永住ガイドライン改定案2026.08.04 杉並区 | 行政書士中村光男事務所

出入国在留管理庁が8月4日、永住許可に関するガイドラインの改定案(「永住許可に関するガイドライン改定案」)を公表し、パブリックコメントの募集を始めました。

世帯年収の基準引き上げ、将来の年金の新規追加、日本語能力の要件化など、審査基準を実質的に引き上げる内容です。

適用は2027年4月からですが、収入に関する部分は2026年10月以降の申請にも及びます。

独立生計要件――収入と将来の年金

改定案は独立生計要件について、現在及び将来において自活可能と認められる必要があり、日本人と同等水準以上の経済条件が求められる、と明記しました。

世帯年収

申請時点で、申請者の属する世帯年収が「世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を上回る水準」に継続して達しているかを見ます。

概要では、これを「基準の引き上げ」と説明しています。

世帯年収の計算について、改定案は次の点を示しています。

・世帯年収は、申請者本人と同一生計世帯を構成する者の収入を合算した額
・「家族滞在」など就労を目的としない在留資格の者が資格外活動で得た収入は合算しない
・申請者が扶養する親族は、海外に住み同居していない場合でも世帯人数に加算する
・世帯人数が5人以上の場合、生活費等の増加分を年収水準に加算する
・成人して父母の扶養から外れている者は、父母の収入を算入せず本人単独で判断する

■参考:現在公表されている統計

改定案は「日本人世帯の平均収入」がどの統計のどの数値を指すのか示していません。参考までに、現時点で公表されている数字を挙げておきます。

2024(令和6)年国民生活基礎調査(2023年の所得)
・全世帯 536万円
・高齢者世帯 314万8千円
・高齢者世帯以外の世帯 666万7千円
・児童のいる世帯 820万5千円

ただし、この数字から必要年収を逆算することはできません。国民生活基礎調査の「所得」は収入から必要経費等を差し引いた額であり、入管が課税証明書で確認する「年収」とは計算方法が違います。

将来の年金

新たに加わったのが年金です。申請時点の年齢、これまでの年金加入状況(従前の働き方、加入期間、その期間の平均年収)、申請時点の年収から将来の受給見込額を推計し、上記の年収水準で30年間厚生年金に加入していた場合の水準に達しているかを見ます。

達しない場合でも、不足分を補える金融資産があれば、水準に達しているものと評価されます。必要な資産額は申請時の年齢に応じて判断され、若い申請者ほど低く設定されます。夫婦の場合は、二人の受給見込額を合算して判断します。

参考:現在公表されている統計

改定案がいう「受給年金水準」そのものは公表されていませんが、厚生労働省が示す標準的な年金額を30年加入に引き直せば、おおよその規模は見当がつきます。

令和8年度の標準的な年金額は、夫婦2人分の老齢基礎年金を含めて月額237,279円です。これは平均標準報酬(賞与を含む月額換算)45.5万円で40年間就業し、配偶者がその間第3号被保険者であった場合の額で、内訳は報酬比例部分が約96,000円、老齢基礎年金の満額70,608円が2人分となります。

報酬比例部分も老齢基礎年金も加入月数に比例しますので、これを30年(360月)に引き直すと次のようになります。

【単身の場合】
・報酬比例部分 約72,000円
・老齢基礎年金(30年納付) 約53,000円
・合計 月額約125,000円(年額約150万円)

【夫婦の場合】
上記に、配偶者が同じ期間第3号被保険者であった場合の老齢基礎年金約53,000円を加算
・合計 月額約178,000円(年額約214万円)

改定案は、夫婦については二人の受給見込額を合算し、これを右の水準と比較するとしていますので、夫婦世帯であれば月額18万円前後が一つの目安になると考えられます。

ただし、この試算には前提があります。平均標準報酬45.5万円は厚生労働省のモデルの前提であって、入管が採用する年収水準ではありません。45.5万円は年収に直すと約546万円で、全世帯の平均所得536万円に近い水準ですが、改定案は世帯人数に応じた水準を求めていますので、扶養家族がいる世帯では年収水準がこれより高く設定される可能性があります。受給年金水準は年収水準に連動しますから、その場合は必要な年金額も上がります。

また、実際の受給見込額は個々の加入歴によって決まります。国民年金のみの期間がある方、来日前の期間が空いている方は、上記の試算より低くなります。

補填資産については、受給開始後の何年分を補う想定なのかが示されていないため、現時点では金額を出せません。

具体的な基準額は、今後の公表を待つほかありません。

国益要件の具体化

国益要件について改定案は、単に国益に反しないという消極的なものにとどまらず、積極的かつ具体的に永住が日本国に利益をもたらす必要がある、としました。考慮要素として次のものが挙がっています。

日本語能力

日本語教育の参照枠のB1相当レベル以上。ただし、高度人材外国人とその家族、初等教育または中等教育を累計6年以上受けた者、永住者の子(その子を養育する親がB1相当以上で、かつ子が日本で出生した場合に限る)などは対象外です。

■参考:日本語能力B1相当とはどの程度か

「日本語教育の参照枠」は、文化審議会国語分科会が令和3年に報告した日本語能力の物差しです。A1からC2までの6段階があり、B1は中間に位置します。

参照枠がB1について示しているのは、おおむね次のような能力です。

・仕事や学校、地域生活など日常的な場面で普通に使われる話し方であれば、要点を理解できる
・興味のある事柄や身近な話題について、筋道立てて簡単に説明できる
・経験や出来事、将来の希望を述べ、意見や計画の理由をひととおり説明できる

外国人向けに手加減した話し方でなくてもやりとりが成り立ち、役所や職場で自分の事情を自分の言葉で説明できる水準ということになります。専門的な議論や抽象度の高い読み書きはB2以上の領域で、B1には求められていません。

改定案は確認方法を示していないため、どの試験で判定するのかは今後の運用を待つことになります。

制度・ルールの理解

「生活・就労ガイドブック」の記載事項を中心に、入管庁長官が指定する方法で確認します。

公租公課の支払

申請時点で未納がなくても、過去に滞納処分を受けたなど適切に支払っていなかった事実があれば、原則として消極評価となります。

学齢期の子の就学

義務教育期間にある子を小学校または中学校に通わせていることが求められます。

居住実績

引き続き10年以上の在留に加え、過去10年以内に、合理的な理由なく一回の出国で半年以上不在とした期間がある場合、または通算2年6月以上不在とした場合は、原則として消極評価となります。

なお、ここでいう「就労資格」からは、技能実習、育成就労、特定技能1号、企業内転勤が除かれます。就労資格で引き続き5年以上という要素を計算するとき、企業内転勤の期間が算入されない点は注意が必要です。

日本人の配偶者等について

日本人、永住者または特別永住者の配偶者や子は、法律上、素行善良要件と独立生計要件のいずれにも適合する必要がありません。
ただし改定案は、現に公共の負担となっている場合や、そのおそれが現実的である場合には、消極評価することがあるとしています。
もっとも、家族単位での在留の安定や人道的な配慮を重視して総合的に判断する、とも書かれています。

配偶者特例と在留期間の扱い

原則10年在留の特例のうち、日本人・永住者等の配偶者に関する要件が延長されます。

婚姻期間     3年以上 → 5年以上
日本での在留期間 1年以上 → 3年以上

もう一つ、在留期間についての経過措置があります。国益要件では「最長の在留期間をもって在留していること」が考慮要素とされますが、令和9年3月31日までの申請であれば、在留期間「3年」でも最長期間として扱われます。4月1日以降についても、3月31日時点で「3年」を有し、4月1日以降の初回申請であって、その在留期限までに処分を受ける場合に限り、同じ扱いとなります。


なお、これまで別に定められていた「我が国への貢献」に関するガイドラインは、今回の改定により廃止されます。ただし内容がなくなるわけではなく、貢献があると認められる者の範囲は改定後のガイドライン第4に取り込まれ、原則10年在留の特例と国益要件の積極評価という扱いも従来どおりです。参照すべき文書が一本にまとまる、という整理になります。

 いつから適用されるか

改定は、令和9年(2027年)4月1日以降の申請から適用されます。

注意が必要なのは収入に関する部分です。改定案第6は、収入(第2の4(2))と公共の負担(第2の5(7))については、改定日の6か月前の日以降の申請であって、かつ改定日時点で審査中の案件にも適用する、としています。改定日が2027年4月1日であれば、2026年10月以降の申請が対象になります。

つまり、2026年10月から新基準での審査が始まるということではなく、2026年10月以降に申請したものが2027年4月の時点でまだ審査中であれば、新しい収入基準で判断されるという仕組みです。

永住許可申請の処理期間を考えると、2026年10月以降の申請は、事実上、新基準を前提に準備しておくべきということになります。

意見募集期間は、2026年8月4日から9月4日までです。

まとめ

今回の改定案は、収入基準の引き上げ、将来の年金という新しい審査項目、日本語能力の要件化、配偶者特例の期間延長と、実質的に基準を引き上げる内容です。一方で、いくらの年収が必要なのか、年金の水準がいくらなのか、補填資産がいくら必要なのかという具体的な数字は示されていません。

現時点で確かなのは、2026年10月以降の申請が新しい収入基準の対象になりうるということです。
永住許可申請を検討されている方は、申請時期の判断も含めて、早めに確認しておくことをお勧めします。

 参考

出入国在留管理庁「永住許可に関するガイドライン改定(案)(概要)」
https://www.moj.go.jp/isa/content/001467985.pdf

e-Gov パブリックコメント(意見募集要領・ガイドライン改定案・概要を掲載)
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&Mode=0&id=315000140

厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa24/index.html

日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/taisetu/kojin/2026/202604/0401.html

出入国在留管理庁「永住許可制度の適正化Q&A」(令和6年入管法改正に関するもの)
https://www.moj.go.jp/isa/immigration/faq/kanri_qa_00003.html

中村光男

この記事を書いた人

行政書士中村光男事務所 代表 中村光男(行政書士・防災士・AFP)

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