エッセイ”子供に選挙権を与えるべき理由”を読んで

日本の投票率が低い件と投票に行く理由

 公職選挙法の改正により2015年から、日本でも18才以上の男女に選挙権(参政権)が認められました。総務省が公表している衆院選挙の年代別投票率を見ると、全体が53.68%、10代40.49%、20代33.85%、30代44.75%、40代53.52%、50代63.32%、70歳以上60.94%となっています。

 国際比較ですと、明治大学国際日本学部鈴木研究室のサイトを拝見すると、国政選挙の投票率では、日本はOECD加盟37か国中30位と低位です。上位には、1位オーストラリア91.9%、2位ルクセンブルグ89.7%、3位ベルギー88.4%、スエーデン87.2%などがランキングされています。

 日本の投票率が低い理由で仮説として「日本人は国会を信頼しているからである」ということを考えましたが、鈴木研究室の調査では、日本の「国会を信頼している人の割合」は、34.1%(調査24か国中23位)であり、ほぼ最低です。

 ちなみに、投票率87.2%のスエーデンは、国会を信頼している人の割合は73.7%で、24か国中4位となっています。

 鈴木研究室のHPのフリー相関分析をお借りして、「国会を信頼している人の割合」と「国政選挙の投票率」の相関を見ると下グラフのようになりますが、国会への信頼が低い国ほど、投票率が低い傾向にあるように見えます。

 国会を信頼できなければ、余計に投票行動で監視しようということになりそうですので、この結果はどう説明したらいいのか悩むところです。

 小学生に選挙リテラシー教育を行っている北欧では、「選挙に棄権するといことは、最有力候補に投票するのと同じである。その候補で嫌だと思えば、2位につける候補に投票すればいい」と教えるということをかつてある本で読んだ記憶があります。

 また、チャーチルは、「選挙に出る人間は、誰であれ、名声を欲しがり、権力を欲しがる、ろくでなしばかりだから、よく考えて投票せよ」と言ったそうです(都市伝説?)。

 1票で結果はほとんど変わらないという実感がありますので、「なぜ選挙に行かなければならないのか」をよくわかるように教えるのは大人に対してさえ難しいと思います。このような北欧的教え方、チャーチルの毒舌的説明は意外にわかりやすいかも知れません。

”子供に選挙権を与えるべき理由”について

 そんな問題意識で、ネットを検索していたらWhy Should Children Have the Right to Vote?という子供の人権の研究者の方(Nicolás Brando)が書かれた面白い論考記事がありました。以下、紹介します。

 彼は、「現在、16才以上に選挙権を与える国が出てきたが、もう少し進んで6歳以上には選挙権を与えるべきであると考えたほうがよい」と主張し、以下のように説明をします。

1.子供に選挙権を与えられない理由に挙げられる諸点に理由がないこと。

 ①子供には判断する能力がない。

  ⇒ 大人でも判断力の無い人はいる。参政権は資格でなく人権である。判断力テストをするなら大人も子供も平等であるべき。

 ②子供には社会的経験がない。

  ⇒ 大人でも社会的経験のない人はいる。参政権は資格でなく人権である。経験値のテストをするなら大人も子供も平等であるべき。

 ③子供は誘導されやすく、簡単に人心操作される。

  ⇒ 大人も簡単にメディア、芸能人、映画等で動かされて選挙行動を行う。

 ④政治家が子供への人気取りに走り、民主主義が害される。

  ⇒ 大人も同じ。トランプ大統領のキャンペーンを見よ。

2.まとめ

 Brando氏によれば、能力・経験・操縦されやすい・民主主義を害する恐れなどが無いことなどの「資格テスト」を行うなら、大人にも子供にも行うべきであるとしつつ、そもそも以下の3点の理由で、このような議論は問題があるとしています。

①参政権は、人権であって資格ではないこと。民主主義を研究する大学教授であろうと、ジャガイモ作りの農民でも、小学生でも政府の決定に対するステークホルダーであること。

②子供に参政権を広げることで、かけがいのない民主的なプロセス拡大が可能となる。子供に参政権を認めれば、高齢化進展により高齢層の意見がますます強く政治に反映される不均衡が修正されるとしています。例えば、銃規制、気候問題、Brexitなどでは子供の声が反映されれば結果は異なると主張します。

③参政権を認めることは子供に民主的市民として貴重な経験を与えるという教育的効果です。認識する力がついてくるのを待つより、まずは経験させて、社会問題に取り組む興味と動機を与えることができるといいます。

3.まとめ

 以上の議論から、今後考えられる選択肢は、「大人にも子供にも等しく、参政権に一定の能力を求める」か、「年齢にかかわらず参政権を認め、投票しない自由も認める」かになると、筆者はまとめます。「もちろん、もっと複雑な考察は必要であるが、子供の参政権について考えるヒントにして欲しい」。

 Brando氏のエッセイには、読者によるコメントもいくつか添付されていて、それに対するBrando氏の回答もなかなかなのですが、紹介しきれません。

 私の読解力も怪しいので、上記のまとめも誤っているところがあるかと思いますが、興味深い論考と思いました。たしかに、子供の判断力は侮れません。物事の判断は、大人よりも、まっすぐで、まっとうとも言えます。

 子供の参政権を、理由をつけて否定するのは簡単ですが、人権という問題に戻って、深く考えれば、小学生に国政や地方自治への投票権があってもおかしくないという議論も可能でしょう。今後の研究課題です。