相続土地国庫帰属制度 杉並区 | 行政書士中村光男事務所

相続した土地を国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」。

ご相談を受けていて必ず聞かれるのが、「実際のところ、どれくらいの割合で通るのですか」という質問です。

結論から申し上げると、この制度の承認率は、審査まで進んだ案件に限れば9割を超えます。ただしこの数字は、そのまま「申請すれば9割通る」という意味ではありません。今日は法務省が公表している最新の統計をもとに、この「承認率」という数字の正体を読み解いてみます。

法務省は「承認率」を公表していない

まず押さえておきたいのは、法務省が「承認率」という数字そのものを発表しているわけではない、ということです。公表されているのは、申請件数、帰属件数、却下件数、不承認件数、取下げ件数といった生の数字だけです。

つまり世の中で見かける「承認率○○%」という数値は、すべて誰かが計算したものです。そして計算の仕方によって、答えは大きく変わります。

令和8年5月31日現在の数字(速報値・制度開始からの累計)を並べてみます。

区分 件数
申請 5,545件
国庫に帰属(承認・完了) 2,762件
却下 81件
不承認 85件
取下げ 1,023件
審査中(差引) 1,594件

注目していただきたいのは、いちばん下の「審査中」です。申請から処理済みの件数を差し引くと、およそ1,600件、全体の3割近くがまだ審査の途中にあります。この制度の審査には半年から1年程度かかりますので、常にこれだけの案件が「進行中」の状態にあるわけです。

分母の取り方で、50%にも94%にもなる

では、この数字から承認率を計算してみましょう。分母を何にするかで、こうなります。

計算方法 承認率
帰属 ÷ 申請総数 49.8%
帰属 ÷ 処理済み(取下げを含む) 69.9%
帰属 ÷ 審査で判断が出たもの(却下・不承認のみ) 94.3%

同じ統計から、50%とも94%とも言えてしまいます。

このうち、いちばん実態を表しているのは3番目です。審査のテーブルに乗った案件のうち、却下・不承認となったのは合計166件にすぎません。申請までたどり着いた土地は、その大半が国に引き取られているのです。

一方、1番目の「申請総数で割る方法」は、まだ結論の出ていない審査中の1,600件を分母に入れてしまっているため、実態より低く出ます。「この制度は半分しか通らない」といった話を目にしたら、この計算をしている可能性が高いとお考えください。

落ちる土地には、はっきりした共通点がある

とはいえ、166件は確かに落ちています。理由の内訳を見ると、対策すべき点がはっきり見えてきます。

却下(81件)の理由で最も多いのは、添付書類の不備(37件)です。土地の性質が悪かったわけではなく、出すべき書類が揃っていなかったために門前払いになったケースが、却下のおよそ半分を占めています。次いで多いのが、現に通路として使われている土地(21件)と、境界が明らかでない土地(21件)です。

不承認(85件)で突出しているのは、地上に工作物・車両・樹木などがある土地(41件)です。放置された物置、乗り捨てられた車、伸び放題の立木。こうしたものが残っている土地は、国が管理するのに手間がかかるため引き取ってもらえません。次に多いのが、整備が必要な森林(35件)でした。

ここから導かれる教訓はシンプルです。書類を正確に揃え、土地の上のものを片付け、境界をはっきりさせる。

この3点を押さえるだけで、落ちる理由のかなりの部分が消えます。

逆に言えば、この準備を怠ったまま申請すると、1筆あたり14,000円の審査手数料は返ってきません。

「取下げ」1,023件の中身が、意外に明るい

もうひとつ、見逃せないのが取下げの1,023件です。取下げというと失敗のように聞こえますが、内訳を見ると印象が変わります。

  • 有効活用の見込みが生じた:546件
  • 却下・不承認であることが判明した:355件
  • その他:122件

最も多いのは「有効活用の見込みが生じた」546件です。法務省によれば、自治体や国の機関が土地を活用することになった、隣接地の所有者から引き受けの申出があった、農業委員会の調整で農地として使われることになった、といったケースだそうです。

これは申請者にとって、むしろ望ましい結末でしょう。負担金20万円を払って国に渡すよりも、誰かに使ってもらえるほうがいい。

国庫帰属の申請をしたことが、結果として土地の引き取り手を呼び込んだわけです。

この546件を「失敗」から除いて計算し直すと、実質的な承認率はおよそ84%になります。

まとめ

相続土地国庫帰属制度の承認率について、押さえておきたいのは次の3点です。

第一に、審査まで進めば9割以上が承認されます。
この制度は「厳しすぎて使えない」と言われがちですが、統計を見る限りそんなことはありません。

第二に、落ちる理由の多くは、事前の準備で防げるものです。
却下理由の第1位は書類不備、不承認理由の第1位は土地の上の物。どちらも、申請する前に手を打てる話です。

第三に、申請すること自体に副次的な効果があります。
法務局は申請があった旨を自治体や隣接地所有者に情報提供します。
その結果として「引き取りたい」という声が出てくることが、実際に500件以上ありました。

相続した土地の処分でお悩みの方は、まず土地の現況をよく確認するところから始めてください。
建物や工作物は残っていないか、境界標はあるか、誰かが通路として使っていないか。
この確認だけでも、見通しはかなりはっきりします。
ご不安な場合は、法務局の事前相談を利用することもできますし、専門家にお声がけいただいても構いません。


ご参考

※本記事の数値は法務省公表の速報値(令和8年5月31日現在、制度開始からの累計)に基づいています。

中村光男

この記事を書いた人

行政書士中村光男事務所 代表 中村光男(行政書士・防災士・AFP)

東京都杉並区 TEL 03-6356-3571

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