技能実習制度は発展的に解消され、人材確保目的の新制度に 杉並区 | 行政書士中村光男事務所

2023年10月18日の政府の有識者会議は、外国人労働者受け入れの新制度に関する最終報告の素案を提出しました。ここで、技能実習制度を廃止し、新たな制度に移行すること、また、転籍制限を緩和することや監理団体の適正化が打ち出されました。

この新制度は、従来の「国際貢献」という目標をやめ、「人手不足分の特定技能1号への移行に向けた人材育成を目的」とするという、ドラスティックですが、明確な方向性を示しています。

この背景には、現在の技能実習制度の問題点があります。

本稿は、5分程度で読めるようにこの問題を解説します。

どのような議論があったか

従来の技能実習制度の問題点

日本で働く外国人技能実習生は約32万人(2022年現在)です。

技能実習制度の目的は、発展途上国への「人材育成」を通じた「国際貢献」ですが、実際は労働環境が厳しい業種の人手不足を補う手段となっていて、トラブルが相次ぐなど、目的と実態とのかい離が指摘されていました。

1.実習生への人権侵害が多い

実習生制度が「人出不足の産業の人材確保手段」となっており、賃金不払いやパワハラ等の劣悪な労働環境が横行しているとされています。

2.会社を移れないこと

勤務先から失踪した技能実習生は、1年間で7000人を超えています(2021年)。法務省の調べでは、「賃金の不払い」「雇用主の不適切な取り扱い」などが、失踪の主な理由です。

実習生制度は「同じ企業で何年間もずっと研修する」という仕組みで、会社を移れないために、逃げるしかないというのが実情です。

3.特定技能へのキャリアアップがスムーズでないこと

技能実習生のキャリアアップの仕組みが「特定技能制度」です。この制度は、2019年に、人材不足が深刻な分野で一定の技能や専門性を持つ外国人材を受け入れる制度として始まりました。

技能実習制度では最長5年働けますが、3年以上働くと特定技能制度に移行できます。移行するとさらに5年働くことができ、企業を移る「転籍」もできるようになります。

しかし、技能実習制度と特定技能制度の産業分野が一致していないために、スムーズに移行できないケースが全体の15%程度あるとされます。

4.実習生と企業の間に入る「監理団体」が十分機能していない例があること

管理団体は、技能実習生と企業の中立的な立場に立って支援が行われるべきですが、監理団体自身が企業からの資金をもとに運営されているため、企業の立場に立ってしまうという構造的な問題があるのでないかと指摘されています。

新たな仕組みの方向性

以上のような問題点を踏まえて、現行の「国際貢献」目的の技能実習制度を発展的に解消し、「日本社会の人出不足分野における人材確保と人材育成」目的の新たな制度を創設するという位置づけが発表されました。

(資料⇒技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第12回))R5.10.18

どのような案が提出されたか

今回の法務省有識者会議の提言は以下の通りです。これらの根本には「新たな制度が人手不足分野における特定技能1号への移行に向けた人材育成を目的とするものである」という明確な位置づけが横たわっています。

<提言の概要>

1.受入れ対象分野

新制度の受入れ対象分野は、特定技能制度における「特定産業分野」に限る。

2.人材育成・技能評価

新制度の外国人の業務の範囲は、特定技能の業務区分と同一とする。技能の評価は、技能検定等のほか、特定技能1号評価試験により行うことも認める。

3.受入れ見込数の設定

日本人の雇用機会の喪失や処遇の低下等を防ぐ観点及び外国人の安定的かつ円滑な在留活動を可能とする観点から、現行の特定技能制度同様に、受入れ分野ごとに受入れ見込数を設定し、これを受入れの上限数とする。

4.新たな制度における転籍の在り方 

現行の技能実習制度でも認められている「やむを得ない事情がある場合」の転籍の範囲を拡大かつ明確化する。さらに、一定の要件の下での「本人の意向による転籍」も認める。

5.監理・支援・保護の在り方 

技能実習機構は、改組して、監督指導・支援保護機能を強化し、特定技能外国人への相談援助業務(母国語相談等)を追加する。管理団体は、許可要件厳格化し、独立性・中立性・相談能力の強化を図る。

6.特定技能制度の適正化

新制度で育成された外国人の特定技能1号への移行は、技能検定3級等以上又は特定技能1号評価試験への合格に加え、日本語能力A2相当以上の試験(日本語能力試験N4等)への合格を条件とする。

7.国・自治体の連携強化

地方出入国在留管理局、新たな機構、労働基準監督署、ハローワーク等の関係機関が連携し、外国人の不適正な受入れ・雇用を厳格に排除し、的確な転籍支援等を行う。

8.送出機関及び送出しの在り方 

政府は、送出国政府との間での二国間取決め(MOC)を新たに作成し、これにより送出機関の取締りを強化するなどして、悪質な送出機関の排除の実効性を高める。

9. 日本語能力の向上方策

新制度による就労開始や、特定技能1号への移行時に、日本語試験の合格等を条件にする。

参考 技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第12回) 資料1-2 最終報告書(たたき台)(提言部分)(PDF : 333KB)PDFファイル(別ウィンドウで開く)

今後の動き

「外国人技能実習制度」が変革のときを迎えています。

政府は、以上のような有識者会議の議論を踏まえ、2024年1月の通常国会への法案提出を目指しています。

ただし、現行の技能実習制度から新たな制度への移行に当たっては、移行期間を十分に確保すべきであるとされていますので、新制度移行にはある程度の時間がかかるものと思われます。

今回の提言で、新たな制度の目的が「人材確保」「外国人の人権を尊重した共生社会」という方向に大きく舵が切られたのではないかと思います。

これからも、様々な問題が出てくるかもしれませんが、この目的が明確であれば、解決策も統一感をもって出てくるのではないかと期待します。

新たな特定技能制度 杉並区 | 行政書士中村光男事務所

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