これまで2回にわたって、外為法の対内直接投資審査制度と、指定業種への該当性をどう確かめるかを見てきました。今回は、この一連の流れの中で、行政書士に頼める部分と頼めない部分を整理します。依頼する側が知っておくと、どこまでを外に出し、どこを自社で持つかの判断がしやすくなります。
届出書・報告書の作成と提出は行政書士の業務
事前届出書も事後報告書も、日本銀行を経由して財務大臣および事業所管大臣あてに提出する書類です。官公署に提出する書類ですから、行政書士法にもとづき、行政書士が作成し、提出手続を代理することができます。書類の作成についての相談に応じることも、業務として認められています。
日本銀行の外為法手続オンラインシステムを使う場合も同じです。紙か電子かで扱いが変わるわけではありません。
添付する定款の写しや登記事項証明書、事業内容の説明資料をそろえる作業も、この延長線上にあります。
該当性は「判断の代行」ではなく「材料の整理」
一方で、指定業種やコア業種に当たるかどうかの判断そのものを、行政書士が引き受けることはできません。第2回で書いたとおり、判断の責任は届出義務者である外国投資家にあり、専門家に依頼したからといって責任が移るわけではないからです。
では何ができるのかというと、判断の材料をそろえる部分です。具体的には次のような作業になります。
- 告示と経済産業省の分類表に、会社の事業内容を当てはめて整理する
- 製造なのか卸売なのかなど、事実関係を詰めて言語化する
- 事業所管省庁への照会文案を作成し、照会を行う
- 照会の前提とした事実と、得られた回答を記録として残す
反対に、「該当しません」という結論だけを独立した意見書の形で出すことは、避けるべき領域だと考えています。また、告示の解釈そのものが争いになる場面や、勧告や措置命令といった行政処分が視野に入ってくる場面は、弁護士の領域です。ここは早い段階で切り分けておいたほうがよいでしょう。
隣接する手続は、それぞれ別の士業
外国からの出資を受け入れる場面では、外為法の手続だけでは完結しません。担当が分かれます。
| 手続 | 担当 |
|---|---|
| 事前届出書・事後報告書の作成と提出 | 行政書士 |
| 会社設立、募集株式の発行、役員変更の登記 | 司法書士 |
| 外国株主への配当に伴う源泉徴収、税務上の届出 | 税理士 |
| 投資契約・株主間契約の交渉、紛争への対応 | 弁護士 |
| 外国投資家本人が来日する場合の在留資格 | 行政書士 |
| 従業員の雇用に伴う労務・社会保険 | 社会保険労務士 |
株主総会議事録や定款変更に関する書類の作成は行政書士でも扱えますが、それを登記として申請するのは司法書士の業務です。境目が分かりにくいところなので、依頼する前に、どこまでを誰に頼むのかを確認しておくと行き違いが減ります。
自社で持つ部分と、外に出す部分
会社側で対応したほうが早く、正確なものがあります。
会社側で用意する部分 定款、登記事項証明書、事業計画、取り扱う製品や役務の内容、外国投資家の国や地域、法人か個人か、既存の持分の有無、出資後の議決権比率、役員派遣の予定。それに、日本銀行のオンラインシステムの利用開始手続。
外に出したほうがよい部分 告示と分類表への当てはめ、所管省庁への照会、届出書と報告書の作成、投資禁止期間を踏まえたスケジュールの管理。
外為法の手続で時間を食うのは、書類の記入そのものよりも、事実関係の確定です。ここを会社が持ち、法令への当てはめを外に出す、という分け方が現実的だと思います。
依頼する前に確かめておきたいこと
最後に、依頼する側の立場で確認しておくとよい点を挙げます。
経験の有無をそのまま尋ねる。 対内直接投資の届出を扱った実績があるか、該当性の照会を行ったことがあるかを、率直に聞いてかまいません。実績がないと答えたうえで、調査と照会から進める方法を説明する事務所のほうが、むしろ信用できます。曖昧にぼかす回答が返ってきたときは、慎重に考えたほうがよいでしょう。
費用の区切り方を確認する。 該当性の調査と照会、事前届出書の作成、事後報告の作成は、それぞれ別の作業です。段階ごとに見積もりを出してもらい、着手前に書面で受け取ってください。調べた結果として「事前届出は不要、事後報告のみ」という結論になった場合にも、調査自体の費用は発生します。この点をあらかじめ確認しておかないと、後で食い違いになります。
できないことを言うかどうか。 何でもできると答える事務所より、ここから先は弁護士、ここは司法書士、と線を引ける事務所のほうが安心です。
相談段階の秘密の扱い。 行政書士は、正式に受任していない相談の段階でも守秘義務を負います。とはいえ、送る資料の範囲や取扱いについて、事前に確認しておいて損はありません。
まとめ
外為法の対内直接投資に関して行政書士が担えるのは、届出書と報告書の作成、提出の代理、そして該当性を判断するための材料の整理と所管省庁への照会です。判断そのものの責任は届出義務者にあり、それが移ることはありません。登記や税務、契約交渉はそれぞれ別の士業の領域になります。
制度を知らないまま資金の払込み日だけが決まっていく、というのが一番避けたい状況です。出資の話が具体的になった段階で、早めに確認を始めることをお勧めします。
参考
- 財務省「対内直接投資審査制度について」 https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/gaitame_kawase/fdi/index.htm
- 経済産業省「対内直接投資審査制度について(外為法)」 https://www.meti.go.jp/policy/anpo/toushishinsaseido.pdf
- 日本銀行「外為法Q&A(対内直接投資・特定取得編)」 https://www.boj.or.jp/about/services/tame/faq/t_naito.htm
- 日本行政書士会連合会 https://www.gyosei.or.jp/
この記事を書いた人
行政書士中村光男事務所 代表 中村光男(行政書士・防災士・AFP)
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