
深夜営業をするお酒を提供する飲食店を開業する手続きについて、概略を解説いたします。
Aさんが、繁華街で昭和歌謡を流すことを売りにして、深夜も営業するバーを開業しようとしている例を取り上げてみます。
飲食店営業許可(保健所)
バーは飲食店にあたります。このため、食品衛生法で定められた営業許可が必要となります。窓口は保健所です。
営業を行うには、まず、営業所所在地の地域を管轄する保健所に営業許可申請を行い、知事が定めた施設基準に合致した施設をつくり、営業許可を受けることが必要です。次に、施設や設備が基準どおりに維持管理されているか常に点検し、また、食品の取扱い等にも十分留意して、より安全で衛生的な食品を提供することが必要です。
飲食店営業許可を得るために重要な点
以上のような諸点がありますが、自治体によって異なりますので、最寄りの保健所に事前相談を行います。
1. 営業施設の構造・設備要件
・調理室と客室が明確に区分されていること
・シンクは2槽以上(※地域によって例外あり)
・十分な換気設備があること(換気扇、排気ダクトなど)
・壁・床は清掃しやすい素材であること(タイル、ステンレスなど)
・手洗い設備があり、温水が出る(最近では必須の地域が増加)
2. 施設の使用目的に適合していること
・テナント契約上、「飲食業」用途で使用可能であること
・建築基準法上の用途地域(第一種低層住居専用地域などでは営業不可)
3. 食品衛生責任者の設置
以下いずれかの資格者が必要です。
・調理師、栄養士などの資格保有者
・それ以外の者は、「食品衛生責任者養成講習会」を受講して資格取得が必要
4. 許可申請書類の準備
・営業許可申請書
・営業施設の図面(平面図)
・食品衛生責任者の資格証明書(または講習修了証)
・テナントの賃貸借契約書(自己所有の場合は登記簿謄本)
5. 保健所の事前相談と現地確認
・設備工事の前に保健所に図面を持参して事前相談する
・工事完了後に保健所の立入検査を受け、適合すれば許可がおりる
深夜酒類提供飲食店営業開始届(警察署)
深夜営業をする飲食店のうち、主にお酒を提供する店舗については、警察署への届出が必要となります。具体的には、深夜0時以降も営業を行うバーなどが対象です。昭和歌謡のバーであっても、お酒を提供し、深夜0時以降も営業を続ける場合には、「深夜酒類提供飲食店営業開始届出書」を所轄の警察署へ提出しなければなりません。
この届出は保健所への飲食店営業許可とは別の手続きとなります。
「深夜営業」とは、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下、風営法)」において、午前0時から午前6時までの時間帯に、酒類を主として提供する飲食店が営業を行うことを指します。
このような営業を行う場合には、「深夜における酒類提供飲食店営業開始届出書」を、所轄の警察署(公安委員会)に提出する必要があります。
届出が必要かどうかの判断基準
届出が必要かどうかは、次の2点を基準に判断されます:
①午前0時から午前6時の間に営業を行うか
②提供するサービスの主が「酒類」であるか
<届出が不要なケースの例>
例えば、ファミリーレストランのように、多少のアルコールは提供しているものの、主たる提供物が食事である店舗については、午前0時以降に営業していたとしても、届出は不要とされています。
<判断が難しいケースは警察に確認を>
レストランや寿司店などで、酒類の提供が多いものの、主たる提供が食事か酒類かの判断がつきにくい場合もあります。
このような場合には、必ず所轄の警察署(公安委員会)に事前に確認を取りましょう。
無届営業のリスク
もし届出をせずに深夜営業を行った場合は、風営法第34条により、50万円以下の罰金が科される可能性があります。
また、届出書に虚偽の記載があった場合も同様の罰則があります。
自己判断での線引きはせず、必ず事前に確認することが重要です。
深夜酒類提供飲食店営業で重要な点
届出に必要な書類
・深夜における酒類提供飲食店営業営業開始届出書
・営業の方法(を記載した書類)
・営業所の平面図(求積図、照明・音響設備図)
・飲食店営業許可書
・営業所に係る賃貸借契約書(賃貸店舗の場合)
・本籍記載の住民票の写し(外国人の場合は国籍記載のもの。法人の場合は役員全員分)
・本籍地の市区町村長が発行する身分証明書
・成年後見登記制度での登記がされていないことの証明書
・誓約書(内容は管轄警察署に確認のこと)
参考 警視庁HP「深夜における酒類提供飲食店営業(営業所ごとの届出)」
深夜営業で守るべきこと
【店舗の構造および設備に関する基準】
客室が複数ある場合、各客室の床面積は9.5平方メートル以上とすること
客室内には、高さ1メートルを超えるついたてや仕切りなど、見通しを妨げる設備を設置しないこと
善良な風俗や風俗環境を害するおそれのある写真、広告物、装飾品などは設置しないこと
店内の照明は、常時20ルクス以上を確保すること(調光機能付き照明の場合は特に注意が必要)
【従業者名簿の作成・管理】
営業に従事する従業員については、従業者名簿を作成し、適切に保管する必要があります。
◯ 記載事項は以下のとおりです:
氏名、住所、性別、生年月日、本籍及びその確認年月日
従事する業務の内容
採用年月日および退職年月日
これらの内容を記載した従業者名簿を2部作成し、必要書類の写しを添付してファイルに綴じて保管してください。
また、電磁的な方法で記録されており、必要に応じて即時に表示できる状態にある場合は、電子データでの管理も可能です。
必要に応じて、警察署の立入検査時に提出を求められることがありますので、常に整理・保管しておくようにしましょう。
深夜0時以降に顧客に遊興させることは禁止
特別の許可(「特定遊興飲食店営業」許可)のない限り、深夜0時以降は、顧客に「遊興させる」行為は禁止です。「遊興させる」とは、店側が顧客に対して積極的に遊興を促すことを言います。具体的には顧客にカラオケをすすめたり、ビンゴ大会を開催したりといった行為です。ただし、顧客同士がカラオケをすすめ合うなど、自発的に何かをすることが禁止事項に該当することはありません。
これは、深夜(午前0時~6時)は社会的規範が緩みやすく、飲酒や遊興により風俗上の問題が発生しやすいため、「深夜・遊興・飲酒」の3要素を満たす営業は特定遊興飲食店営業として規制される。
特定遊興飲食店営業とは、設備を設けて、酒類を提供しつつ、遊興をさせる営業で、午前0時~6時に行うもの(風俗営業は除く)です。
<「遊興をさせる」とは>
営業者の積極的な働きかけにより、客に娯楽・参加型の活動をさせる行為です。
該当する例:
ショー、ダンス、生演奏、のど自慢大会などへの参加勧奨
カラオケで合いの手や照明演出をする
スポーツ観戦をさせ、応援に誘導する
該当しない例:
カラオケボックスでの自主的な歌唱
客が自発的にゲームを楽しむ場合
映画館での上映と軽飲食(飲食が主でない場合)
<「営業」とは>
利益目的で、同様の行為を反復継続して行うこと。
非該当の例:
大使館主催のパーティー
結婚式の二次会(営業者が営利を目的としない場合)
該当の可能性がある例:
深夜のイベントで飲食と演出を反復的に提供する店舗
<「設備を設けて」とは>
・飲食や遊興に使える備品・空間が設けられていること。
・客室を分けていても、以下のような関係があれば一体の営業とみなされる
⇒入場料に飲食を含む
⇒客が遊興と飲食を自由に行き来できる
⇒飲食物が遊興エリアに運ばれる など
※興行施設(映画館や劇場)では、常態として飲食を提供しない席は対象外。
<「酒類を提供する」とは>
酒を販売・贈与するだけでなく、燗・グラスの提供・水割り用の水などを出す行為も含みます。持ち込みやボトルキープでも、店舗が提供準備をすることで「提供」に当たります。
この規定は、風俗営業法の下で深夜営業する飲食店にとって重要な基準となります。
判断が難しい場合は、所轄の警察署への事前相談をするようにしましょう。
参考 https://www.npa.go.jp/laws/notification/seian/hoan/hoan20180130.pdf
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