国際結婚のご夫婦にお子さんが生まれたとき、そのお子さんは日本国籍を持つのか。持つとして、それを失うことはあるのか。この問いへの答えは、どこで生まれたかによって大きく変わります。同じ両親から生まれた子でも、生まれた場所が日本か海外かで、必要な手続も、うっかりすると国籍を失う危険も、まるで違ってくるのです。今日は、その違いと、万一のときの救済制度を整理します。
まず、生まれた時点では国籍を取得している
出発点を押さえておきます。子が出生により日本国籍を取得するのは、出生の時に父または母が日本国民であるときです(国籍法2条1号)。父母のどちらかが日本人であれば足り、これを父母両系血統主義といいます。1985年の法改正で、それまでの父系主義から現在の形になりました。
そして重要なのは、日本人の子が外国で生まれた場合であっても、出生によって日本国籍を取得する、という点です。国籍法は血統主義ですから、生まれた場所は国籍取得の要件ではありません。国際結婚の場合も同じで、日本人親の子である以上、生まれた瞬間には日本国籍を持っている。日本国内で生まれようと海外で生まれようと、ここは変わりません。
問題は、その後です。
日本で生まれた場合——届出が遅れても、国籍は失われない
日本国内で生まれた場合、出生届は原則として14日以内に提出します。
では、その届出が遅れたら、あるいは何らかの事情で出されなかったら、日本国籍を失うのでしょうか。失いません。 日本国内で生まれた子について、届出の遅れを理由に国籍を失わせる規定は存在しないからです。
ここは誤解されやすいところです。届出をしなければ戸籍には載りませんから、戸籍上は存在しない人(無戸籍)になります。戸籍は日本国籍を公証する唯一の制度ですから、戸籍がなければ日本人であることを証明できず、生活上さまざまな不利益が生じます。しかしそれは証明できないという話であって、国籍がないという話ではありません。
現に法務省は、出生の届出がされておらず無戸籍となっている方々のために、全国の法務局に相談窓口を設け、戸籍をつくるための手続案内を行っています。日本国籍を持ちながら戸籍がない人が現実にいるからこそ、こうした制度があるわけです。届出の遅れは手続の問題であって、国籍そのものは守られています。
海外で生まれた場合——3か月の国籍留保
これに対し、海外で生まれた場合には、重い期限が課されます。
外国で生まれた子が、出生によって日本国籍と同時に外国の国籍も取得したときは、出生の日から3か月以内に、出生の届出とともに日本国籍を留保する意思表示(国籍留保の届出)をしなければ、その子は出生の時にさかのぼって日本国籍を失うこととされています(国籍法12条、戸籍法104条)。
これが国籍留保の制度です。生地主義を採る国(アメリカなど、その国で生まれれば市民権を得る国)で子が生まれると、日本国籍と現地の国籍を同時に取得します。このとき3か月以内に手続をしないと、日本国籍が消えてしまう。しかも「これから失う」のではなく「生まれた時に遡って、最初から日本人ではなかったことになる」という、強い効果です。
なお、在日米軍の施設・区域は日米地位協定上、日本の領域であり米国の領域ではないとされています。12条は「外国で生まれた」ことを要件としますから、この点は結論に直結します。(※注として扱ってください)
国籍留保を忘れても、諦める必要はない——17条1項の再取得
ここが今日、最もお伝えしたい点です。3か月の期限を過ぎてしまった場合でも、日本国籍を取り戻す制度が用意されています。
日本国籍を留保する意思表示をしなかったことによって日本国籍を喪失した子については、一定の要件を満たしていれば、法務大臣へ届け出ることによって日本国籍を再取得することができます(国籍法17条1項)。「国籍の留保をしなかった者の国籍の再取得」と呼ばれる制度です。
帰化とは違い、これは届出です。法務大臣の許可を得る帰化と異なり、要件を満たして届け出れば国籍を取得できる、はるかに軽い手続です。しかも、再取得の際に、現に有する外国国籍について離脱や喪失は要求されません。その結果、多くのケースでは再取得と同時に重国籍となります。
ただし、要件があります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 年齢 | 18歳未満であること |
| 住所 | 日本に住所を有すること |
| 手続 | 住所地を管轄する法務局・地方法務局へ届出 |
この二つ、とりわけ年齢の壁が実務上は重くのしかかります。18歳以上になってしまった場合は、この届出はできず、帰化許可申請によることになります。
つまり救済制度はあるものの、期限がある救済です。お子さんが未成年のうちに、日本に住所を置いて手続をする。この二つが揃う必要があります。海外で生まれたお子さんに国籍留保をし忘れたことに気づいたら、18歳になる前に動くこと。これが決定的に重要です。
二つを並べると、何が見えるか
同じ国際結婚の子でも、生まれた場所で扱いがどれほど違うか、整理します。
| 日本で生まれた場合 | 海外で生まれた場合 | |
|---|---|---|
| 出生時の日本国籍 | 取得する | 取得する |
| 届出の期限 | 14日以内 | 3か月以内 |
| 期限を過ぎたら | 戸籍に載らない(無戸籍)。国籍は失わない | 外国籍も取得していれば、出生時に遡って国籍を失う(12条) |
| その後の道 | 遅れて出生届を出し、戸籍をつくる | 18歳未満・日本在住なら再取得の届出(17条1項)/18歳以上なら帰化 |
日本国内なら、遅れはいつでも取り返せます。海外なら、遅れを取り返す道はあるものの、18歳という期限が付いている。この非対称性が、国際結婚のご家庭にとって最も実務的な要点です。
最後に、もう一つの落とし穴に触れておきます。国籍法11条1項は「日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う」と定めます。生まれたときに自動的に外国籍を取得したのなら自分の意思ではありませんから該当しませんが、後から手続をして外国籍を取得した場合は、その時点で日本国籍を失います。本人が幼いときに親が手続をした場合も同じです。生まれた場所とは関係なく、この規律は生涯にわたって働き続けます。
まとめ
国際結婚のお子さんは、日本人の親の子である以上、生まれた瞬間に日本国籍を取得しています。動くのはその後です。
日本で生まれたなら、届出が遅れても国籍は守られ、後から戸籍をつくる道があります。海外で生まれたなら、3か月以内の国籍留保が国籍そのものを左右します。
そして、その期限を逃してしまっても、諦める必要はありません。18歳未満で日本に住所を有するのであれば、法務大臣への届出という比較的簡明な手続で、日本国籍を再取得できます(国籍法17条1項)。ただし18歳を過ぎると帰化によるほかなくなりますから、気づいた時点で早く動くことが何より大切です。
国籍の問題は、思い込みで結論を出さず、条文と記録に当たることから始まります。ご不安があれば、お住まいを管轄する法務局や在外公館に、早めにご相談ください。
参考
- 法務省「国籍Q&A」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji78.html
- 法務省「国籍法」(条文) https://www.moj.go.jp/MINJI/kokusekiho.html
- 法務省「無戸籍でお困りの方へ」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji04_00034.html
- 外務省「日米地位協定Q&A」 https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/sfa/qa.html
- 在アメリカ合衆国日本国大使館「日本国籍喪失/離脱届/選択届」 https://www.us.emb-japan.go.jp/itpr_ja/kokuseki-soushitsu-ridatsu.html
この記事を書いた人
行政書士中村光男事務所 代表 中村光男(行政書士・防災士・AFP)
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