遺言が無くて困った。家業の相続事例 杉並区の行政書士が解説します。

民法の法定相続分は、子どもの権利はみな平等という考え方が、基本になっており、子どもが3人であれば、子どもはこども全体の相続財産の1/3が法定相続分です。しかし、長男に家業を継がせたいなど、民法の想定と、被相続人が叶えたい家族像との間に乖離がある場合は、遺言によってその差を埋めないと、乖離の修正は、残されたご遺族の課題として先送りされることになります。

遺言がない場合、ご家族全員が善意でも、相続を通じて、家族関係が壊れてしまうことがあります。一例として、妻と長男夫婦とで、自宅で代々パン屋を営んでいるご主人のケースです。  /ねりすぎな(練馬・杉並・中野)の相談窓口、杉並区行政書士が解説します。

家業を継がせたい後続人がいるのに遺言がないケース

 そのパン屋さんは、長年にわたり地元に愛されてきました。ご主人は、長男夫婦に後を継いでもらうと公言しており、長男夫婦も、年老いていくご主人夫婦の面倒も見ながら、パン職人としての腕を磨いてきました。この家族には、長女と、次男がいますが、すでに結婚してそれぞれ別の職業につき、独立しています。

 ご主人は、兄弟関係も円満に見えたので、特に遺言もせずにいるうちに病死しました。

 さて、長男は、父の言葉に従い、店舗の土地建物、商品、事業資金などを相続しようと思いましたが、意外にも妹や弟夫婦からは、「自分たちの生活もある」ということで、法定相続分とおりの遺産分割をして欲しいという意見が出てきました。悪いことに、長男のお嫁さんに長年世話されていたAさんの妻は、介護を口実に、あっという間に長女に引き取られていってしまいました。

 姉弟は、長男がパン屋を継ぐとはわかっていながら、いざとなると「自分たちにも平等の権利がある。」と思い始めたようです。。

 しかし、店舗兼自宅以外に特に大きな資産もないのですが、店舗兼自宅を売却すれば、Aさんの遺志どおりの家業の存続ができなくなります。

 結局、家庭裁判所の調停でも、相続人間での遺産分割協議はまとまらず、長男は銀行から融資を受けて、他の相続人分の現金を自分で支払う代償分割を選択しましたが、その後、銀行融資を返済するまでに、大変な苦労を味わうことになってしまったとのことです。

 姉弟姉妹は相続権という点では平等です。ご主人も、普段は仲の良い自分の子どもたちが、まさか自分の死後、長男の家業引継ぎをめぐり、子供たちが争う結果になるとは思わなかったかもしれません。

 しかしそれぞれの子供には配偶者があり、兄と等しい相続権もあるのですから、このようなことは起こりかねません。

ではどうすればよかったのでしょうか。

公平であること

 「公平な相続」と残された遺族が思うかどうかは、それぞれの相続人の胸の内になりますので、正解はなく難しいところです。ご自分の家族に限って、「争族」にならないという風に考えるのが普通だと思います。しかしながら、相続人間で「不公平」と思われる点があれば、何かを原因にそれが残されたご家族の争いの種になることは考えられます。

 特に、特定の相続人に家業を継がせたい場合などは、不動産の売却分配などの手段はとりにくいので、他に資産が少ないなどの場合は、他の相続人や相続人の家族から不満が出る可能性も考える必要があると思います。

遺言

 各相続人の遺留分を侵害しない内容の遺言あればトラブルの可能性は少なくなります。もちろん、長男に100%相続させるという遺言自体が法的に無効ではありませんし、他の相続人がそれで良しとするケースもあるかもしれません。

 しかし、配偶者や子供には、それぞれの生活保障のための「遺留分」が認められており、長男に相続財産が集中すれば、遺留分を侵害された範囲で、他の相続人から長男に金銭請求が生じ、結局、姉弟と争いなるかもしれません。

 このような懸念を払拭するには、配偶者や子供たちの遺留分に配慮した遺言が有効となります。

生命保険

 家業を継がせたい長男を受取人にして、自分を被保険者にした生命保険をかけておくと、自分が死亡した場合に、長男に生命保険金が支払われます。判例では、この生命保険金は長男が固有の権利で取得している財産であって、親から継承される相続財産とは別物であると解釈されており、遺産分割協議の対象ではありません。

 したがって、長男はこの生命保険金を使って、自宅兼店舗を売却することなく、他の相続人の相続分を支払うことができます。このようなストーリーを遺言として残しておくと、スムーズに家業継続に役立つと思います。

 もっとも、生命保険をかけるには相応の保険料が必要ですし、法律上は相続財産ではないにしても、税法上はみなし相続財産とみられますので、一定限度の非課税枠を超える金額は、相続税の対象となります(国税庁HP)。

 また、判例では、生命保険は相続財産の対象ではないことを原則としつつ、「到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」には、生命保険金がその受取人の特別受益の対象となる場合もあるとしたものあります。そのような場合は、生命保険金が、相続財産扱いとなって、相続財産の計算上考慮されてしまいます。

被相続人を保険契約者及び被保険者とし,共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人とする養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は,民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないが,保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率,保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,特別受益に準じて持戻しの対象となる。

 以上のような注意点が生命保険にはありますので、契約の際には、専門家のアドバイスを得たほうが良いと思われます。

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