上場株式等の配当所得を確定申告し、前年以前からの繰越損と、今年度の配当所得の源泉徴収を相殺し税金の還付を受けようとすることはよくあるかと思います。ただ、国保加入の方、または今年から国保に加入する予定の方が、これをすると税金の還付以上に国民健康保険料が上がってしまうことがあります。
自治体や証券会社のHPを見ると、注意事項として記載はあることですが、あまり知られていないことではないかと思います。
国民健康保険料の計算方法
国民健康保険料は「前年の1月~12月の所得」「加入者数」「年齢」をもとに計算しています。
また、医療分・後期高齢者支援金分・介護分(40歳~64歳の方のみ)の3つで構成されています。
それぞれに加入者の所得に応じて負担する所得割額と、加入者一人ひとりが均等に負担する均等割額があります。
計算方法は、各自治体で少々異なりますが、分かりやすく説明してある江戸川区のR5年の場合は、下記の様です。
料率は自治体ごとに違います。江戸川区では、①②③の合計は13.34%ですが、杉並区の場合は、11.79%です。
問題は所得とは何かですが、「所得割算定のもとになる所得=令和4年中の所得金額の合計-基礎控除43万円」です。
なお、配偶者控除・扶養控除・社会保険料控除・医療費控除等の各種所得控除や、住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)等の各種税額控除、雑損失の控除は適用されません。
「令和4年中の所得金額」に含まれる主な所得は以下のとおりです。
・給与所得(事業専従者給与等を含む)
・雑所得(公的年金所得を含む)
・利子所得
・配当所得(注)
・不動産所得
・事業所得(営業・農業等)
・総合短期譲渡所得総合長期譲渡所得(土地・建物以外の財産を売却したときの所得)
・分離短期譲渡所得分離長期譲渡所得(土地・建物等を売却した時の所得で、特別控除後の金額)
・株式等に係る譲渡所得(注)
・一時所得
・山林所得
(注)源泉徴収を選択した特定口座の上場株式等の譲渡所得等や、住民税が源泉徴収(特別徴収)されている上場株式等の配当所得等は、確定申告をする必要がないこととされています(申告不要制度)。確定申告をしない場合、これらの所得は国民健康保険料の算定対象に含まれません。
なお、定年後に受領する毎年の個人年金などは、「一時所得」ですから、国保計算の対象所得(経費控除後)となります。
<要注意>上場株式等に係る配当所得等及び譲渡所得等について
源泉徴収を選択している特定口座内の上場株式等の譲渡所得等や住民税が源泉徴収されている上場株式等の配当所得等については、確定申告をする必要がないこととされています(申告不要制度)。
確定申告をしない場合、これらの所得は、国民健康保険(以下、国保)の計算対象には含まれません。
しかし、損益通算や繰越控除を適用するためなどの理由で確定申告をした場合は、これらの所得についても、給与や公的年金などの他の所得とともに、国保料の計算対象に含まれます。
このとを分かりやすく説明している松山市のHPでは以下のように具体的に説明しています。
個人の配当金に対する税率は、20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)ですから、単純に考えて、上記の例の場合、損失を申告することで還付される税金は、損失100万円×20.315%=203,150円のはずです。
一方、確定申告しなければ国保計算の基礎にならなかった配当所得(200-100万円)の100万円に、江戸川区なら13%程度(約13万円)、杉並区なら11.7万円程度の国保料が追加されてしまうはずです。
この場合は、還付される税金が増加する国保保険料を上回るので、トータルで考えると配当所得の損失を確定申告した方が得です。
しかし、概ね損失の2倍以上の損失控除後の譲渡や配当の所得がある場合は、この損得は逆転します。
このことを、親切(?)にHPで注意喚起している自治体もあります。
川崎市の例
「上場株式等に係る配当所得等及び譲渡所得等については、「申告不要制度」を選択した場合、国民健康保険料の所得割額を算定する総所得金額等に計上されません。「総合課税」及び「申告分離課税」を選択した場合は、国民健康保険料の所得割額を算定する総所得金額等に計上されます。
課税方式を選択した結果、見込まれる税額上の還付分や減額分より、国民健康保険料の増額分が上回る場合がありますので、ご注意ください。」
確定申告の訂正方法
配当所得を確定申告不要とするか、損益通算や繰越控除、各種控除等の適用を受けるために確定申告するかは自由です。確定申告をを訂正したい場合はどうしたら良いでしょうか。
国税庁のE-taxのQ&Aでは、
「 Q 当初、提出した申告データに誤りがあり、訂正したいのですがどうすればいいですか。
A 申告期限内であれば訂正後の申告データを作成し、送信してください。特に、訂正したデータを送信した旨を税務署に連絡する必要はありません。
追加で添付書類を提出する必要がある場合には、申告書等送信票(兼送付書)とともに提出してください。
なお、従来どおり、書面で訂正して申告を行うことも可能です。
(注1)訂正した部分だけではなく、すべての帳票を送信してください。
添付書類の追加がない場合は、添付書類送付書を出力して再度送付する必要はありません。
(注2)申告期限経過後に誤りにお気づきになられた場合の手続方法については、最寄りの税務署へお尋ねください。」
となっています。
まとめ
個人が株式投資を行う場合、いくつか、知らないと損をする可能性のあることがあります。
例えば、配当金の受け取り方はいくつかありますが、実際に自分の銀行で受け取りたいと思って、登録配当金受領口座方式などを選択すると、NISA口座で保有している株式の配当金が非課税になりません。
今回、記載した(前年以前分などの)株式譲渡の損失を確定申告すると、国保負担額が上がるというのもその一つでしょう。
何かメリットがあるときには、デメリットもあるのではないかという疑いをもって、説明の注意書きをよく読むということが必要ですね。
(今回の記事は、私の経験も踏まえ、各HP等を参照しながら書きました。具体的に税や国民健康保険の検討をされる際には、ぜひ各自治体や税務署等にお尋ねください。)
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