売買契約

2020年4月1日施行の改正民法で、売主の契約不適合責任が新設されました。どこに注意すべきか、わかりやすく解説します。(この記事は5分で読めます。)

契約不適合責任とは、売買の目的物が、「契約の内容に適合しない」ときに売主が買主に対して負う債務不履行責任のことをいいます。この新しい責任は、その他の有償契約にも準用されています(民法559条)。

契約不適合責任は、任意規定ですので、契約の書き方で、買主に有利にしたり、売主に有利にしたりできます。したがって、契約を交わす際には、この責任がどう記載されているかを慎重にチェックする必要があります。

まず新民法の契約不適合責任の条項を読みましょう

従来は、商品に「隠れた瑕疵」がある場合に、売主は「瑕疵担保責任」を負うという考え方ででしたが、今回の改正では、商品が「契約の内容」に適合しているか否かになりました。このため、売買契約で商品についての納期、使用目的などを具体的に書き込むことが重要となりました。

新たな民法の該当条文(562条~564条)は、分かりやすく常識的ですので、まずは、条文をそのまま読むのがよいと思います。

まず、買主の「追完請求権(目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しを求める権利)」を認める条文です。

民法(買主の追完請求権)
第562条引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。

前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。

次に、買主に「代金減額請求権」を認める条文です。

民法(代金の減額請求権)

563条 前条第1項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。

2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。

一 履行の追完が不能であるとき。

二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。

三 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。

四 前三号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。

1項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前二項の規定による代金の減額の請求をすることができない。

最後に、買主に「解除権」「損害賠償請求権」を認める条文です。

民法(買主の追完請求権)
(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)
564条 前二条の規定は、第415条の規定による損害賠償の請求並びに第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない。

まとめると、買主には、以下の権利があることが分かります。

買主の請求権
追完請求(562条1項) 【新設】 ・修補請求
・代替品引渡請求
・不足品の引渡し請求
代金減額請求(563条) 【新設】 購入代金の減額請求
契約解除(564条) ・契約解除(解除に基づく代金返還請求)
損害賠償請求(564条) ・損害賠償請求

注意したいこと

契約不適合責任は、目的物が「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない」ときに発生します。しかし、どのような品質が「契約の内容」なのかはわかりやすい定義がないと争いのもとです。したがって、契約上、目的物に求める水準を具体的に記載し、双方がクリアーに品質水準を判断できるようにしておくべきです。

また、契約不適合責任は任意規定ですので、売主買主の合意で法の条文とは異なる約定も可能です。

買い手側有利の例

買主に有利にしたい場合は、契約不適合責任を広くした方がよいので、以下のような点に留意すべきです。

1.仕様との不一致だけでなく、「取引上通常期待される品質・性能」などといった包括的、一般的な文言を追加する。

2.562条1項但し書き「ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。」は適用しないという契約にする。

売り手側有利の例

売主に有利にしたい場合は、契約不適合責任を狭くした方がよいので、以下のような点に留意すべきです。

1.「甲乙間で定めた仕様書の内容と一致しない」などの定義規定を設けて、契約不適合の内容を明確に限定する。

2.「軽微な不備等を除く」などの文言を追加することで、売買の目的とは関係しない点について責任を負わない旨を明確にする。

3.562条1項但し書き「ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。」の規定を修正し「売主は、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。」とする。

まとめ

契約不適合責任の民法の規定はシンプルですが、実際の売買契約では、さらに具体化して、後々のトラブルがないように、あるいは、自社に有利なように交渉するのが良いと思われます。

また、相手から提示された契約案がどちらに有利に記載されているかに注意して読む必要があります。

上の例は、そのごく一部です。契約の作成やチェックでお悩みの場合は、行政書士など専門家に相談する方法もあります。

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