AIが日本では自由に機械学習ができるので喜ぶ 杉並区 | 行政書士中村光男事務所

ChatGPTなどの生成AIの進化は目覚ましく、日常生活で活用される機会も多くなりました。私も、ChatGPTの有料版を便利に使っています。しかし、生成AIの利用で、自覚がないまま著作権を侵害しないように注意が必要です。そこで、「生成AIと著作権」について、基本的知識を整理しました。

結論:日本の著作権法は、AIの機械学習による著作物の利用を、特定の条件下で広範囲にわたって許容しています。しかし、AIで生成された画像や文章については、私的利用などの著作権の権利制限がある場合を除き、「依拠性」や「類似性」があれば、著作権の権利侵害として訴えられるリスクがありますので注意が必要です。

著作権とは

著作権とは、著作物の創作者がもつ権利のことです。自分が創作した著作物を無断でコピーされたり、インターネットで利用されない権利です。

著作者の権利は、人格的な利益を保護する著作者人格権と財産的な利益を保護する著作権(財産権)の二つに分かれ、下の表のような権利があります。

1.著作者人格権

著作者だけが持つことができる権利で、譲渡したり、相続したりすることはできません(第59条)。したがって、著作者人格権は、著作者の死亡によって原則的には消滅します。

2.財産的な利益を保護する著作権

この意味での著作権は、その一部又は全部を譲渡したり相続したりできます(著作権法第61条第1項)。したがって、ある著作者が、創作した著作物の財産的な意味での著作権を他人に譲渡している場合、第三者がその著作物を利用するためには、著作者ではなく譲渡された人(財産的な意味での著作権を持っている人を、「著作権者」といいます。)の許可を得る必要があります。

著作者の権利 杉並区 | 行政書士中村光男事務所

文化庁資料より

上記のように、著作権は、複製、上演、演奏、上映といったように、著作物の利用の形態ごとに権利(=「支分権」)が定められています。

著作物を利用する行為すべてが著作権の対象となるものではなく、支分権の対象となっていない行為(例:著作物を閲覧したり、記憶に残すといった行為)には著作権は及びません。

著作物が自由に使える場合とは(権利制限規定)

著作物を利用するためには、原則として、著作権者から許可が必要です。

しかし、日本の著作権法の基本精神は、「著作者等の権利・利益を保護すること」と、「著作物を円滑に利用できること」のバランスをとることが重要という考え方です。

そのため、著作権法は、以下のような一定の場合には、著作物を自由に利用することができることを定めています。

権利制限規定 杉並区 | 行政書士中村光男事務所

文化庁資料より

引用等であれば利用してよいということは、すなわち著作権者の立場からは、著作権が制限されていることになりますので、これらの規定は権利制限規定とよばれています。

権利制限規定に該当する場合は、権利者から許諾を得ることなく、著作物を利用可能です(著作権侵害とはなりません)。

なお、著作権(財産権)が制限される場合でも、著作者人格権は制限されません。

著作権侵害の要件

他人の著作物を、①権利者から許諾を得ておらず、②権利制限規定にも該当しないにもかかわらず利用した場合は、著作権侵害となります。

この著作権侵害の要件として、裁判例では、①「後発の作品が既存の著作物と同一、又は類似していること」(類似性)②「既存の著作物に依拠して複製等がされたこと」(依拠性)の両方を満たすことが必要とされています。

類似性とは

「既存の他人の著作物と同一、又は類似している」(=類似性がある)」というためには、他人の著作物の「表現上の本質的な特徴を直接感得できること」が必要とされています。

「創作的表現」が共通していることが必要であり、アイディアなど表現でない部分、又は創作性がない部分が共通するにとどまる場合は、類似性は否定されます。

<類似性が否定された例>

●既存著作物との共通部分が「表現」か、あるいは「アイディア」や「単なる事実」か
⇒例:既存著作物のストーリーが「等身大化した実験用動物が人間を手術する」といった過去に例のない独創的なもので、後発の作品でもそのストーリーが共通していたとしても、これは具体的な表現ではないアイディアであり、類似性は認められない。

●既存著作物との共通部分が「創作性」のある表現か、ありふれた表現か
⇒例:「カエルを擬人化してイラスト化する」という場合に、「カエルの顔の輪郭を横長にすること」、「胴体を短くし、短い手足を付けること」、「目玉が丸く顔の輪郭から飛び出していること」といった要素は、誰でも行うようなありふれた表現であり、これらの点が共通していても類似性は認められない。

依拠性とは

「依拠」とは、「既存の著作物に接して、それを自己の作品の中に用いること」をいうとされています。

<依拠性があると考えられる例>

●過去に目にした既存のイラストを参考に、これと類似するイラストを制作した場合

●既存の楽曲が広く知られた著名なものであり、これと類似する楽曲を制作した場合

※既存の著作物を知らず、偶然に一致したに過ぎない、「独自創作」などの場合は、依拠性はないと考えられます。

これまでの裁判例では、次のような要素を総合的に考慮して依拠性を判断している例が多く見られます。

●後発の作品の制作者が、制作時に既存の著作物(の表現内容)を知っていたか
●後発の作品と、既存の著作物との同一性の程度
●後発の作品の制作経緯

著作権侵害に対する民事・刑事の制裁

著作権侵害に対しては、著作権者は、次のような、侵害行為の停止・予防措置の請求や、侵害により被った損害の賠償請求等が可能です。

・侵害行為の差止請求(著作権法第112条)

・損害賠償の請求(民法第709条・719条、第114条)

・不当利得の返還請求(民法第703条・704条)

・名誉回復などの措置の請求(著作権法第115条)

また、著作権侵害行為は、刑事罰の対象(※)ともなります。

(※)10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、又はその併科(法人は3億円以下の罰金)ただし、著作権侵害罪は、原則として権利者による告訴が必要な「親告罪」とされています。

AIと著作権の基本的考え方

日本のAIと著作権の関係については、「日本はAIの機械学習パラダイス」と言われることがあります。諸外国に比べ、AIの利用促進の法制が進んでいる(あるいは緩い)とも言われます。この背景は次の2つの視点です。

  1. 技術革新の促進:日本は伝統的に技術革新を重視しており、機械学習を含むAI技術は経済成長と競争力向上の鍵と見なされています。規制を緩和することで、研究開発を促進し、技術的リーダーシップを確保しようとしています。
  2. データ利用の拡大:機械学習の進歩は大量のデータを必要とします。日本では、著作物を機械学習のために利用することを「情報解析」とみなし、これを合法化することで、データへのアクセスと利用を広げています。

具体的には、2017年の著作権法改正で、「法第30条の4」が導入され、AIが著作物を学習することが「情報解析」の一環として広く可能となりました。

立法者は、「情報解析の用に供する目的で著作物を利用する場合など、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用著作物の本来的利用には該当せず、権利者の利益を通常害さないと評価できる行為類型(著作物を享受(鑑賞等)する目的で利用しない場合 等)であるので、柔軟な権利制限規定が妥当である」と考えたようです。

これにより、著作権者の許諾なしに大量のデータをAIが学習することが可能になりました。

著作権法30条の4

著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合

情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第47条の5第1項第2号において同じ。)の用に供する場合

三 前2号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合

<法30条の4導入の際の議論>
「著作物が入力される段階と、出力される段階とを分けて検討する必要がある。入力の段階では著作物の表現を享受しない利用であると考えられ、著作権者への不利益は通常生じないと考えらる。」

AI「生成・利用段階」での考え方

AIの開発・学習段階では上で見たように、著作権の権利侵害が起こりにくい仕組みになっていますが、「生成・利用段階」となると、また別の話となります。

AIを利用して画像や文章等を生成した場合でも、著作権侵害となるか否かは、人がAIを利用せず絵を描いた場合などの、通常の場合と同様に判断されます。

つまり、「類似性」と「依拠性」による判断です。

著作権侵害の要件 杉並区 | 行政書士中村光男事務所
著作権侵害の要件 文化庁資料より

 

AI生成物に、既存の著作物との「類似性」又は「依拠性」が認められない場合、既存の著作物の著作権侵害とはならず、著作権法上は著作権者の許諾なく利用することが可能です。

これに対して、既存の著作物との「類似性」及び「依拠性」が認められる場合、そのようなAI生成物を利用する行為は、① 権利者から利用許諾を得ているか、② 許諾が不要な権利制限規定が適用されるのいずれかに該当しない限り、著作権侵害となります。

※ただし、私的に鑑賞するため画像等を生成する場合など、もともと権利制限規定(私的使用のための複製、授業目的の複製など)に該当しているなら、著作権者の許諾なく行うことが可能です。(法第30条第1項)

AI利用者の対応

AI利用者としては、著作権侵害とならないよう、AI生成物を利用する際は次のような点に注意が必要です。

行おうとしている利用行為(公衆送信・譲渡等)が、権利制限規定に該当するか
権利制限規定に該当する場合は、仮に既存の著作物との類似性・依拠性が認められる場合でも許諾なく利用が可能です。

既存の著作物と類似性のあるものを生成していないか
既存の著作物との類似性の程度によっては、AI生成物に依拠性が認められ、許諾なく利用すれば著作権侵害となるおそれがあります。
⇒既存の著作物と類似していることが判明したAI生成物については、
①そのまま利用することを避ける
②そのまま利用する場合は、既存の著作物の著作権者から許諾を得た上で利用する
③既存の著作物とは全く異なる著作物となるよう、大幅に手を加えた上で利用する
……といった対応が考えられます。

AI生成物は「著作物」に当たるか

AIが自律的に生成したものは、 「思想又は感情を創作的に表現したもの」ではなく、著作物*に該当しないと考えられます。

自律的AI生成物 杉並区 | 行政書士中村光男事務所
自律的AI生成物イメージ 文化庁

*著作物は「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とされています。(著作権法2I①)

これに対して、人が思想感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使用したものと認められれば、著作物に該当し、AI利用者が著作者となると考えられます。

人がAIを「道具」として使用したといえるか否かは、人の「創作意図」があるか、及び、人が「創作的寄与」と認められる行為を行ったか、によって判断されます。

まとめ

日本の著作権法は、AIの機械学習による著作物の利用を、特定の条件下で広範囲にわたって許容しています。しかし、AIで生成された画像や文章については、私的利用などの著作権の権利制限がある場合を除き、「依拠性」や「類似性」があれば、著作権の権利侵害として訴えられるリスクがありますので注意が必要です。

【参考資料】AIと著作権(文化庁)公益社団法人著作権情報センター「はじめての著作権講座」 機械学習パラダイス(上野達弘)

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