民法改正と賃貸借契約の標準契約 杉並区、練馬区、中野区 | 行政書士中村光男事務所

20204月以降の賃貸借契約は、120年ぶりの民法改正により今まで曖昧だったルールが明確化・明文化されました。この民法の改正の概要が、国交省の「賃貸住宅標準契約」にどう反映されているかを概観します。

賃貸借継続中のルールの改正について

賃借物の修繕に関する要件の見直し 

 借りている建物の窓が閉まらなくなった、トイレが壊れた・・・など、賃借物の修繕が必要な場合でも、賃借物はあくまで賃貸人のものですから、賃借人が勝手に手を加えることはできません。しかし、賃貸人が修繕してくれない場合でも賃借人は一切自分で修繕することができないならば、不便です。改正前の民法には、どのような場合に賃借人が自分で修繕をすることができるのかを定めた規定はありませんでした。

 改正後の民法では、

①賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知したか、又は賃貸人がその旨を知ったのに、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき
又は
②急迫の事情があるときには、賃借人が目的物を修繕することができることとされました。

これにより、上記①や②の場合には,賃借人が目的物を修繕したとしても,、賃貸人から責任を追及されることはないことが明確になりました(民法606条、607条の2)。

標準契約では

第9条に反映されました。3項、4項で民法のルールを明確化しているという趣旨です。特に、3項で「協議」がワンクッションとなっています。

◆(契約期間中の修繕) 第9条◆
 甲は、乙が本物件を使用するために必要な修繕を行わなければならない。この場合の修繕に要する費用については、乙の責めに帰すべき事由により必要となったものは乙が負担し、その他のものは甲が負担するものとする。
2 前項の規定に基づき甲が修繕を行う場合は、甲は、あらかじめ、その旨を乙に通知しなければならない。この場合において、乙は、正当な理由がある場合を除き、当該修繕の実施を拒否することができない。
3 乙は、本物件内に修繕を要する箇所を発見したときは、甲にその旨を通知し修繕の必要について協議するものとする。
4 前項の規定による通知が行われた場合において、修繕の必要が認められるにもかかわらず、甲が正当な理由なく修繕を実施しないときは、乙は自ら修繕を行うことができる。この場合の修繕に要する費用については、第1項に準ずるものとする。
5 乙は、別表第4に掲げる修繕について、第1項に基づき甲に修繕を請求するほか、自ら行うことができる。乙が自ら修繕を行う場合においては、修繕に要する費用は乙が負担するものとし、甲への通知及び甲の承諾を要しない。 

賃貸不動産が譲渡された場合のルールの明確化

 民法改正前は、建物の所有者が変わった場合に、新しい所有者が入居者に家賃の支払いを求める明確なルールがありませんでした。

 改正後の民法では、賃貸借の対抗要件を備えていた場合に、賃借物である不動産が譲渡されたときは、賃貸人としての地位は、原則として不動産の譲受人(新たな所有者)に移転するという規定を設けました。
また、不動産の譲受人(新たな所有者)が、賃借人に対して賃料を請求するためには、貸借物である不動産の所有権移転登記が必要である旨の規定を設けました。(民法第605条の2)。

 民法第605条の2

  1. 前条、借地借家法第10条又は第31条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。
  2. 前項の規定にかかわらず、不動産の譲渡人及び譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨及びその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は、譲受人に移転しない。この場合において、譲渡人と譲受人又はその承継人との間の賃貸借が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は、譲受人又はその承継人に移転する。
  3. 第1項又は前項後段の規定による賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない。
  4. 第1項又は第2項後段の規定により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、第608条の規定による費用の償還に係る債務及び第622条の2第1項の規定による同項に規定する敷金の返還に係る債務は、譲受人又はその承継人が承継する。

 標準契約でも、条文はありませんが、上記の民法のルールが適用されます。 

賃貸借終了時のルール改正について

賃借人の原状回復義務及び収去義務等の明確化

貸借契約が終了した場合には、賃借人は、賃借物を原状(元の状態)に戻して賃貸人に返還しなければならないと解されています。また、この原状回復義務の範囲について、国交省のガイドラインなどにあるように、一般に、通常損耗(賃借物の通常の使用収益によって生じた損耗)及び経年変化はその対象に含まれていないと解されています。しかし、これらのルールは改正前の民法の文言上は明確ではありませんでした。

 改正後の民法では、賃借人は,賃借物を受け取った後に生じた損傷について原状回復義務を負うこと、しかし、通常損耗や経年変化については原状回復義務を負わないことを明記しました

 標準契約でも以下のように規定します。

(明渡し時の原状回復) 第15条
乙は、通常の使用に伴い生じた本物件の損耗及び本物件の経年変化を除き、本物件を原状回復しなければならない。ただし、乙の責めに帰することができない事由により生じたものについては、原状回復を要しない。
2 甲及び乙は、本物件の明渡し時において、契約時に特約を定めた場合は当該特約を含め、別表第5の規定に基づき乙が行う原状回復の内容及び方法について協議するものとする。

別表5とは・・・

 

敷金に関するルールの明確化

民法改正前では、敷金の定義や敷金返還請求権の発生時期について規定がありませんでした。

 改正後の民法では、これまでの実務に従い、敷金を「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で,賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義しました(民法622条の2)。

その上で、判例に従い、賃貸借契約が終了して賃借物が返還された時点で敷金返還債務が生じること,その額は受領した敷金の額からそれまでに生じた金銭債務の額を控除した残額であることなどのルールを明確化しています。

 標準契約では、つぎのように例示しています。

(敷金) 第6条
乙は、本契約から生じる債務の担保として、頭書(3)に記載する敷金を甲に交付するものとする。
2 甲は、乙が本契約から生じる債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、乙は、本物件を明け渡すまでの間、敷金をもって当該債務の弁済に充てることを請求することができない。
3 甲は、本物件の明渡しがあったときは、遅滞なく、敷金の全額を乙に返還しなければならない。ただし、本物件の明渡し時に、賃料の滞納、第15条に規定する原状回復に要する費用の未払いその他の本契約から生じる乙の債務の不履行が存在する場合には、甲は、当該債務の額を敷金から差し引いた額を返還するものとする。
4 前項ただし書の場合には、甲は、敷金から差し引く債務の額の内訳を乙に明示しなければならない。

標準契約 杉並区、練馬区、中野区 | 行政書士中村光男事務所

 なお、「礼金」などのその他の一時金については、地域的な慣習であるとの考えから、頭書きの(3)にその他という欄を設け、19条で対応することにしました。

 賃貸借契約から生ずる債務の保証に関するルール改正について

 民法改正前では、連帯保証人が負う支払いの責任には上限が明確になっていませんでした。しかし改正後は「債務極度額の明記」が義務付けられました(民法465条の2)。

 標準契約(連帯保証人型)では、つぎのとおりです。

(連帯保証人) 第17
連帯保証人(以下「丙」という。)は、乙と連帯して、本契約から生じる乙の債務を負担するものとする。本契約が更新された場合においても、同様とする。
2 前項の丙の負担は、頭書(6)及び記名押印欄に記載する極度額を限度とする。
3 丙が負担する債務の元本は、乙又は丙が死亡したときに、確定するものとする。
4 丙の請求があったときは、甲は、丙に対し、遅滞なく、賃料及び共益費等の支払状況や滞納金の額、損害賠償の額等、乙の全ての債務の額等に関する情報を提供しなければならない。

 極度額の設定の参考用に、国交省から家賃債務の保証業者(法人です)が実際に保証実行した額が開示されています(下記、『賃貸住宅標準契約書』について(国土交通省))。下記は一例です。
賃貸借契約の保証損失例 杉並区、練馬区、中野区 | 行政書士中村光男事務所

参考
賃貸借契約に関するルールの見直しhoumusyou

『賃貸住宅標準契約書』について(国土交通省)

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