造作買取請求権、必要費償還請求権、有益償還請求権 杉並区 | 行政書士中村光男事務所

建物の賃貸借契約が終了するときに、賃借人が建物に対して、付加価値が高くなるような費用を負担していた時に、回収する3つの方法があります。それが、造作買取請求権、必要費償還請求権、有益償還請求権です。

これらの請求権は、賃借人の権利ですが、賃貸借契約で排除することも可能です。賃貸借契約を結ぶときは、よく注意して案文を検討してください。

造作物買取請求権

借家契約の終了の際、借家人が建物に付加した造作を家主に時価で買い取らせることのできる権利(借地借家法33条1項で認められている権利)です。

造作とは、畳、建具、電気・水道施設、レストラン店舗の調理台・レンジ・空調・ボイラー・ダクト等の設備一式、シャワートイレ、ガス設備、シャワー設備等々などです。ただし、その付加について家主の同意を得ていることが必要です。

造作は、建物から分離することはできますが、分離しない方が建物の効用を高める意味合いのものです。

民法の原則では、賃貸借契約の終了時には賃借人が付加した造作を収去しなければならないとされているにですが、造作買取請求権は、借家契約33条が賃借人の利益のために認めた例外的規定です。

ただし、造作の買取り義務を負わないよう契約上特約することは可能です(借地借家法37条)。

造作買取請求が正当で有効なとき、家主が代金を支払わない間は、同時履行の抗弁権(双務契約において相手方が債務を履行するまでは自分の債務を履行しないと主張する権利)によって、建物の明渡しを拒絶される恐れがあります。(ただし、判例では、造作買取請求権では建物は留置できない(建物と造作のバランスの違い)ことになっています。ただ、争いにはなりがちです。)

借地借家法33条1項

第三十三条 建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作がある場合には、建物の賃借人は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときに、建物の賃貸人に対し、その造作を時価で買い取るべきことを請求することができる。

注 S32.1.24最高裁第一小法廷

造作買取請求権 留置権 判例 杉並区 | 行政書士中村光男事務所

<造作買取請求権のポイント>

①特約で排除可能

②賃貸借終了時にのみ請求できる。

③出費時に賃貸人の同意が必要

必要費償還請求権

必要費は、賃貸人が修繕すべきことを賃借人が行った場合の費用のことです。

例えば、建物の窓が壊れたため、賃借人が緊急修理した場合です。

本来は、賃貸人がするべきことですから、支出後すぐに償還請求ができますが、契約終了時点でも、支払われていないのであれば、建物の返還をしない権利(留置権)が認められています(注)。

民法608条1項テキストが入ります。

(賃借人による費用の償還請求)
第608条 賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。

注 S33.1.17最高裁第二小法廷

杉並区 | 行政書士中村光男事務所 必要費、有益費

<必要費請求権のポイント>

①特約で排除可能

②賃貸借終了時以前に請求できる。

③出費時に賃貸人の同意不要

有益償還請求権

有益費とは、「建物の価値を客観的に増加させる費用」です。「造作」と異なり、建物と一体化しているような工事費用です。例えば、建物の窓が壊れたので、より気密性の高いグレードの高い製品に換えた場合などです。

判例では、賃借店舗も表入口の改装工事費、飲食店舗のカウンターの改造、流し台の改良費用等が有益費に該当するとされています。賃借物以外に加えた改良で、賃借物自体の価値を増加させるものは有益費として扱われます(例 賃貸建物の道路に面した電灯設備の費用

法的根拠は、民法608条2項と民法196条2項です。

民法608条2項

(賃借人による費用の償還請求)
第608条 2 賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、第196条第2項の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

民法196条2項

(占有者による費用の償還請求)
第196条 2 占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

<有益費請求権のポイント>

①特約で排除可能

②賃貸借終了時のみに請求できる。

③出費時に賃貸人の同意不要

④価値の増加が現存していること(民法196条)

まとめ

造作買取請求権、必要費償還請求権、有益償還請求権は、すべて、建物を借りた方が建物について支出した費用を回収する手段です。ただ、それぞれの区分は曖昧で、現実には争いごとになる可能性もあります。

賃貸人の立場からは、契約で排除しておくことも可能ですし、賃借人の立場であれば、何も決めておかないことで、民法や借地借家法で認められたこれらの権利を確保できることになります。

ご自分の賃貸借契約を考える際のご参考にしてください。

行政書士中村光男事務所について

行政書士中村光男ホームぺージへ

行政書士中村光男事務所連絡先