在留資格:技術・人文・国際業務の許可要件 / 杉並区の行政書士が解説

「技術・人文・国際業務」の在留資格を巡り、新聞記事で、「ベトナム人の在留資格偽り申請、単純労働の現場に派遣…ブローカーの男3人逮捕」通訳のはずが工場勤務 人材会社長らが不法就労助長容疑などの報道を見かけるときがあります。

技術・人文・国際業務は、就労系ビザの中で最もポピュラーな在留資格です。具体例は、機械工学等の技術者、通訳、デザイナー、私企業の語学教師、マーケティング業務従事者などです。

しかし、定義条文を一読しただけでは、イメージの把握が難しい資格でもあります。また、在留資格で認められた活動と、業務の実態が異なれば、記事のように重大な違法行為となります。したがって、技術・人文・国際業務の在留資格が認める活動については正確な理解が必要です。

出入国在留管理庁は、技術・人文・国際業務の申請者の予見可能性を高める目的で、「技術・人文・国際業務の在留資格の明確化について」という文書を出しています。杉並区の行政書士が解説します。

在留資格該当性

技術・人文・国際業務の在留資格に該当する活動は、以下のように定義されています。

在留資格「技術・人文・国際業務」の活動内容

(1)本邦の公私の機関との契約に基づいて行う(2)理学、工学その他の自然科学の分野若しくは法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務」又は「外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動(一の表の教授の項,芸術の項及び報道の項の下欄に掲げる活動並びにこの表の経営・管理の項から教育の項まで,企業内転勤の項及び興行の項の下欄に掲げる活動を除く。)

(1)本邦の公私の機関との契約に基づくものであること

・本邦の公私の機関とは、会社、国、地方公共団体、独立行政法人、公益法人等の法人、任意団体、本邦に事務所、事業所等を有する外国の国、地方公共団体(地方政府)、外国法人、個人事業主などを指します。

・「契約」には、雇用のほか、委任、委託、嘱託等が含まれますが、在留活動が継続して行われることが見込まれる必要があります。

(2)自然科学の分野または人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務」
      または
          「外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務」

(ア)「自然科学の分野または人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務」   の場合
自然科学、人文科学のいずれの場合も、前提として、学術上の素養を背景とする一定水準以上の専門的能力を必要とする活動でなければなりません。一般的に、求人の際の採用基準に「未経験可。すぐに慣れます。」と記載のあるような業務内容や、上陸許可基準に規定される学歴又は実務経験に係る要件を満たしていない日本人従業員が一般的に従事している業務内容は、対象となりません。 

(イ)「外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務」の場合
・単に外国人であるだけでなく、本国内の文化の中では育てられないような思考又は感受性に基づく一定水準以上の専門的能力を持って、その能力を要する業務に従事するものであることが必要です。

 (ウ)行おうとする活動が「技術・人文知識・国際業務」に該当するものであるか否かは、在留期間中の活動を全体として捉えて判断することとなります。

・「技術・人文知識・国際業務」に該当する活動は、ごく一部であり、その部分は特段の技術又は知識を要しない業務や、反復訓練によって従事可能な業務を行う場合には、「技術・人文知識・国際業務」に該当しないと判断されます。
・行おうとする活動に「技術・人文知識・国際業務」に該当しない業務が含まれる場合であっても,それが入社研修の一環であって、今後必ず必要となるものであり、日本人についても入社当初は同様の研修に従事するとい
った場合には、「技術・人文知識・国際業務」に該当するものと取り扱っています。

上陸基準適合性

(1)自然科学の分野または人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務」に従事しようとする場合

⇒次のいずれかに該当することが必要です。

従事しようとする業務に必要な技術又は知識に関連する科目を専攻して卒業していること
(大学・専修学校において専攻した科目と従事しようとする業務が関連していることが必要)

10年以上の実務経験があること
実務経験の期間には,大学等において関連科目を専攻した期間も含まれます。
また、「技術・人文知識・国際業務」に該当する業務に10年従事したことまで求めるものではなく、関連する業務に従事した期間も実務経験に含まれます。

(2)外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務」に従事しようとする場合

⇒次のいずれにも該当することが必要です。

①翻訳、通訳、語学の指導、広報、宣伝又は海外取引業務、服飾若しくは室内装飾に係るデザイン、商品開発その他これらに類似する業務に従事すること

従事しようとする業務に関連する業務について3年以上の実務経験があること
従事しようとする業務と同じ業務の実務経験である必要はありませんが、関連する業務である必要があります。また、大学を卒業した者が、翻訳、通訳又は語学の指導に係る業務に従事する場合は実務経験は不要です。

(3)日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること

日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けることが必要です。

技術・人文・国際業務への在留資格の変更許可の際の審査項目

(1)素行が不良でないこと
良好でない場合には消極的な要素として評価されます。例えば,資格外活動許可の条件に違反して,恒常的に1週について28時間を超えてアルバイトに従事しているような場合には,素行が善良であるとはみなされません。

(2)入管法に定める届出等の義務を履行していること
在留カードの記載事項に係る届出,在留カードの有効期間更新申請,紛失等による在留カードの再交付申請,在留カードの返納,所属機関等に関する届出などの義務を履行していることが必要です。

例えば、技術・人文・国際業務の在留資格者が、勤め先を変えた場合は、入管法19条の16「契約の相手方である本邦の公私の機関の名称若しくは所在地の変更若しくはその消滅又は当該機関との契約の終了若しくは新たな契約の締結」にあたりますので、14日以内に出入国在留管理庁長官に変更届の提出が必要です。

許可事例・不許可事例の例

今で記載したような、具体的判断基準によって、どのような許可・不許可があったかを法務省の資料から例示します。(許可・不許可事例

本国の大学を卒業した者に係る許可事例

【許可事例】

本国において工学を専攻して大学を卒業し、ソフトウェア会社に勤務した後、本邦のソフトウェア会社との契約に基づき、月額約35万円の報酬を受けて、ソフトウェアエンジニアとしてコンピュータ関連サービスに従事するもの。

本国において電気力学、工学等を専攻して大学を卒業し、輸送用機械器具製造会社に勤務した後、本邦の航空機整備会社との契約に基づき、月額約30万円の報酬を受けて、CAD及びCAEのシステム解析、テクニカルサポート及び開発業務に従事するもの。

本邦の大学を卒業した留学生に係る事例

【許可事例】

工学部を卒業した者が、電機製品の製造を業務内容とする企業との契約に基づき、技術開発業務に従事するもの。

経営学部を卒業した者が、コンピューター関連サービスを業務内容とする企業との契約に基づき、翻訳・通訳に関する業務に従事するもの。

法学部を卒業した者が、法律事務所との契約に基づき、弁護士補助業務に従事するもの。

【不許可事例】

経済学部を卒業した者から、会計事務所との契約に基づき、会計事務に従事するとして申請があったが、当該事務所の所在地には会計事務所ではなく料理店があったことから、そのことについて説明を求めたものの、明確な説明がなされなかったため、当該事務所が実態のあるものとは認められず、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に該当する活動を行うものとは認められないことから不許可となったもの。

教育学部を卒業した者から、弁当の製造・販売業務を行っている企業との契約に基づき現場作業員として採用され、弁当加工工場において弁当の箱詰め作業に従事するとして申請があったが、当該業務は人文科学の分野に属する知識を必要とするものとは認められず、「技術・人文知識・国際業務」の該当性が認められないため不許可となったもの。

本邦の専門学校を卒業し、専門士の称号を付与された留学生に係る事例

【許可事例】

マンガ・アニメーション科において、ゲーム理論、CG、プログラミング等を履修した者が、本邦のコンピュータ関連サービスを業務内容とする企業との契約に基づき、ゲーム開発業務に従事するもの。

【不許可事例】(専攻科目と従事する業務内容の関連性以外の判断)

栄養専門学校において、食品化学、衛生教育、臨床栄養学、調理実習などを履修した者が、菓子工場において、当該知識を活用して、洋菓子の製造を行うとして申請があったところ、当該業務は、反復訓練によって従事可能な業務であるとして、不許可となったもの。

本邦の専門学校を卒業し,専門士の称号を付与された留学生に係る事例

専門士が通訳として申請されるケースが多いですが、専修学校における専攻との関連性のみならず、実際に翻訳・通訳業務に従事することができるだけの能力を有していること、就職先に翻訳・通訳を必要とする十分な業務量があることが必要です。そのため、能力を有することの証明のほか、何語と何語間についての翻訳・通訳を行うのか、どういった業務があるのか、必要に応じ説明を求めることがあります。

【許可事例】

翻訳・通訳学科において、通訳概論、言語学、通訳演習、通訳実務、翻訳技法等を専攻科目として履修した者が、出版社において出版物の翻訳を行うとして申請があったもの。

【不許可事例】

翻訳・通訳専門学校において、日英通訳実務を履修した者が、翻訳・通訳業務に従事するとして申請があったが、稼働先が飲食店の店舗であり、通訳と称する業務内容は、英語で注文を取るといった内容であり、接客の一部として簡易な通訳をするにとどまり、また、翻訳と称する業務が、メニューの翻訳のみであるとして業務量が認められず不許可となったもの。

まとめ

技術・人文・国際業務の在留資格該当性、上陸基準適合性は、企業経営者としても十分な理解が必要です。条文が複雑ですので、現実の事例に当てはめてどうなのか等でお迷いの場合は、行政書士などの専門家にご相談下さい。

参考資料 「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の明確化等について(出入国在留管理庁HP

サイト管理者の杉並区の行政書士中村光男です。ホームページにもお立ち寄りください。

何かお聞きになりたいことがあれば、お気軽にをお問い合わせメールを頂ければ幸いです。