日本の民法では、いとこ(従兄弟または従姉妹)に相続権はありません。
したがって、Aさんが、近所に住む、一人暮らしのいとこBさんの療養看護を長い間続けていたとしても、Aさんは当然には、金銭的な相続を受けることはできません(もちろん、遺言があれば別ですが)。しかし、民法では、遺言がない場合にも一定の手続きで、いとこの貢献が報われる方法を用意しています。
それが、「特別縁故者」(民法958条の2)と「特別寄与者」(民法1050条)です。
(注)これから述べることは、「長男のお嫁さんが、長男の死亡後も、老親の面倒を見てきた」場合にも同様に当てはまります。
いとこの相続権(遺言がない場合)
いとこの相続権について
いとこは上記のどの順位にも該当しないため、法定相続人には含まれません。したがって、いとこには通常、相続権がありません。
例外
ただし、いとこに財産を渡したい場合は、遺言により財産を遺贈することが可能です。遺言で明示的にいとこに財産を与える旨を記載すれば、その部分については法定相続分とは関係なく、いとこに財産を遺贈することができます(民法第964条)。
いとこBさんに相続人がいない場合は「特別縁故者」(民法958条の2)
特別縁故者に対する相続財産分与
上のケースでBさんに相続人がいない場合ですが、民法では「相続人のあることが明らかでない」と表現し、このとき、相続財産は法人とされます(民法95条)。このとき、家庭裁判所は検察官や利害関係人の申し立てにより、相続財産清算人が選任されます。
家庭裁判所の相続人を捜索するための公告で定められた期間内に相続人である権利を主張する者がなかった場合は、相続財産清算人が被相続人(亡くなった方)の債務を支払うなどして清算を行った後、家庭裁判所は、相当と認めるときは、被相続人と特別の縁故のあった者の請求によって、その者に、清算後残った相続財産の全部又は一部を与えることができます(民法952条、民法958条の2)。
申立人
・被相続人と生計を同じくしていた者
・被相続人の療養看護に努めた者
・その他被相続人と特別の縁故があった者
申立期間
相続人を捜索するための公告で定められた期間の満了後3か月以内
申立先
被相続人の最後の住所地の家庭裁判所
いとこBさんに相続人がいる場合は「特別寄与者」(民法1050条)
特別寄与者制度の概要
特別寄与者の制度は、「亡くなられた方の療養看護等を行った親族の金銭請求を認める制度」です。
この制度は、改正民法により2019年7月からスタートしました。その狙いは、主として、長男のお嫁さんが、義理の親の介護を長くしていたケースなどで、お嫁さんには相続権がないので、長年の貢献が、相続という形で認められないという不公平を解消するためにできました。
この制度は、従来の相続人の規定は修正していません。しかし、「長男の妻」や「いとこ」が被相続人(老親)に対して特別の寄与をしたと認められる場合、特別寄与者として相続人に対して金銭の支払を請求することができます。これにより、老親の世話に費やした労力に対して、相続財産の一部を金銭で受け取ることが可能になります。
特別寄与者の要件
特別寄与料を請求できる要件は、民法1050条に書いてありますが、具体的には以下の通りです。
・親族であること(民法第725条:6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)
・相続人でないこと
・相続放棄などによって相続権を失っていないこと
・被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたこと
・被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をしたこと
なお、特別寄与料請求と似ている制度に、「寄与分(民法904条の2)」がありますが、寄与分は「相続人の間での調整」ですし、「労務提供だけでなく財産供与」などの寄与も考慮されるのですが、特別寄与料請求は、「相続人以外の親族と相続人の間の調整」であること、「労務提供だけ考慮される」という点で違いがあります。
特別寄与請求の手続き
次のような手続きとなります(民法1035条2項3項)
1、遺産を相続する相続人と直接交渉する
(1の協議が不調のとき)
2、家庭裁判所に「特別の寄与に関する処分調停」を申し立てる
まとめ
<相続権のある方(長男など)が、亡くなった方の財産維持や増加に貢献していた場合>に、これらの方に亡くなった方の財産を分ける仕組み
→ 寄与分(民法904条の2)
(寄与分)
第904条の2 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
<相続権のない方(いとこ、長男のお嫁さん など)が、亡くなった方の財産維持や増加に貢献していた場合>に、これらの方に亡くなった方の財産を分ける仕組み
①亡くなった方に相続人がいない場合
→ 特別縁故者(民法958条の2)
(特別縁故者に対する相続財産の分与)
第958条の3 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第958条の期間の満了後3箇月以内にしなければならない。
②亡くなった方に相続人がいる場合
→ 特別寄与者(民法1050条)
第1050条 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭の支払を請求することができる。
遺言による解決がのぞましい
このように、一人暮らしの被相続人を相続人以外のいとこや、長男のお嫁さんが、長年にわたって介護などで支えている場合、これらの方の貢献に報われるためには、家庭裁判所を介した手続きや、相続人との協議が必要となってしまいます。
このとき、被相続人の遺言があれば、いとこや長男のお嫁さんの負担はぐっと軽くなります。遺言では、相続人以外の方にも、相続財産を分けることができるからです。遺言は、何回も書き換えることは可能です。
遺言書がないということは、被相続人は、民法の定める法定相続人に法定相続分で財産を分けることを意図していたとして、手続きは処理されます。もし、相続人以外の方に財産を残したいなら、遺言作成が答えとなります。