
技術・人文知識・国際業務の方が、永住許可の申請中で結果を待っているときに、勤務先の社長から「役員にならないか」と言われました。役員には、通常は、技術・人文・国際業務でなく、経営・管理の在留資格が必要です。永住申請中ですが、在留資格の変更申請をすることができるでしょうか?
永住の審査期間は1年前後と長いので、その間に昇進などの声がかかる場合も十分に考えられます。このときに、この話は、永住申請の結果が出るまで待ってもらうべきか、あるいは、経営・管理への在留資格の変更申請をして、役員就任を優先すべきかという問題です。
答えは、「理論的には、永住許可申請中に、在留資格変更許可申請を行うことは可能です。しかし、そのことの永住の手続きや審査に与えるリスクや影響を、事前に十分に検討する必要があります。」となりましょう。
具体例として、技術・人文知識・国際業務の在留資格を持つ方が、みなし高度人材(高度専門職1号(ロ)で1年前から80ポイント以上)として、永住許可の申請を終え、結果を待っているケースを考えます。
在留資格変更申請の可否
まず検討すべきは、上記の申請人のケースで、「技術・人文・国際業務」を「経営・管理」に変更申請することができるか?です。
「経営・管理」への在留資格が認められるには、以下の3つの条件が必要です
①入管法で定義する「経営・管理」の活動を行うこと(在留資格該当性)
②在留資格毎に、省令で決めている基準(上陸基準該当性と呼ばれます)を満たしていること
③在留資格の変更が相当である(相当性)こと
本邦において貿易その他の事業の経営を行い又は当該事業の管理に従事する活動(法律・会計業務の資格を有しなければ法律上行うことができないこととされている事業の経営又は管理に従事する活動を除く。)
申請人が次のいずれにも該当していること。
一 申請に係る事業を営むための事業所が本邦に存在すること。ただし,当該事業が開始されていない場合にあっては,当該事業を営むための事業所として使用する施設が本邦に確保されていること。
二 申請に係る事業の規模が次のいずれかに該当していること。
イ その経営又は管理に従事する者以外に本邦に居住する二人以上の常勤の職員(法別表第一の上欄の在留資格をもって在留する者を除く。)が従事して営まれるものであること。
ロ 資本金の額又は出資の総額が五百万円以上であること。
ハ イ又はロに準ずる規模であると認められるものであること。
三 申請人が事業の管理に従事しようとする場合は,事業の経営又は管理について三年以上の経験(大学院において経営又は管理に係る科目を専攻した期間を含む。)を有し,かつ,日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること。
③の相当性は、入管法で在留資格の変更や期間更新は「法務大臣が適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り許可する」とされているため、出入国在留管理庁では、ホームページで相当性の例を解説しています(在留資格の変更、在留期間の更新の許可ガイドライン)。
注意点
<事業実績の有無>
「経営・管理」ビザは新規事業の場合、事業計画の合理性が厳しく審査されます。既に事業を開始している場合や明確な計画があれば可能性が高まります。
<収益見込み>
持続可能な事業収益の見込みが入管に認められる必要があります。
これらが、クリアしているなら、次に永住許可申請に与える影響を考えます。
永住審査への影響
(1)素行が善良であること
(2)独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
⇒日常生活において公共の負担にならず、その有する資産又は技能等から見て将来において安定した生活が見込まれること。
(3)その者の永住が日本国の利益に合すると認められること
ア 原則として引き続き10年以上本邦に在留していること。ただし、この期間のうち、就労資格(在留資格「技能実習」及び「特定技能1号」を除く。)又は居住資格をもって引き続き5年以上在留していることを要する。
イ 罰金刑や懲役刑などを受けていないこと。公的義務(納税、公的年金及び公的医療保険の保険料の納付並びに出入国管理及び難民認定法に定める届出等の義務)を適正に履行していること。※ 公的義務の履行について、申請時点において納税(納付)済みであったとしても、当初の納税(納付)期間内に履行されていない場合は、原則として消極的に評価されます。
ウ 現に有している在留資格について、出入国管理及び難民認定法施行規則別表第2に規定されている最長の在留期間(当面は3年以上で可)をもって在留していること。
エ 公衆衛生上の観点から有害となるおそれがないこと。
※ ただし、日本人、永住者又は特別永住者の配偶者又は子である場合には、(1)及び(2)に適合することを要しない。また、難民の認定を受けている者、補完的保護対象者の認定を受けている者又は第三国定住難民の場合には、(2)に適合することを要しない。
技術・人文知識・国際業務から経営・管理になることにより、(2)の要件である「将来において安定した生活が見込まれること」や、(3)ウの要件である「最長の在留期間」に影響が出る可能性はあると思います。
念のため
変更後の在留資格でも、永住申請が可能かどうかを、改めて、出入国在留管理庁の「セルフチェックシート」で確認してみましょう。
2.みなし高度人材の計算に与える影響
この点が重要です。

もし、計算シート(ロ)から(ハ)に変えて、再計算して点数が不足していれば、日本での滞在期間が足りなくなってしまうリスクがあります。また、集める書類も過去1年でなく、過去3年、または過去5年に広がる可能性もあります。入管によっては、追加の資料請求でなく、再申請を求められる可能性もあります。
また、再計算して点数が変わらないとしても、申請資料に添付する計算シートや、疎明資料が変わる場合もあります。これら手続き上のリスクは、事前に入管窓口や専門家に相談が必要です。
<みなし高度人材のポイント減少リスク>
永住申請は「現行の在留資格」を基に審査されます。みなし高度人材で申請している場合、変更後の「経営・管理」資格が高度人材ポイントを維持できるか再確認が必要です。 例: 職務経歴・学歴等のポイントが減らないか?
<滞在歴の連続性> 永住には原則10年の居住歴が必要ですが、高度人材(80ポイント以上)の場合は「1年または3年」で申請可能です。変更後の資格でもこの要件を満たせるか確認が必要です。
まとめ
今回のケースのように、永住許可申請をして、結果を待っている間に、役員昇進のチャンスが巡ってきた場合、手続き的なリスクを考えると、どうすべきかは悩ましいところです。