遺言書を書くとき、自分の財産を子どもや配偶者に渡す文言として「相続させる」と書くのが一般的です。ところが、同じ相続人に対して、あえて「遺贈する」と書くケースもあります。書き間違いではなく、意図して選ぶ場面があるのです。「相続人なのに遺贈?」と不思議に思われるかもしれません。今日は、相続人に「遺贈する」と書いたとき、手続きや税金にどんな違いが出るのかを整理します。
結論を先に言えば、遺言は問題なく有効で、かつての不利益も法改正でほぼ解消しています。
「相続させる」と「遺贈する」――まずは違いから
「相続させる」は、相続人に財産を承継させる言い方です。これに対して「遺贈する」は、遺言によって財産を与える行為で、受け取る人を「受遺者(じゅいしゃ)」と呼びます。受遺者には、相続人以外の人(たとえば孫や内縁の配偶者、お世話になった第三者)もなれますし、相続人を受遺者にすることもできます。
相続人を相手にした場合、両者は「最終的にその財産がその人のものになる」という結論は同じです。違いが出るのは、その後の手続きの進め方や、財産を受け取らない選択をするときの取扱いです。
相続人への遺贈は、登記も税金もハードルが下がった
以前は、相続人にあえて「遺贈」とすると、不動産の名義変更(登記)で手間がかかりました。遺贈の登記は、原則として受け取る人と他の相続人(または遺言執行者)が共同で申請する必要があり、関係者の協力が欠かせなかったのです。
ところが、令和5年4月1日からこの取扱いが変わりました。相続人に対する遺贈であれば、財産を受け取る相続人が一人で(単独で)登記を申請できるようになっています。他の相続人の協力を待たずに遺言どおりの登記を進められるため、「相続させる」と書いた場合との手続き上の差は、ほぼなくなりました。
税金の面でも差はありません。不動産の名義変更にかかる登録免許税は、相続による移転も相続人への遺贈も同じく0.4%です。2.0%という高い税率がかかるのは、相続人以外の第三者への遺贈の場合なので、相手が相続人であれば負担は変わりません。
| 相続人への移転方法 | 登記の申請 | 登録免許税 |
|---|---|---|
| 「相続させる」 | 単独で申請可 | 0.4% |
| 「遺贈する」(相続人へ) | 単独で申請可(令和5年4月〜) | 0.4% |
| 「遺贈する」(相続人以外へ) | 共同申請が必要 | 2.0% |
それでも残る違い――「放棄」のしやすさと包括遺贈の落とし穴
手続きと税金がそろった今、残る実質的な違いは「受け取らない選択をするとき」に表れます。
特定の財産を指定して遺贈する「特定遺贈」であれば、受遺者はその遺贈だけをいつでも単独で放棄できます。相続人としての立場はそのままに、「この財産だけは受け取らない」という選択ができるわけです。たとえば、特定の不動産だけは引き継ぎたくない、といった希望に柔軟に応えられます。これは「相続させる」にはない特徴です。
一方で注意したいのが「包括遺贈」です。「財産の全部を遺贈する」「2分の1を遺贈する」のように、割合や全体を指定する書き方をすると、受遺者は相続人と同じ権利義務を負います。プラスの財産だけでなく借金などのマイナスも引き継ぐことになり、受け取らないためには、相続放棄と同じ手続き(亡くなったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所へ申し出る)が必要になります。「遺贈」という言葉の選び方ひとつで、放棄の扱いが大きく変わるのです。文言を決めるときは、特定遺贈なのか包括遺贈なのかを意識することが欠かせません。
遺言書保管制度を使うとき
自筆の遺言書を法務局に預ける「自筆証書遺言書保管制度」を利用する場合、保管の申請書には受遺者を記入する欄があります。相続人に「相続させる」と書いた場合は、その人を受遺者欄に書く必要はないとされていますが、あえて「遺贈する」と書いた人は受遺者にあたるため、申請書に記載しておくのが遺言書の文言に沿った扱いです。記載要否の細かな判断は窓口によって運用が分かれることもあるので、申請前に管轄の法務局に確認しておくと安心です。
まとめ
相続人にあえて「遺贈する」と書くことは、書き間違いではなく、有効で現実的な選択肢です。令和5年の法改正によって登記が単独で申請できるようになり、登録免許税も相続と同じ0.4%で、かつての不利益はほぼ解消しました。残る違いは、特定遺贈なら受け取らない選択を柔軟にとれること、そして包括遺贈にすると放棄の手続きが相続放棄と同じになることです。どちらの言葉を選ぶかで、その後の手続きや受け取り方が変わります。遺言書の文言は、ご自身の希望や家族の状況に合わせて慎重に選びたいところです。判断に迷うときは、専門家に相談したうえで決めることをおすすめします。
参照URL(公的機関)
- 法務省「法務局における自筆証書遺言書保管制度について」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html
- 法務局「相続登記・遺贈の登記の申請をされる相続人の方へ」(令和5年4月1日からの単独申請) https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000001_00014.html
- 国税庁 タックスアンサー No.7191「登録免許税の税額表」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm
- e-Gov 法令検索「民法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
この記事を書いた人
行政書士中村光男事務所 代表 中村光男(行政書士・防災士・AFP)
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