本稿では、「暴力団排除条項(反社条項)」と「表明・確約書(暴力団等反社会的勢力ではないこと等に関する表明・確約書)」について、契約書に定めるべき理由・条項の例文(ひな形)などを行政書士が分かりやすく解説します。(この記事は約5分で読めます)
暴排条項は全事業者の努力義務
暴力団排除条項(以下、暴排条項)は、暴力団等の反社会的勢力を取引から排除するために、契約書に盛り込まれることが一般的となっている規定です。表明・確約書は契約は、自らが反社会的勢力でないことを相手方に確約する覚書です。
平成19年6月19日の政府の「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」を受け、全国の都道府県で暴力団排除条例が制定されており、取引契約に暴排条項(表明・確約)を盛り込むことは、すべての事業者の努力義務とされています。
なお、各自治体の(公的財団法人)○○県暴力追放運動推進センターに、暴力団情報の提供を申請する場合は、事業者が条例の義務を果たしていること(契約に暴排条項を盛り込むことを含む)が、申請に応じる要件のひとつとなっています。
この意味でもコンプライアンス・リスクマネジメントの双方で、暴排条項の規定化は重要な問題です。
「暴排条項」の内容
暴排条項は、お互いが相手に自分が反社会的勢力でないことを保証し、違反があれば相手方は簡単に契約を解消できるとする旨の規定です。契約の一方が公的主体であったり、保険会社であったりする場合には一方のみの義務とするケースもあります。
暴排条項の効果は、①事実上「コンプライアンス宣言」と同様であること、⓶契約時に契約相手を牽制し偽装契約を抑制すること、②契約後、相手方が暴力団等反社会的勢力と判明した場合に契約解除の根拠となること、等です。
暴排条項のひな形の例は、以下のようなものです。
1.契約当事者はそれぞれ相手方に対し次の各号に掲げる事項を確約する。
(1) 自らが、暴力団、暴力団関係企業、総会屋若しくはこれらに準ずる者又はその構成(以下総称して「反社会的勢力」という)ではないこと。
(2) 自らの役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいう)が反社会的勢力ではないこと。
(3)反社会的勢力に自己の名義を利用させ、この契約を締結するものでないこと。
(4)自ら又は第三者を利用して、この契約に関して次の行為をしないこと。
⓵相手方に対する脅迫的な言動又は暴力を用いる行為
② 偽計又は威力を用いて相手方の業務を妨害し、又は信用を毀損する行為
2.契約当事者は相手方が前項の確約のいずれかに反した場合には本契約を何らの催告を要しないで、直ちに解除することができる。
3 前項の規定により、本契約が解除された場合には、解除された者は、その相手方に対し、相手方の被った損害を賠償する。
4 第2項の規定により、本契約が解除された場合には、解除された者は、解除により生じた損害について、その相手方に対し一切の請求を行わない。
「表明・確約書」の内容
表明・確約書とは、契約する際に、相手方から、ひとつひとつの質問に「表明、確約をするかしないか」にマルをつけるプロセスを設けることで、契約前に”疑い”を表面化させて、反社会的な勢力の排除を狙うものです。
契約前に排除できる期待が大きい点で、契約後に強い解除権をもたせる暴排条項とは違った効果があるとされています。さらに、表明・確約違反の場合に、契約の解除及び相手方への損害賠償請求や、刑事事件として「詐欺罪」としての立証を容易にする効果があります。このため暴排条項と表明・確約書を併用すると、効果が高いとされています。
表明・確約書のひな形の例は以下のようなものです。
暴力団等反社会的勢力ではないこと等に関する表明・確約書
○○株式会社
代表取締役 殿
○○株式会社代表取締役
住所 ************************************
氏名 ○○ ○○
昭・平 年 月 日生( 歳)
1 私[当社(役員及び経営に実質的に関与している者を含む)]は、現在又は将来にわたって、次の各号の反社会的勢力のいずれにも該当しないことを表明、確約〈いたします・いたしません〉。
① 暴力団
② 暴力団員
③ 暴力団員でなくなった時から5年を経過していない者
④ 暴力団準構成員
⑤ 暴力団関係企業
⑥ 総会屋等、社会運動・政治活動等標ぼうゴロ
⑦ 特殊知能暴力集団
⑧ その他前各号に準ずる者
2 私[当社]は、現在又は将来にわたって、前項の反社会的勢力と次の各号のいずれかに該当する関係がないことを表明、確約〈いたします・いたしません〉。
① 反社会的勢力によって、その経営を支配される関係
② 反社会的勢力が、その経営に実質的に関与している関係
③ 自己、自社若しくは第三者の不正の利益を図り、又は第三者に損害を加えるなど、反社会的勢力等を利用している関係
④ 反社会的勢力に対して資金等を提供し、又は便宜を供与するなどの関係
⑤ その他役員等又は経営に実質的に関与している者が、反社会的勢力との社会的に非難されるべき関係
3 私[当社]は、自ら又は第三者を利用して次の各号のいずれの行為も行わないことを表明、確約〈いたします・いたしません〉。
① 暴力的な要求行為
② 法的な責任を超えた不当な要求行為
③ 取引に関して脅迫的な言動をし、または暴力を用いる行為
④ 風説を流布し、偽計又は威力を用いて貴社の信用を毀損し、又は貴社の業務を妨害する行為
⑤ その他前各号に準ずる行為
4 私[当社]は、下請け又は再委託先業者(下請け又は再委託契約が数次にわたるときは、その全てを含む。以下同じ。)との関係において、次の各号のとおりであることを表明、確約〈いたします・いたしません〉。
① 下請け又は再委託先業者が前1、2及び3に該当せず、将来においても前1、2及び3に該当しないこと
② 下請け又は再委託先業者が前号に該当することが判明した場合には、直ちに契約を解除し、又は契約解除のための措置をとること
5 私[当社]は、下請け又は再委託先業者が、反社会的勢力から不当要求又は業務妨害等の不当介入を受けた場合は、これを拒否し、又は下請け又は再委託先業者をしてこれを拒否させるとともに、速やかにその事実を貴社に報告し、貴社の捜査機関への通報に協力することを表明、確約〈いたします・いたしません〉。
6 私[当社]は、これら各項のいずれかに反したと認められることが判明した場合及び、この表明・確約が虚偽の申告であることが判明した場合は、催告なしでこの取引きが停止され又は解約されても一切異議を申し立てず、また賠償ないし補償を求めないとともに、これにより損害が生じた場合は、一切私の責任とすることを表明、確約〈いたします・いたしません〉。
令和 年 月 日
署名 ○○ ○○ ㊞
(注)契約相手(乙)に保証人がある場合には、契約相手、契約相手の保証人は各別に作成してください。
1から6までの各項目末尾の〈いたします・いたしません〉は、必ず署名者本人が、どちらかを○で囲んでください。
出典:暴追都民センター資料 https://boutsui-tokyo.com/wp-content/uploads/kakuyaku.pdf
まとめ
今や暴排条項は、事業者のコンプライアンスとリスクマネジメントとして必須な条項です。また、取引によっては、表明・確約書の併用が望ましい場合もあります。まずは、自社の契約書の暴排条項を確認し、不安があれば専門家等にご相談することが望まれます。
【参考】
・政府「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」(平成19年6月19日)
https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji_keiji42.html
・東京都暴力団排除条例について(警視庁)
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/anzen/tsuiho/haijo_seitei/haijo_jourei.html
行政書士中村光男事務所について