建設現場で働く外国人を目にすることが多いですが、どのような在留資格で働いているか疑問に思ったことはありませんか。
2021年度の国交省の調査では、建設業全体の外国人総数は110,018人、主な内訳は、技能実習生が70,488人、特定技能が6,360人、外国人建設就労者(東北の復興や、オリパラ対策で2022年末までの特例)1,767人です。
このうち、技能実習生制度は、労働力確保が目的ではなく、開発途上国向けの「人づくり」国際貢献が目的です。一方、特定技能は、人出不足の深刻な特定産業分野(建設、介護、製造、農業等の12分野)に、相当程度の知識や経験を有する外国人を労働力として受け入れる制度です。
そして、今年の8月30日から、建設業の業務区分が19から「土木」「建築」「ライフライン・設備」3区分に変更されました。この背景は何でしょうか。
建設分野の外国人材の受入れ状況
建設分野の外国人の数は約11万人で、全産業の約6.4%とされています。
在留資格別では技能実習生が最多(2021年:約7万人)で、近年増加傾向ですが、実習制度であり就労制度ではない点に注意が必要です。
2015年から、オリンピック・パラリンピック東京大会の関連施設整備等による一時的な建設需要の増大に対応するため、技能実習修了者を対象とした「外国人建設就労者受入事業」が開始されましたが、2022年度末で終了予定です。
特定技能外国人は、2019年度に制度が開始し、コロナ禍による入国制限の影響もあるものの、人数は増加中です。( 2022年4月には、2号特定技能外国人が建設分野において初認定(コンクリート圧送職種)されました)
在留資格「特定技能」のおさらい
「特定技能」は、2019年4月1日に施行された改正入管法の、新たに創設された制度です。以下のような特長があります。
特定技能は、労働力不足を補う制度であること
特定技能の在留資格が活動できる分野は、人出不足が深刻な12分野となっています。この分野内であれば、「技術・人文・国際業務」のように専門的な知識・技術を要する業務でなく、かつ「技能」のように熟練技能を要しない業務に従事できる制度となっています。
ただし、この制度でも、各産業分野ごとに、従事できる業務は定義されており、単純な作業労働への従事を認めるものではありません。
【就労が認められる在留資格の技能水準】
「特定技能1号」「特定技能2号」があること
【特定技能1号】
・特定産業分野(注)に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。在留者数は、108,699人(令和4年9月末現在、速報値)です。
(注)1号を受け入れる特定産業分野(法務省令)
介護、ビルクリーニング、素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業(製造3分野)、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業の12分野。
【特定技能2号】
・特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。在留者数: 3人(令和4年9月末現在、速報値)です。
(注)2号を受け入れる特定産業分野(法務省令)
建設、造船・舶用工業の2分野。
特定技能1号 | 特定技能2号 | |
在留期間 | 1年、6か月又は4か月ごとの更新、通算で上限5年まで | 3年、1年又は6か月ごとの更新。上限なし。 |
技能水準 | 試験等で確認(技能実習2号を修了した外国人は試験等免除) | 試験等で確認 |
日本語能力水準 | 生活や業務に必要な日本語能力を試験等で確認 (技能実習2号を修了した外国人は試験免除) |
試験等での確認は不要 |
家族の帯同 | 基本的に認めない | 要件を満たせば可能(配偶者、子) |
支援 | 受入れ機関又は登録支援機関による支援の対象 | 対象外 |
特定技能特有の要件があること
この在留資格は、人出不足分野に外国人労働力を増強することが目的ですが、健全な制度運営のためには、国として適正な管理監督が求められます。このため、他の在留資格にない要件があります。
通常の在留資格は、原則として「在留資格該当性」と「上陸基準適合性(基準省令適合性)」を立証すれば在留資格が許可される可能性があります。
「特定技能」も考え方は同じですが、「在留資格該当性」と「上陸基準適合性」の判断基準として、「特定技能基準省令(特定技能雇用契約及び一号特定外国人支援計画の基準を定める省令)」や、「産業分野ごとの引用方針・上乗せ基準の告示等、より詳細な基準が決まっています。
具体的には、「受入れ機関について基準と義務があること」「登録支援機関について基準と義務があること(1号のみ)」等です。
受入れ機関についての基準と義務
【基準】
① 外国人と結ぶ雇用契約が適切(例:報酬額が日本人と同等以上)
② 機関自体が適切(例:5年以内に出入国・労働法令違反がない)
③ 外国人を支援する体制あり(例:外国人が理解できる言語で支援できる)
④ 外国人を支援する計画(※)が適切(例:生活オリエンテーション等を含む)
(※)支援計画は、職業生活上、日常生活上又は社会生活上の支援として必要であるとして省令で定められた10項目の実施内容・方法を定める必要があります。
【義務】
① 外国人と結んだ雇用契約を確実に履行(例:報酬を適切に支払う)
② 外国人への支援を適切に実施
→ 支援については、登録支援機関に委託も可(全部委託すれば1③も満たす)
③ 出入国在留管理庁への各種届出
(注)①~③を怠ると外国人を受け入れられなくなるほか、出入国在留管理庁から指導、改善命令等を受けることがある。
登録支援機関についての基準と義務
【基準】
① 機関自体が適切(例:5年以内に出入国・労働法令違反がない)
② 外国人を支援する体制あり(例:外国人が理解できる言語で支援できる)
【義務】
① 外国人への支援を適切に実施
② 出入国在留管理庁への各種届出
(注)①②を怠ると登録を取り消されることがある。
建設分野の特定技能外国人制度
1.建設業分野だけの仕組み
人材不足が深刻な12の特定分野に共通の仕組みに加え、以下のような特長があります。
①国交省による計画審査・認定(入管の申請前に必要です)
②JAC(建設技能人材機構)へ直接または間接に加入すること
③FITS(国際建設技能振興機構)の適正就労管理を受けること
この背景ですが、建設業では外国人の技能実習生の失踪が多く、不法就労や安価な労働力として外国人を扱っているケースもあるため、外国人の適正な処遇によって、企業と外国人の信頼関係を構築し、長期的な建設業の担い手を育成していこうという意図があります。
JAC(建設技能人材機構)の役割
受入企業は、「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針について(平成30年12月25日閣議決定)」に基づき、特定技能外国人受入事業実施法人である(一社)建設技能人材機構(JAC)に間接的に又は直接的に加入することが必要です。
JACは、低賃金による外国人雇用を未然に防ぎ、ダンピングを防いで公正な競争環境を確保するとともに、建設業界の処遇改善を図るため教育訓練及び技能評価試験の実施、試験合格者や試験免除者の就職・転職の支援、受入企業及び1号特定技能外国人に対する巡回指導並びに母国語相談ホットライン業務などを行います。
JACへの会費は、所属する建設業者団体がJACの正会員は、個別の企業が払う必要はありませんが、直接加入する場合は24万円(年間)です。
JACへの会費とは別に、1号特定技能外国人を受け入れる建設企業は、JACの業務に要する費用として1号特定技能外国人1名につき毎月、以下の表に記載する受入負担金を負担する仕組みとなっています。
FITS(国際建設技能振興機構)
FITSは、JACの委託を受けて、建設分野の特定技能外国人の受入れが適切に行われるよう「適正就労監理機関」として、1号特定技能外国人を受け入れる建設企業の巡回訪問に取り組みます。
2.建設業の業務区分は19区分から3区分に変更(2022年8月31日~)
従来、建設業の中で、特定技能の外国人が働ける業種は19に区分でしたが、これには①各外国人の業務範囲が限定的である。②建設業に係る作業の中で特定技能に含まれないものがある、という難点がありました。
そこで、2022年8月31日から、「土木」「建築」「ライフライン・設備」の3区分にして、業務範囲を拡大しました。
業務区分と従事できる工事業の考え方
1. 建設業の3種類の業務区分は、作業の性質の区分なので、作業現場の種類に関わらず、作業可能です。
2. 建設業の3つの業種区分で、従事できる工事範囲は広い。
受入企業が実施しなければならない10の義務的支援
1号特定技能外国人に対する支援は、「義務的支援」と「任意的支援」に分けられます。義務的支援はその全てを行う必要があり、「1号特定技能外国人支援計画」には全ての義務的支援を記載しなければなりません。なお、任意的支援についても「1号特定技能外国人支援計画」に記載した場合には支援義務が生じます。
受入企業が1号特定技能外国人に対して実施しなければならない義務的支援は、以下の10項目です。JACは2項目(7と9)について無償で支援を実施しています。
義務的支援 事前ガイダンスの提供/出入国する際の送迎/住居確保・生活に必要な契約支援/生活オリエンテーション/公的手続等への同行/日本語学習の機会の提供/相談・苦情への対応*JACが無償で支援を実施/日本人との交流促進/転職支援(人員整理等の場合)*JACが無償で支援を実施/定期的な面談・行政機関への通報
まとめ 受入企業が行う手続き
建設分野の特定技能外国人を受け入れるために企業に課された主な手続きは以下の通りです。
受入れ 前
※建設特定技能受入計画の認定申請に必要
4 特定技能雇用契約に係る重要事項説明
5 特定技能雇用契約の締結
※現に有する在留資格の在留期間満了日(または入国予定年月日)の半年前から申請可能
※建設特定技能受入計画の審査は、受入企業の主たる営業所を管轄する地方整備局等が担当します。地域によっては審査が完了するまでに3〜4か月かかる場合あります。
8 「在留資格変更許可申請」(⇒ 出入国在留管理庁「在留資格変更申請」へ)または「在留資格認定証明書交付申請」(⇒出入国在留管理庁「在留資格認定証明書交付申請」へ) (窓口またはオンライン申請(地方出入国在留管理局))
※「在留資格変更許可申請」は現に有する在留資格の在留期間満了日の2ヶ月前から申請可能
※「在留資格認定証明書交付申請」は入国予定年月日の3ヶ月前から申請可能
受入れ 後
9 1号特定技能外国人受入報告書の提出(オンライン申請(地方整備局等))
⇒ 外国人就労管理システムへ
10 受入後講習の受講(一財)国際建設技能振興機構(FITS)
⇒ FITS(国際建設技能振興機構)へ
参考
【国交省資料】
〇概要資料:建設分野における外国人材の受入れ
〇分野別運用方針:建設分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針
〇分野別運用要領:「建設分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」に係る運用要領
〇告示:出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令及び特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等 を定める省令の規定に基づき建設分野に特有の事情に鑑みて当該分野を所管する関係行政機関の長が告示で定める基準を定める件(平成31年国土交通省告示第357号) (新旧対照表はこちら)
〇運用要領(ガイドライン):特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領 ~建設分野の基準について~
【その他】
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