臣コメントにもあるように、外国人技能実習制度の目的は、外国人技能実習生が、特定の期間内に日本で培われた技能、技術又は知識を学び、母国(開発途上地域)に移転すること、帰国後に習得した技能で国の発展に寄与すること、という国際貢献が目的です。

ところが、実態として、少子高齢化が進み、人出不足の現在、技能実習制度を外国人に低賃金で単純労働をしてもらえるという誤解があると言われています。

■技能実習生の失踪問題

もう一つの大きな問題は、技能実習生の失踪です。

技能実習生の約2%は、結局「失踪」してしまいます。悪質なブローカーによって「もっと稼げる、もっといい環境で働ける」という甘い言葉で技能実習生の失踪が斡旋されることもあるようです。厚労省の下記の調査レポートがあります。

https://www.moj.go.jp/isa/content/930004167.pdf

 技能実習生は原則3年間同じ受け入れ企業に勤めるため転職という選択肢がないのも問題です。そのため、辛い現実に当たると母国に帰るか失踪する選択肢を思い浮かべてしまうようです。

別の厚労省の調査では、「失踪の主な原因」を以下のように、「賃金不払い等の実習実施者側の不適正な取扱い」と「入国時に支払った高額な費用の回収等の実習生側の経済的問題」の二つの側面にあるとしています。

とはいえ、失踪理由の内訳を件数でみると、以下のように、圧倒的に「賃金不払い等の実習実施者側の不適正な取扱い」が主因となっています。

出所 https://www.myanmarunity.jp/ginou_jisyu/5017/

■古川大臣の発言

7月29日に、古川大臣は、以下のように述べました。

技能実習については、借金をして来日したり原則3年間は職場を移る自由がなかったりするため、不当な扱いを受けても相談や交渉ができない実習生がいるとの指摘があったこと

制度の適正実施を監督する「外国人技能実習機構」や、受け入れ実務を担う監理団体の相談・支援体制が機能していない例があったこと

見直しを検討するポイントは、①技能実習制度の趣旨と運用実態の分かりやすい整合、②外国人労働者の人権の尊重、③外国人労働者にとっても日本にとってもプラスになる仕組みの構築、④今後の日本社会のあり方に沿った制度設計の4点であること。

■今後への期待

技能実習生は、2021年末で約27万人。もともとは、日本の技術を外国の方に学んでもらい、母国に持ち帰っていただくことが目的の国際貢献のための制度ですから、技能実習生には、日本に好感を持って帰国してもらいたいものです。

古川法務大臣が、現在の制度の在り方の問題点を、率直に認めて、見直しを進めているのは大変期待が持てます。今後も、この動きを見ていきたいと思います。

参考 毎日新聞記事2022.7.30夕刊