今回は、株と金利の関係について考えてみました。新聞やネット等で「米国の長期金利(10年国債)が上がると株価が下がる」という解説が多いのですが、その訳を自分が腑に落ちるように整理してみたのです。
個人的整理ですが、何らかのご参考になれば幸いです。
1. 長期金利が上がれば株価は安くなるのは、人間心理が根底にあります。
2. 過去3年平均では、日経平均の株式の予想益回りは、10年国債より7%以上高い。
3. 株価は20%~50%の下落リスクがあるので、自分のリスク許容度を計算して投資上限を設けるべきです。
4. 【まとめ】銘柄も時間も分散して投資するのが、リスク対策上有効です。
1. 金利が上がると株式が安くなる理由は人間心理です。
ここでいう金利とは、長期金利のことです。長期金利はその国の新発の10年国債の利率です。
各国の中央銀行が操作できるのは概2年程度までの短期金利です。長期金利は、10年程度の経済見通しが良好であって将来順調に物価が上がるという見込みがあるときに上がります。
これは、そのようなとき10年後のお金の価値は現在より低いと見込める(同じお金では、より少量のモノしか買えない。)で、お金の貸し手は高い金利をもらわないと合わなくなるからです。
さて、米国に限らず日本も含めて、「長期金利が上がると株価は下がる」現象をどう説明するかです。
一般的には、「10年国債利回りと株式の予想益回りの差(イールドスプレッド)が広がれば株価が上がり、狭まれば株価が下がる」というような解説が多いのです。また、金利が上がれば企業の資金調達コストが増加し企業業績にマイナスだからともいえるかもしれません。
しかし、日常生活の実感としてわかりやすいのは、次のような説明ではないでしょうか。
「身近で例えるならこんな感じです。「金利が上がり銀行預金の利息が増えるなら、リスクが高い株式投資をしなくても良いのでは?」この考えには頷く人も多いのではないでしょうか。こうした人々の考えが「金利上昇→株安」の根底にあるのです。」(マネーフォワード ビジネス記事2021/03/03 吉野貴昌氏)
2. 日経平均の株式の予想益回りは、7%程度の水準が続いている。
ご存じの通り、日本では10年国債の金利はほぼ0%近辺ですし、米国にしても1%半ばですから、常に株式の予想益回りの方が相当高い水準です。
株式は一日に価額が数%動くことがざらにあるということを考えれば、株式の予想益回りは相当高くなければ安心できないのは当然です。
では、長期金利と株式の予想益回りの差(イールドスプレッド)は、どの程度あれば株を買っても安心なのでしょうか。
もちろん、「今は予想益回りは悪いが、将来、大きな成長が見込める」など、様々な要素があるので、単純な数値化は難しいかと思います。しかしながら、経験則上、次のように言われているということを知っていると、目安になるかと思います。
【株式の予想益回り-新発10年国債利回り】(2021年1月現在)
□ 米国 過去3年平均 3.7%
□ 日本 過去3年平均 7.4%
現状はどうでしょうか。
以下のように、2021年6月28日(金)の日経平均の株式の予想益回りは7.11%、10年日本国債の利回りは0.055%ですので、その差は7.055%です。
なお、「株式の予想益回り」は、「一株当たりの予想純利益÷株価」で計算します。純利益の一部から配当金は捻出されます(残りのお金は企業の純資産の増加に回ります)ので、「一株当たりの予想配当金÷株価」で計算される予想配当率よりは、予想益回りの方が高くなります。
なぜ、株式の予想益回りを重視するかというと、「配当金+企業の純資産の増加」が株主のメリットだからです。配当金が少なくても、企業の純資産が増加して株価に反映するなら、結局同じことだからです。
直近のデータでは、日経平均の益利回り7.11%のうち、1.83%を配当に支払っていますので、計算すると純利益の概ね25%を配当に回しているのが平均ということになります(1.83÷7.11=0.257)。
なお、似た指標で、PER(株価収益率)というものがあります。これは、1株当たりの純利益を株価で割ったものですが、1÷株式の予想益回り=PERという関係にあります。
株式の予想益回りで7%のとき、PERは1÷7%=14.28です。株式の予想益回りで7%は欲しいというのは、PERは14.28以下であって欲しいということなります。
株関連の記事では、PERの方が良くつかわれる数字に思えますが、肌感覚で株価の高低を考える指標としては、株式の予想益回りの方が分かりやすいように思います。
https://nikkei225jp.com/data/per.php より
3. 株式の投資総額の決め方
「平均の株式の予想益回りが7%」というのは、魅力的な数字に見えますが、企業の利益が継続的に保証されてはいないことや、株価変動のリスクが大きいことは要注意です。株にいくら投資できるかという自分のリスク許容金額を考えて、その金額の範囲で投資するべきでしょう。
よく聞く株投資の上限の決め方は「株は20%程度下落するリスクがある。自分が失ってもいいと思う金額÷20%が株式投資額の上限とすると安全」というものです。
この考え方だと、100万円失ってもOKと思えば、100万円÷20%=500万円が株式投資の上限となります。
また、「100-自分の年齢」のパーセントを自分の資産に掛けた金額を、株式投資の上限とせよ、という説明も聞くことがあります。
この考え方だと、30歳で70%、50歳で50%、70歳で30%が上限です。
株は暴落しても時間がたてば復活することが多いので、若い方は、その時間がありますが、年齢とともに復活を待てる持ち時間が少なくなるので、この考え方は一理あるように思います。
実際に、過去の暴落を見てみると、下図のようなものです。
2000年以降の大暴落の平均は34%です。
リーマンショックのときは、日経平均は、直前のピーク時から51%下がり、その価格に戻るまで4年6か月かかっています。ITバブルだった2000年4月の高値は、その後更新されるのに、17年5か月かかっています。
したがって、ピーク時に大量に買い付けることにならないように注意する必要があります。
4. 投資先の分散、投資タイミングの分散が重要
まとめです。
株価は、何十年単位では着実に成長を続けています(下図は過去20年の日米の株価の動きの比較です)。ただ、短期的には、様々なニュースや経済や投資家の動向に応じて日々揺れ動いています。
大きな金額を、一度の同じ銘柄や同じタイミングで投資すると、成功したときのリターンは大きい代わりに、目論見が狂った時の痛手も大きなものになります。
私自身の方針は、小口の長期投資なので、買ったものを売ることはあまりないのですが、今が安いと思って買いあせる傾向があると反省しています。
相場が右肩上がりの動きは、いつかどこかで、必ず大きく下げるときは来るので、主観的な判断を過度に信用せず、一度に購入する金額は抑えて、購入タイミングは最低でもひと月開けるようにするなどの対策が有効と思います。
その判断の際に、株式の予想益回りが7%あるかどうか(株価収益率(EPR)ですと1÷7%=14.2倍)というのは、冷静になるために役に覚えておくとよい数字に思えます。
しかし、これらは、「言うは易し、行なうは難し」です。まだまだ、試行錯誤で、失敗が多いのでが、引き続き考えたいと思います。
(過去20年間の日経平均指数(青)とS&P500指数(赤)の比較)