個人賠償責任保険は、日常生活の自賠責保険?
個人またはその家族が、日常生活で誤って他人にケガをさせてしまったり、他人のモノを壊してしまったりして、法律上の損害賠償責任を負った場合の損害を補償する保険です(自動車事故や仕事上の事故は対象外です)。いわば、万一の際に被害者の救済のため、加害者になりえる側が加入する保険です。
どのような事故が対象かというと、「洗濯機の水漏れで、階下の部屋に損害を与えた」「飼い犬が他人をケガさせた」「子供がサッカーボールを蹴って学校の窓ガラスを割った」「ベランダの植木鉢が落ちて、下にとめてあった他人のクルマに傷をつけた」「認知症の親が起こした事故で監督責任が問われた」「高校生の子供が通学中に自転車で老人を転倒させて重傷を負わせた」などなど、様々です。
この保険に加入していることをしっかり意識している方も多いと思いますが、知らぬ間に、自動車保険や火災保険の特約で、加入している方も多いと思います。
不動産賃貸で、加入が必須になっていたり、分譲マンションでは、管理組合が一括して全入居者を被保険者(保険がきく人)にして加入していたりすることも多いと思います。
個人賠償責任保険に加入しないで日常生活するとすれば、無保険でクルマを運転しているくらい危険とも言えます。不安な方は、一度、ご自分や別居のご家族の加入状況を確認されておくのがよろしいかと思います。
個人賠償責任保険の特徴と注意点
私は、必要以上の保険加入は不要(当たり前ですが)と考えていますが、個人のリスクマネジメントを考えると、個人賠償責任保険は必須アイテムと思います。個人賠償責任保険の特徴としては、次のようなものがあると思います(ちなみに、自動車保険・火災保険・地震保険も必須アイテムと思います)。
1.保険料が安い
個人賠償責任保険の保険料は、保険金額(保険会社が支払う保険金の限度額)次第ではありますが、数億円~無制限でも、何千円で加入できるレベルです。
保険加入は、「滅多に起こることではないけれど、起こったら大きな費用が発生する」という小頻度大損害のタイプの事故に備えるのが本来の価値です。
生まれてこの方、日常生活で、第三者に財産的な損害を与えたことはないという方が多いと思いますが、万一、そのようなことが起こった場合、賠償責任金額が何億になることもあり得ます。自分の貯蓄で賄うのは大変です。
このような事故は、発生確率は低いので、保険料は比較的安くなりますから、未加入の方は、お付き合いのある保険会社や代理店にご相談されたら良いと思います。
2.法的に損害賠償責任がある場合のみ発動する保険
個人賠償責任保険は、日常生活での事故が対象です。自動車事故や業務中に第三者に与えた損害は対象外です。
注意したいのは、あくまで、法的に損害賠償責任があるときに、その限度で賠償の保険金が支払われるという点です。加害者と被害者が任意に金額を合意で決めることはできません。被害を受けた方にも、法的には責任はない場合や、先方に過失がある場合もあります。これらの要素を踏まえ、保険会社が、客観的な基準に基づいて妥当と思われる金額の範囲での支払いとなるので、注意が必要です。
3.被保険者(保険のきく人)の範囲が広いが、別居の高齢のご両親は対象外なので注意が必要
この保険が、カバーしてくれる被保険者(保険のきく人)の範囲は、契約者本人、配偶者、同居の親族、別居の生計を一にする未婚の子であるという約款が一般的ですから、かなり広いです。
ただし、高齢で、別居しているご両親などは、通常は対象外です。例えば、個人賠償責任保険に加入しているAさんの高齢のご両親が、マンションに暮らしていて、お風呂の水を止めるのを忘れて階下に水漏れ損害を与えた場合(例えば、階下の原状復帰に50万円かかったとき)を考えます。
このとき、損害の50万円は、Aさんの個人賠償責任保険ではカバーされません(もし、この事故を、仕送りでくらしている未婚の大学生の長男がおこしたならAさんの保険でカバーされます)。
したがって、高齢の別居のご両親がいる場合は、そのご両親自体が、何らかの形で個人賠償責任保険に加入していることを確認しておくのがいいかと思います(個人の火災保険や、マンションの共用部分の火災保険の特約で加入している可能性があります。)
最近では、保険会社によっては、認知症の方が加入した個人賠償責任保険には、監督責任がある親族を被保険者に拡大するケースもあるようです。また、心配なら、監督責任がある子供が契約者(保険料負担者)で、被保険者を別居の両親に指定して通常の個人賠償責任保険に加入しても、同様の安心が得られると思いますので、お付き合いのある保険会社に確認されるのが良いかと思います。
4.ほとんどの方がすでに加入しているが、それに気づいていない可能性がかなりあること
さきほど記載したように、個人賠償責任保険は、自動車保険や火災保険などのような、メジャーな保険のおまけ的に特約で、ついていることが多いです(おまけと言っても、もちろん特約保険料がかかりますが)。また、クレジットカードの加入者向けメリットとして、自動的に加入していることもあります。
うっかりすると、自動車保険にも、火災保険にも無制限の個人賠償責任保険の特約が付いていたなどということもあり得ます。
個人賠償責任保険に何本加入していても、保険金は増えません(支払い限度額は大きくなりますが、無制限に一本加入しているなら何本も加入している必要はないです)。
ただ、一番怖いのは、いつのまにか加入していない事態になっていることです。
自動車保険に特約で加入しているからと安心していると、自動車を手放して、自動車保険を解約した結果、個人賠償責任保険もなくなってしまったということになりえますから、うっかり防止の意味で、あえて無駄とわかっていても、複数加入のままにしておくというのも、あながちあり得ない選択でもないかもしれませんが・・・。
5.自転車保険・ゴルファー保険などとかぶっているので、わかりにくいこと。
個人賠償責任保険に加入していれば、日常生活として自転車を運転したり、ゴルフなどのスポーツをしていたりする中で、第三者にけがや損害を与えたケースでは、保険金支払い対象です。
ゴルファー保険は、ゴルフのプレー中の賠償事故や、ホールインワン、ゴルフ用具の損害などをセットにした保険ですが、この保険に加入していなくても、少なくとも、賠償事故は通常の個人賠償責任保険のカバー対象ではあります。したがって、ホールインワンも、用具の損害も怖くない(?)なら、あえてゴルファー保険に加入する必要はないかもしれません。
ただし、個人賠償責任保険では、業務中は免責(保険がきかない)ので、接待ゴルフなどで起こした賠償事故は、カバーがないので要注意です(ゴルファー保険では、業務ゴルフでも、免責になっていない会社が多いと思いますが、ご自分の保険内容を確認してください)。
自転車保険も、同様です。個人賠償責任保険で、日常生活での自転車運転での対人や対物事故はカバーされます。自転車保険は、賠償に加え、自転車運転中の運転者の傷害や自転車そのものの保険がついていますが、地方自治体の条例等で加入義務があるのは、「賠償保険」ですから、自転車で仕事をしない限りは、個人賠償責任保険に加入していれば、一安心といっていいと思います。
6.示談交渉サービスはついている場合とついていない場合がある
ずいぶん昔から、自動車保険の賠償事故には、弁護士による示談交渉サービスがついているのが標準サービスとなったと思いますが、個人賠償責任保険の場合は、保険会社によって示談交渉サービスはついている場合も、ついていない場合もあると思います。
けがや損害を与えてしまった相手と、お互いの過失割合や、賠償額を当事者だけで示談するのは大変です。ご加入の際に、示談交渉サービス付きが選択できるなら、料金はわずかですのでつけた方がベターかと思います。
7.お仕事中の事故は、事業者が加入する「施設賠償責任保険」でカバーされる
個人賠償責任保険は、日常生活上の事故が対象です。仕事や業務の場合は、「施設賠償責任保険」という別の保険商品への加入が必要です。通常は、会社や雇い主が加入しているので、個人で手配する必要はありません。
例えば、私立学校の遠足で子供がけがをして、先生が監督責任を問われる場合、お蕎麦屋さんの看板が落ちて、通行人がけがをした場合、業務で使用中の自転車で歩行者にけがをさせて場合など、「施設賠償責任保険」の対象です。施設賠償責任保険の保険料は、その事業の規模の大きさや種類でまちまちですので、個別に保険会社に見積もりを取得する必要があります。