ペットは私たちの心を癒してくれる大切な家族の一員です。しかし、お一人様の場合、自分が心身が不自由になった後や、死後にペットの世話を誰が引き継ぐのかを考えることがあるのではないでしょうか。今回は、ペットの将来を守るための法的手段である「事務委任契約」(「生前事務委任契約」「死後事務委任契約」)、「負担付き遺贈」「死因贈与」「ペットのための信託契約」について解説します。
事務委任契約
事務委任契約は「生前からペットの世話がスタートするか」にするか「死後からペットの世話がスタートするか」で2つに分かれます。
生前事務委任契約
生前事務委任契約は、高齢者が将来の判断能力や体力の低下に備えて、判断能力が十分にあるうちから「財産管理」や「療養管理」の事務を親しい人や専門家に委任する契約です。何を委任かは自由ですので、ペットの世話も委任することができます。
ペットの世話を委任事項に加える例
第〇条(ペットの飼育及び管理に関する事項)
- 甲は乙に対し、甲が所有している以下に定めるペット(以下「本件ペット」という。)の飼育及び管理に関する事務を委任する。
- 種類:犬/猫/その他
- 名前:〇〇
- 年齢:〇歳
- 特徴:毛色、体重、識別マイクロチップ番号(ある場合)など
- 乙は、本件ペットの飼育にあたり、以下の事項を適切に行うものとする。① 餌の提供及び水の確保
② 日々の清潔維持(ブラッシング、シャンプー等)
③ 必要に応じた適切な散歩(犬の場合、1日〇回、〇分程度)
④ 定期的な健康診断及び予防接種の実施- 必須予防接種:狂犬病、混合ワクチン(〇種)等
- 健康診断頻度:年〇回
- 乙は本件ペットの医療が必要とされる場合、速やかに動物病院に連れていくものとし、その費用は甲の遺産から支払われる。
- 本件ペットの最終的な飼育先が必要となった場合、乙は信頼できる新しい飼い主を探し、引き渡しを行う。
- 乙は、本件ペットに関する飼育及び管理の状況を、●●(別途指定)に対し必要に応じて報告する。
死後事務委任契約
死後事務委任契約は、飼い主が亡くなった後のペットの世話を信頼できる個人や団体に委任する契約です。この契約により、飼い主の死後もペットが適切にケアされることが確実になります。以下に、ペット飼育に関する死後事務委任契約の例を示します。
負担付き遺贈
負担付き遺贈は、ペットの世話を条件に財産を遺贈する遺言の一形式です。
- 遺言で条件を明記
信頼できる人に「ペットの面倒をみること」を条件として財産を遺贈できます。 - 条件不履行の場合の対応
受遺者が条件を履行しない場合、家庭裁判所に負担付き遺贈の取り消しを請求できます。ただし、請求権者は相続人に限られるため、協力的な相続人がいない場合に備えて、遺言執行者を指定することが重要です。
負担付き遺贈は、遺言書に財産を遺贈する代わりに受贈者に何らかの義務を負わせる遺言です。遺言者本人の気持ちが変わればいつでも撤回できます。
負担付き死因贈与
もう一つの選択肢が負担付き死因贈与です。これは、負担(ペットの世話)を条件として、贈与者の死亡時に財産を受贈者に譲る契約行為です。
- 遺言との違い
負担付き遺贈は遺言なので、生前に遺言者の意思で変更や撤回が可能ですが、負担付き死因贈与は契約であるため、解除には贈与者と受贈者双方の合意が必要です。 - 生前からの対応が可能
負担付き死因贈与では、贈与者が存命中の間から受贈者にペットの世話をお願いすることができます。これにより、生前からペットの飼育を実際に引き継ぐ相手を確認し、信頼関係を築くことができます。 - 慎重な相手選びが必要
一度契約を結ぶと簡単に解除できないため、受贈者の選定には特に注意が必要です。
ペットのための信託契約
ペット信託は、飼い主の死亡や飼育困難な状況に備え、ペットの生活を支えるための信託契約です。この仕組みを活用すれば、飼い主の死後もペットが安心して暮らし続けられる環境を整えられます。
- 仕組み
ペット信託では、飼い主(委託者)が信頼できる家族や知人(受託者)と信託契約を結び、ペットの飼育費用を管理します。この際、信託専用口座を開設し、必要な資金を入金します。 - 新たな飼い主の指定
信託契約の中で新たな飼い主を指定し、飼い主の死亡や飼育困難時に飼育が自動的に引き継がれるようにします。 - 信託監督人の設置
飼育や費用の支払いが適切に行われるよう、信託監督人を設定することが可能です。これにより、受託者が契約内容を確実に履行しているかを監視し、ペットの生活が保障されます。
ペット信託は、民事信託を応用した形で、ペットのための財産管理と飼育を継続的に支えることができます。ペットの長期的な幸福を考える上でひとつの選択肢と言えるでしょう。