投資リスクは時間経過の平方根に比例する
まとめ

●リスクとリターンがシミュレーションできるエクセルを作ってみました。

●年率のリスクは時間の平方根に比例して大きくなりますので、リスクの増大は意外に緩やかです。一方、年率のリターンは毎年複利で増えていきますので、時間経過とともに、元本割れの可能性が小さくなります。
●ただし、投信のリスク・リターンはあくまで過去データであることを踏まえた警戒が必要です。
1.リスクは時間の平方根に比例すること

インフレが現実的なものとなってきました。現金でおいていても、インフレ分だけ価値が目減りするのであれば、「リターンが期待でき、かつ元本が減りにくい投信でもないものか?」という気持ちになります。

2022年7月2日の週刊東洋経済「ポートフォリオの最善手」(井出真吾氏)は面白い記事でした。

そこには、「年率リターン5%の投資信託の、年率リスクが20%と説明されているとき、10年後のリターンは約63%(1.05の10乗ー1)となるが、10年後のリスクは約63%となる(年率リスク20%のルート10倍)」と記載されていました。

私が興味があったのは、1年間のリスクが20%のとき10年後のリスクは63%となるという箇所です。

年率のリターンが5%の金融商品の10年間のリターンは、年毎の5%のリターンを元本に上乗せして、さらに1.05%で運用すれが複利効果で、10年後には「元本×1.05×1.05・・・・・(1.05を10回掛ける)」の式で、1.63倍になるのはよく理解できます。

しかし年率リスク20%は、このようにならないで、10の平方根倍(3.162277倍)=約63%になるという点が、新鮮な知識でした(結果はたまたま63%で同じですが、算出の考え方が異なります。)。

(某証券会社のページなどを読むと、これは理論的には、「標準偏差の2乗である分散が計測期間(時間)の長さに比例して大きくなるというランダム・ウォークの考え方に基づく。」と説明されているようです。)

2. 資産運用のリスクは標準偏差で表す。考え方は学校テストの標準偏差と同じ。

資産運用の世界でよく使われる「リスク」と「リターン」ですが、分かったようで、分かりにくい言葉です。リスクという言葉は日本語で「危険」「良くないことの起こる可能性」といった使われ方をしますが、資産運用の世界では「リターン(収益)の変動」、つまりリターンのブレの大きさを指すことが一般的です。

そして、このリスク=リターンのブレは「標準偏差」という統計上の概念で表すのが普通です。

標準偏差と言えば、学校の試験結果から学力判定に使うケースがなじみがあります。例えばが100人が国語のテスト結果が出たときの、標準偏差値は、「100人それぞれの生徒の点数から平均点を引いたものを2乗し、それを足したものを総人数で割った数の平方根」となります。

なぜ「個々の生徒の点数ー平均点」をなぜ2乗するかといえば、2乗しないとプラスとマイナスが相殺して、合計すると0になってしますからです。

また、2乗したのもの合計をなぜ、平方根にするかといえば、そうしないと、数が大きくなって不便だからです。

また、標準偏差の面白いところですが、標準偏差には下記のようなルールがあります。

平均値から±標準偏差1個分に含まれるデータは全体の約68%を占める
平均値から±標準偏差2個分に含まれるデータは全体の約95%を占める
※どちらのルールもデータの分布が下記のような正規分布に従う前

例えば、データが100個あって、その平均値が50,標準偏差が5である場合、平均値±標準偏差1個分というのは50±5という意味ですので、45~55の範囲に68%のデータが含まれるということを意味します。

3.実際の計算

資産運用の標準偏差も、基本的は、学力テストの標準偏差の考え方と同じです。例えば、投資商品で1年のリターン5%、1年の標準偏差10%であれば、リターンが68%の確率で、▲5%から+15%の範囲に入ることを示します。

ここで、冒頭の井出真吾さんの説明を、私なりにエクセルを使ってシミュレーションしたものが下記のとおりです。

結論から言うと、

1年のリターン5%、1年の標準偏差10%の商品を100万円購入して、そのまま、リターンは再投資して放置した場合は、10年後に平均的には163万円となるが、68%の確率で(すなわち標準偏差1個の範囲)131万円から195万円の範囲となる。また、95%の確率で、100万円から226万円の範囲となると言えます。

この100万円から下になる確率は、(100-95)÷2=2.5%です。

驚くべきことに、年率のリスクが10%だったとしても、10年間5%のリタ-ンを再投資すれば、元本割れリスクは2.5%以下になるということです。また20年間再投資し続けると、標準偏差2個の下限は、176万円ですので、さらに元本割れリスクが小さくなります。

この理由は、リターンは複利で大きくなるが、リスクは経過年の平方根に比例するから、期間経過とともに、大きくなり方が小さくなるからです。

※真ん中の青い線が平均的リターン。外側の上下の線が、95%の確率でこの範囲に元本が推移することを表す。

4.まとめ

以上のような考え方が分かると、まとまった資金があるときに、一部を投信で運用する際に、投信の比較選択をするのに役立つかもと思った次第です。

ただし、投信のリスクとリターンは、あくまでも過去のデータにものですから、未来が必ず、過去の延長線で推移するかというと、これは断言できません。また、数%の確率であれ、10年、20年後に大きく元本割れしている可能性もあるので、投資先の分散や、現金保有などの安全資産を一定程度常に確保しておく必要があると思われます。