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外為法の規制が、身近な取引に及ぶことをご存じでしょうか。
外為法のルールでは、外国投資家が、日本の上場会社や非公開会社の株式を取得するときに、財務省等(窓口は日銀)へ「事前届出」や「事後報告」が必要となるケースがあります。外国投資家は、自己の責任で、その義務の有無を判断し、届出か報告を行う必要があります。何もしないと、外国投資家に罰則があるだけでなく、株式売却命令など重大な影響が、日本の会社側に及ぶ可能性もあります。そのため、外為法の基本的なルールを知り、気になる場合は、関係省庁や専門家に相談することがおすすめです。
今回は、典型例として、「非居住者である個人や法人が、日本の非上場会社の株式を10%以上取得する場合」を念頭に、論点をご説明いたします。
外為法の規制の概要
外為法(外国為替及び外国貿易法)は、日本の国家安全保障や経済の安定を守るため、国外との取引の中で特に以下のようなパターンの取引に対して規制を行っています。
このうち、本稿のテーマである海外投資家による日本の会社の株式取得は、「1」のうち「対内直接投資」と言われるものです。
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外国直接投資に関する取引
- 外国企業・外国人投資家が日本企業の株式や経営権を取得する取引(企業買収や合併など)
- 特に、戦略的産業や国の安全保障に関わる企業の場合、事前の届出が必要となります。
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外国為替取引
- 日本円と外国通貨との交換取引や大規模な外貨売買、国際送金など
- 取引規模や相手先の性質によっては、報告義務や監視の対象となります。
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技術供与・技術移転に関する取引
- 先端技術や敏感技術の外国への移転、ライセンス契約など
- 国家の安全保障や技術流出防止の観点から、規制対象として厳しく審査されます。
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その他、国の安全保障や経済に影響を与える可能性のある取引
- 戦略物資や重要インフラ関連の取引など
- 具体的な取引内容に応じて、個別に届出や許認可が求められるケースがあります。
これらの規制は、取引の性質や規模、及びその取引が日本の国家安全保障や経済に与える影響を総合的に判断し、財務省や経済産業省などの関係官庁が管理・監督を行っています。
用語の確認
外為法上の用語の定義は、以下のとおりです。
居住者・非居住者
「居住者」は、①日本国内に住所のある自然人②日本国内に主たる事務所を有する法人です。
「非居住者」は、これ以外です。
なお、非居住者の本邦内の支店・出張所その他の事務所は、法律上代理権があると否かにかかわらず、その主たる事務所が外国にある場合においても「居住者」とみなすとされています。
外国人投資家
非居住者である個人、外国の会社、これらの者から50%以上出資を受けている本邦の会社等です。
したがって、海外に住んでいる個人が、日本の会社の50%以上の株主なら、その会社は、「外国人投資家」です。
対内直接投資
外為法上の「対内直接投資」は、18種類ありますが、実務上多いのは、①株式等の取得、②事業目的の変更や役員選任などの重要事項についての議決権行使、③金銭の貸付、④事業の譲受です。
事前届出が必要なケース(対内直接投資審査制度)
説明の順番上、最初に、「事前届出の必要なケース」について、説明します。
外国人投資家が、「事前届出の必要な業種」に「事前届出の必要な態様の投資」をする場合には、投資の6か月前に、財務大臣とその事業の所管大臣に、日銀を経由して事前届出が義務付けられています。事前届出行ってから、財務省がや所管官庁が審査をしますので、届出後、3か月は投資はできません。
事前届出の必要な業種
■武器・航空機(無人航空機を含む)・宇宙開発・原子力関連の製造業、及び、これらの業種に係る修理業、ソフトウェア業■軍事転用可能な汎用品の製造業■感染症に対する医薬品に係る製造業、高度管理医療機器に係る製造業■重要鉱物資源に係る金属鉱業・製錬業等、特定離島港湾施設等の整備を行う建設業■肥料(塩化カリウム等)輸入業■永久磁石製造業・素材製造業■工作機械(部品含む)・産業用ロボット製造業等■半導体製造装置等の製造業、半導体製造関連機器の製造業■蓄電池製造業・素材製造業■船舶の部品(エンジン等)製造業■金属3Dプリンター製造業・金属粉末の製造業■情報処理関連の機器・部品・ソフトウェア製造業、情報サービス関連業■インフラ関連業種(電力業、ガス業、通信業、上水道、鉄道業、石油業、熱供給業、放送業、旅客運送)■警備業、農林水産業、皮革製品製造業、航空運輸業、海運業 等
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その会社の事業が、事前届出の業種に該当するかどうかは、具体的にはどうやって判断するのかな?
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それは投資家自身が自ら判断するのが原則なんですよ。キビシー。ただ、そうは言っても、財務省が判断の参考になるように、上場企業については、リスト(財務省HP)を公開しているよ(上場会社の外為法における対内直接投資等事前届出該当性リスト)。これは、上場会社が、自分の会社を「事前届出業種かどうか」を自己判断している結果のリストだよ。これを見ると、1997社の上場業種が自分の会社を事前届出対象と自己判断しているよ。ただ、未上場企業については、このようなリストはないから、投資家は会社の事業内容を吟味して、事前届出が必要かどうかを判断しないとね!
事前届出の必要な態様の投資
■上場会社の1%以上の株式取得、非上場会社の1株※以上の株式取得※端株の取得も含む
■外国投資家又はその関係者の取締役・監査役の就任への同意
■事前届出の必要な業種に属する事業の譲渡や廃止の提案・同意
<例外>
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事前届出の業種を営んでいる会社側は、外国投資家から出資を受ける場合に、何かすることはありますか?
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事前届出の義務は外国投資家にあるため、発行会社に義務はないです。とはいえ、仮に外国投資家が無届けで出資を行った場合国の安全等の観点で問題がある場合には、株式売却を含む命令が行われる可能性があるよ。だから、外国投資家には、事前届出の提出義務がある点を伝えておくことが大切だよ。
【ポイント】外国人投資家が、国の安全や経済の根幹の保護のために特に指定された業種(事前届出業種)について、上場会社の1%以上、非上場会社の1株以上を取得する場合は、事前届出の義務があります。
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それでは、定款には「システム開発」「発電事業」などと、事前届出にあたりそうな業種も書いてあるけど、実際はそのよう事業はしていない会社へ、外国投資家が出資するときは、どうするのかな?
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そのようなときは、事前届出は不要だよ。ただ、事前届出が必要なケースかどうか判断に迷う場合は、念のため日銀や財務省、または業種の所管官庁に聞くのが安全だ思いますよ。
事後報告の手続き
外国投資家が対内直接投資を行うケースで、上記でご説明した「事前届出が必要なケース」以外では、例外を除き、事前届出が必要です。日銀のホームページで、取引の型ごとの報告様式が掲示されていますが、「対内直接投資」では様式11(下記)という帳票を使って、報告します。
なお、報告の簡略化のために、対内直接投資等では、以下の場合は報告不要となっています。
・相続・遺贈・株式無償割当て・取得条項付株式の取得事由の発生による株式等の取得
・出資比率、議決権比率ともに10%未満(密接関係者との合計)の株式又は持分の取得
・変更後の事業目的が事前届出業種に該当しない会社の事業目的の変更
・事業目的が事前届出業種に該当しない支店等の設置
・変更後の事業目的が事前届出業種に該当しない支店等の種類または事業目的の変更
事後報告の手続き
・対内直接投資等を実行した日から45日以内に、日本銀行を経由して報告書1通を財務大臣と事業所管大臣に提出します。報告の書式は、日銀の「報告書様式および記入の手引等」を参照します。「対内直接投資」は、このHPの「6.外為法第55条の5、6および8に係るもの(提出先:国際局国際収支課)」というところにある、「様式11」(前掲)を使います。
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事後報告の義務は、外国投資家にあるんだよね。でも、外国投資家が日本にいない場合はどうするの?
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非居住者や日本に拠点のない外国人投資家の場合は、報告内容の責任は投資家にあるんだけど、その場合は、必ず居住者である代理人(行政書士や、株式発行会社など)を通じて行うことになっているよ。委任状を添付することは求めらていませんが、報告書に、代理人の氏名や、連絡先を記載し、日銀からの問い合わせには代理人が対応できるようにしておくんだよ。
・提出期限を過ぎてしまった場合は、日銀は「 直ちに提出してください。この場合は、報告書の「その他の事項」欄に、所定の期日内に提出できなかった理由およびその旨を付記してください。 」としています。(・外為法Q&A 対内直接投資・特定取得編(日銀)Q18)
・報告の方法は、郵送か「日本銀行外為法手続きオンラインシステム」で行います。
<参考>
・外為法の報告書についてよく寄せられる質問と回答 (日銀)
・対内直接投資審査制度について(財務省)
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行政書士中村光男事務所では、「日本銀行外為法手続きオンラインシステム」による事後報告の代理業務を行っています。対内直接投資の報告などで、お困りの際はご相談下さい。