外国人の永住許可が厳格化へ|「厚生年金30年」の意味と年金・収入要件を行政書士が解説

2026年7月24日、外国人の永住許可の要件を定めたガイドラインについて、入管庁が厳格化の改定案をまとめたと報じられました。

ただし、これは記者が案の内容を知り得たという段階の報道で、入管庁が正式に公表した文書ではありません。

今日は、いま分かっている範囲で報道の要点を整理し、確定情報と切り分けたうえで、制度としての見通しと備えを解説します。数字が一人歩きしやすい話ですので、そこを丁寧に押さえます。

何が報じられたのか

報道によれば、改定の対象は永住許可の3つの法定要件のうち、②独立生計要件と③国益要件です。①素行善良の部分には触れられていません。報じられた主な内容は、次のとおりです。

項目 報じられた内容
収入・資産 日本人世帯の平均を上回る収入を原則とする
年金の考え方 その収入水準で30年間、厚生年金に加入していた場合に受給できる額に、受給見込み額が達していること
資産での代替 同等の預貯金などがあれば②を満たすと評価。若年者は求める補塡額の基準が低い
日本語能力 国際基準で「自立した言語使用者」とされる水準を求める
制度理解 日本の制度やルールの理解度が一定に達しないと消極評価。学齢期の子を就学させていない場合も消極評価
配偶者特例 「婚姻3年・在留1年」を「婚姻5年・在留3年」に延長
時期 10月1日改定、来年4月の申請分から適用。ただし収入水準は今年4月以降の申請にも適用

このあと入管庁が案を公表し、パブリックコメントを経て改定する、という流れも報じられています。

「厚生年金30年」は加入実績ではない

見出しでは「厚生年金30年を原則に」と読める書き方になっていますが、報道の本文をよく読むと、30年間の加入実績そのものを求めているわけではありません。求められているのは、年金の受給見込み額が「その収入水準で30年加入した場合に相当する額」に達していること、という考え方です。

つまり、30年という数字は加入年数の条件ではなく、将来にわたって自活できるかを測るための物差しとして使われています。同等の預貯金があれば足りるとされ、若い人ほど求められる補塡額の基準は下がる、とされている点も、この読み方を裏づけます。ここを取り違えると、「30年働かないと永住は無理だ」という誤った理解が広がりかねません。

30年加入で見込まれる年金額と、国民年金との差

では、報道が基準に置く水準は、金額にするとどのくらいでしょうか。厚生労働省がモデル年金の前提に使う平均的な収入(賞与込みの月額換算で45.5万円、年収にしておよそ546万円)でおおまかに試算すると、30年加入で年150万円前後(月にして12〜13万円ほど)になります。

これを国民年金だけで達成するのは、制度上むずかしいと言わざるを得ません。令和8年度の老齢基礎年金は満額でも月70,608円、年にして約85万円です。40年きっちり納めてもこの水準ですから、モデルの年150万円台には届きません。30年加入なら満額の4分の3、年にして約64万円にとどまります。

加入期間中の平均年収 30年加入の見込み額(年・現在価値の目安)
国民年金のみ40年(満額) 約85万円
厚生年金 400万円 約130万円
厚生年金 546万円(モデル) 約153万円
厚生年金 600万円 約162万円

厚生年金には報酬比例部分があり、加入期間はそのまま基礎年金にも反映されます。国民年金しかない自営業者との差は、ここで大きく開きます。自営業のまま在留している方が、法人を設立して役員報酬を取り、厚生年金に加入するという選択が現実味を帯びるのも、こうした事情によります。なお、国民年金基金やiDeCoの見込み額が「年金の受給見込み額」に算入されるのか、それとも資産側で見られるのかは、案の本文を見ないと判断できません。

適用時期と配偶者特例に注意

見落とせないのが、適用の時期です。

報道では、改定は10月1日、適用は来年4月の申請分からとしながら、収入の水準だけは今年4月以降の申請にも適用するとされています。すでに審査に入っている案件にも新しい基準が及ぶ可能性があり、実務上も議論を呼びそうな部分です。

配偶者特例の見直しも影響が大きいところです。

現行のガイドラインでは、日本人や永住者の配偶者・実子は②と③の要件が免除され、「婚姻3年・在留1年」で永住が認められています。報道どおりなら、これが「婚姻5年・在留3年」に延びることになります。ただし、②を厳格化する今回の案が配偶者にどこまで及ぶのかは、公表される条文を確かめないと確定的なことは言えません。

なお、この改定案は、7月3日にパブリックコメントが始まった永住申請手数料の引き上げ(1万円から20万円、10月1日受付分から適用予定)とは別の話です。時期が重なるため混同しやすいのですが、手数料は政令の改正、今回は運用ガイドラインの改定と、性質が異なります。

いま準備できること

まだ案の段階ですので、確定した内容として動くのは早計です。そのうえで、備えとして意味があることを挙げておきます。

まず、収入・年金・納税の記録を早めに整えることです。

ねんきんネットで受給見込み額を実際に出しておくと、今の水準がどのあたりにあるかが具体的に見えます。次に、事業形態の確認です。自営業のままか、法人化して厚生年金に加入するかで、将来の見込み額に差が出ます。永住を視野に入れているなら、税負担だけでなく年金の観点からも役員報酬の設定を考える意味があります。そして、年内の申請を検討している方は、手数料改定の時期とあわせてスケジュールを組む必要があります。

まとめ

現時点で言えるのは、あくまで報道段階の情報であり、正式に決まった内容ではない、ということです。

そのうえで、報道が示す方向は、収入・年金・日本語能力の面で永住のハードルを一段引き上げるものです。「厚生年金30年」は加入年数の条件ではなく自活力を測る物差しであること、国民年金だけでは水準に届きにくいこと、この2点は押さえておきたい要点です

入管庁が案を正式に公表し、パブリックコメントを経て内容が固まった段階で、改めて確定情報として整理する予定です。

参考

中村光男

この記事を書いた人

行政書士中村光男事務所 代表 中村光男(行政書士・防災士・AFP)

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