スポーツなどの趣味あるいはボランティアなどの市民活動を行う民間の非営利団体が法人になるには、いくつかの方法があります。法人化にはメリットもありますが、デメリットもあります。また、法人化もいくつかの選択肢があります。
杉並区の行政書士が分かりやすく解説します。この記事は5分で読めます。
多くの団体・クラブは任意団体
スポーツクラブやボランティア団体は、多くの場合は「任意団体」という形で、法人格をもたない組織で運営されています。法律的には、「権利能力なき社団」です。
NPOも任意団体となっているところも多く、任意団体であっても事業収益を得たり税金を納めることはできます。また、助成金の対象となることも可能です。任意団体の設立そのものには、届出や登録は不要です。
任意団体で気をつけたいのは、任意団体は財産を所有できないので銀行口座などは代表の名前で開設する必要があるため、代表者の交替や相続時にトラブルが生じる可能性がある点です。
民間の非営利団体が法人化するメリット
任意団体は法律に従って手続きをすることで、「法人」になることができます。
法人化のメリットは以下のような点です。
1. 団体としての社会的信用が増す
・法人化なくても、社会的信用がないわけではありませんが、任意団体の場合、その団体の代表者の個人的信用による部分が大です。NPO法人や一般社団、財団になったからすぐに信頼度が向上することはないにしても、社会的に認知度の高い法人となることで、時間の経過とともに個人ではなく、法人に信頼が蓄積されていきます。
2.メンバー個人と団体の役割・責務の明確化
・団体が法律行為の主体となれるため、メンバー個人の資産と、法人の資産が分別管理できるようになります。
・基本的な活動の中で発生した法人としての債務や責任と、会員個人の債務や責任の区分が明確に分けられます。
3. 活動の継続性・安定性・組織力の向上
・法人化により財産や活動は法人に帰属するため、代表者が変更になっても、法人として保有している財産や活動はそのまま法人に継続されます。(任意団体の場合では、万が一、代表者がお亡くなりになった場合には、団体の保有する財産は代表者の遺族に相続される可能性があります。)
・法人として、事務や事業の担い手として職員を雇用することで、ボランティアだけに頼らない組織的な活動をしやすくなります。
4.その他
・介護事業のように、一定の事業を行う際に、法人格が必要な場合があります。
・将来的に一定の条件を満たして申請すれば、認定NPO法人(寄付金への税額控除等、様々な税制上の優遇措置がある)の法人格を取得することも可能です。
法人化の選択肢
民間の非営利団体の法人化では、「特定非営利活動法人(いわゆるNPO法人)」か「一般社団法人(含む一般財団法人」が代表的な選択肢です。
株式会社や合同会社にすることも理論上は可能ですが、民間非営利の目的ではあまり採用されません。
NPO法人とは
NPO法人の事業目的は、「公益」です。具体的には20種類の「特定非営利活動」に制限されています。
1.保健、医療又は福祉の増進を図る活動
2.社会教育の推進を図る活動
3.まちづくりの推進を図る活動
4.観光の振興を図る活動
5.農村漁村又は中山間地域の振興を図る活動
6.学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動
7.環境の保全を図る活動
8.災害救援活動
9.地域安全活動
10.人権の擁護又は平和の推進を図る活動
11.国際協力の活動
12.男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
13.子どもの健全育成を図る活動
14.情報化社会の発展を図る活動
15.科学技術の振興を図る活動
16.経済活動の活性化を図る活動
17.職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動
18.消費者の保護を図る活動
19.前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動
20.前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例に定める活動
NPO法人の設立手順は、おおまかに下記のような流れとなります。
1.特定非営利活動の種類を確認する
2.設立総会を開く
3.設立認証の申請を行う
4.法人設立の登記を行う
5.所轄庁に法人設立を届け出る
一般社団法人とは
一般社団法人は事業目的が「公益」でも「共益」でも可能です。事業目的に制限はありません。
運営では、「市民参加」が必須ではないので、議決権を持つ正会員に「地元の人に限る」などの制限をつけることも可能です。
なお、税制上「普通型」と「非営利型」の2種類があります。非営利型は非営利法人の代表格「NPO法人」と同等の税制優遇措置を受けることができます。
NPO法人と一般社団法人の違い
「事業」と「市民参加」の差
NPO法人と一般社団法人を「事業」と「市民参加」という点で比べると以下のような差があります。
NPO法人 | 一般社団法人
(非営利型* / 非営利型対外) |
|
---|---|---|
根拠法 | NPO法(特定非営利活動促進法) | 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 |
目的 | ボランティア活動をはじめとする市民の自由な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促進すること | 特に制限なし |
事業 | 〇特定非営利活動を主たる目的とする(20分野、公益) 〇上記に支障がない限り「その他の事業ができる」 |
特に制限なし |
社員(正会員) *総会で議決権を持つ |
〇10人以上(設立後も常に) 〇資格の得喪に不当な条件をつけない |
2人以上(設立後1名になっても解散しない) |
*非営利型の一般社団法人はNPO法人並みの税制優遇があります。
NPO法人はNPO法にある福祉や環境など20分野の活動を通して「公益の増進に寄与する」ための組織であり、事業目的は公益です。
一般社団法人であれば2名から設立できますが、NPO法人は社員(総会で議決権をもち運営に関わる人)が10名以上必要です。一般社団法人は事業目的が公益と共益のどちらでも設立が可能で、活動分野や内容には制限がありません。また、市民参加を前提としておらず、仲間だけで運営できます。
手続き面の差
NPO法人と一般社団法人を「手続き」という点で比べると以下のような差があります。
・NPO法人は「認証」という方法で設立します。登記の費用は掛かりません。具体的には、定款を含む11種類の申請書類を所轄庁に提出後、4か月以内に認証か不認証の通知があり、認証されれば登記をして法人が成立します。
・一般社団法人は「準則」という方法で設立します。具体的には、団体のルールブックである定款の作成、公証人の認証、登記といった3つの段階を経て成立します。掛かる諸費用は、認証や登記の約12万円のほか、印鑑作成代などです。所要期間は2週間程が目安です。
NPO法人 | 一般社団法人 | |
---|---|---|
所官庁 | 都道府県・政令市 | なし |
設立方法 | 認証 | 準則 |
設立期間 | 2~4か月 | 約2週間 |
設立費用 | 0円 | 約12万円~15万円 |
情報公開 | あり | とくになし |
行政の監督 | ゆるやかにあり | ほぼなし |
どちらにも特徴がある
このように、一般社団法人が費用は掛かるが短期間かつ簡便な手続きで設立できます。ただし、一般社団法人は、運営や会計の情報公開義務がないので、透明性をアピールするためには、自主的な努力をしなければなりません。
一方で、NPO法人は、費用は掛からないが設立までに時間と労力を要します。所轄庁により情報公開がされることで市民に知ってもらう機会が増えることも予想され、結果として信頼につながることもあります。運営上は法に基づき、総会を年1回以上開催し、決められた届出を行い、会計は会計原則によるなどのルールに従う必要が出てきます。
団体の法人化を考える際には、これらの特徴を考えて、形態を選択します。
まとめ
スポーツクラブやボランティア団体は、法人化するメリットにより、一層の地域貢献や市民との協働が期待できます。特にNPO法人を選択した場合は、市民活動団体としての側面も持つことになります。このため、意識的に参加の仕組みをつくり、幅広い市民とともに活動をしていくための取り組みが必要になります。
一方で、団体を法人化することで、法人運営の実務に追われ活動に手が回らないということになっては、本末転倒です。従来のやり方を大幅に変えることは団体の負担になるのは確かです。
「何のための法人化か」を団体内でよく話し合い、どんな団体になりたいのかを念頭に置いて、組織のビジョンやみなさんの夢を実現するためのツールとしての法人化を検討することが望ましいと考えます。
当事務所では、スポーツ団体やボランティア団体の法人化のコンサルを行っています。
行政書士中村光男事務所について