農振法改正 杉並区 | 行政書士中村光男事務所 杉並・練馬・中野・武蔵野市・新宿区・小金井市・小平市

近年、農業を取り巻く環境の変化を受け、農業振興地域制度に関する法改正と基本指針の見直しが行われました。

令和6年6月に農業振興地域の整備に関する法律が改正され(施行:令和7年4月)、これを受けて令和7年6月に国の基本指針が変更されました。

背景には、担い手不足の深刻化、農地の分散化、地域ごとの条件差の拡大などがあります。No2で整理したとおり、現在の農地利用は地域計画を起点とする三段階構造で動いており、基本方針の変更はその運用に直接影響します。本稿では、基本方針変更のポイントを整理しながら、関係する三つの法律の目的の違いにも触れます。

三つの法律の目的の違い

まず制度を理解する前提として、農業経営基盤強化促進法、農振法、農地法はそれぞれ役割が異なります。


・農業経営基盤強化促進法は、担い手への農地集積と地域農業の将来像づくりを目的とし、地域計画の根拠法です。
・農振法は、長期的な農業振興のための土地利用ゾーニングを目的とし、農用地区域の設定により守るべき農地を定めます。
・農地法は、個別の権利移動や転用の適正化を目的とし、無秩序な土地利用を防ぐ許可制度です。
基本方針の変更は主に農振法の運用に関するものですが、実際には三法が一体として機能することを前提に設計されています。

農林水産省 – 農振法改正について 農林水産省 – 基本指針変更プレスリリース

基本方針変更の背景

基本方針変更の最大の背景は、地域計画の法定化です。

従来の農振制度はゾーニング中心でしたが、現在は「誰がどの農地を担うのか」という視点が強く求められます。また、耕作放棄地の増加や中山間地域の維持など、地域ごとの事情に応じた柔軟な運用も課題となっています。

基本方針では、画一的な農地保全から、地域の実情を踏まえたメリハリのある運用へ転換する方向性が示されています。

地域計画との連動強化

変更後の基本方針では、農用地区域の設定・見直しにあたり、地域計画との整合がこれまで以上に重視されています。

担い手への集積対象とされた農地は、原則として農用地区域に位置付け、安易な除外を避けることが求められます。

一方で、地域計画で農業利用が見込まれない農地については、現実的な土地利用への転換も検討するとされています。

No2で述べた三段階構造は、この方針を具体化したものです。

農振除外の考え方の変化

基本方針変更により、農振除外の判断基準にも変化が生じています。

単に個別事情だけでなく、地域計画における位置づけ、周辺農地との一体性、将来的な担い手確保の可能性などが総合的に評価されます。

これまで以上に「なぜその場所でなければならないのか」という説明が重要になり、申出側には高い説明責任が求められます。

都市的土地利用との調整

農村部でも住宅や事業用地の需要は続いており、農業振興と地域活性化の両立が課題です。

基本方針では、市街地に近接した農地や生産性の低い農地について、周辺環境との調和を前提に柔軟な対応を検討するとされています。

ただし、これは無条件の転用容認ではなく、地域計画と農振制度の枠内での調整という位置づけです。

実務への影響

基本方針変更により、自治体の審査実務はより「計画重視」へと移行しています。

申請側としては、単なる図面や理由書だけでなく、地域計画との関係を整理した説明資料が不可欠になります。

また、除外→転用という従来の発想から、地域計画→農振→農地法という順序を意識した準備が必要です。

これは手続きの形式だけでなく、考え方そのものの転換と言えます。

今後の展望

基本方針変更は一度きりの改正ではなく、地域計画の進展に合わせて運用が深化していくと考えられます。

農地を守る視点と、地域の実情に応じた土地利用の視点のバランスが、今後の大きなテーマです。

制度は複雑ですが、三法の目的の違いを理解すると全体像が見えやすくなります。

次回No4では、市街化区域外の農地転用の実務に焦点を当てます。

農地関連三法の比較表

比較項目 農業経営基盤強化促進法 農業振興地域の整備に関する法律
(農振法)
農地法
制定年 昭和55年(1980年) 昭和44年(1969年) 昭和27年(1952年)
最近の主な改正 令和4年(2022年)
地域計画の法定化
令和6年(2024年)
食料安定供給の明記
令和6年(2024年)
転用手続の厳格化
法律の目的 ・効率的かつ安定的な農業経営の育成
・担い手への農地集積・集約化
・農業経営基盤の強化
・農業の健全な発展
・国土資源の合理的な利用
・優良農地の確保(ゾーニング)
・食料の安定供給の確保
・農地を農地として守る
・耕作者の地位安定
・農地の効率的利用
・個別転用の適正化
規制の性格 促進型(支援・誘導) 計画型(区域指定) 規制型(許可制)
対象範囲 ・地域計画区域
・認定農業者
・担い手への利用集積
・農業振興地域(都道府県指定)
・農用地区域(市町村設定)
・すべての農地
(市街化区域含む)
主な制度内容 ■ 地域計画の策定(義務化)
・目標地図の作成
・協議の場の開催■ 農地中間管理事業との連携■ 認定農業者制度

■ 利用権設定(令和7年4月廃止)

■ 農業振興地域の指定

■ 農用地区域の設定
・集団的農地(原則10ha以上)
・基盤整備実施地
・地域計画達成に必要な土地

■ 農振除外手続

■ 農用地区域内は転用原則禁止

■ 農地転用許可制度
・3条:権利移動
・4条:自己転用
・5条:権利移動+転用■ 農地区分(1種~3種等)■ 下限面積要件(廃止)

■ 遊休農地対策

許可権者 市町村(計画策定)
農業委員会(利用調整)
・農業振興地域:都道府県知事
・農用地区域:市町村
・除外変更:都道府県同意必要
・4ha以下:都道府県知事等
・4ha超:農林水産大臣協議
・市街化区域:届出制
審査基準 ・地域計画との整合性
・担い手への集積効果
・農業経営改善の見込み
・代替地の有無
・地域計画達成への影響
・集団性・効率性への影響
・土地改良事業との関係
・8年要件(事業完了後)
・立地基準(農地区分)
・一般基準
-転用の確実性
-周辺農地への影響
-一時転用の可否
手続の流れ ①協議の場の開催
②地域計画の作成
③目標地図の作成
④市町村による公告
⑤農地バンクとの連携
①農振除外の申出
②地域計画からの除外
③市町村整備計画変更案作成
④都道府県との協議・同意
⑤計画変更・公告
①農業委員会への申請
②現地調査
③農業委員会の審議
④許可(不許可)
⑤工事完了報告(新設)
罰則 ・計画策定義務違反への勧告
(直接罰則は少ない)
・違反転用:原状回復命令
・罰金:100万円以下等
・無断転用:3年以下の懲役
または300万円以下の罰金
・原状回復命令違反の公表
他法との関係 ・農振法の上位計画として機能
・農地法3条の特例(農地バンク)
・農地法の前段階規制
・農用地区域内は農地法転用不許可
・農振除外後の個別審査
・最終的な転用可否判断
地域計画との関係 地域計画の根拠法
令和7年3月末までに策定義務
地域計画と連動
・地域計画達成に必要な土地を農用地区域に指定
・除外時に地域計画への影響を審査
地域計画を参照
・地域計画の目標地図と整合
・担い手への集積を考慮
令和6-7年改正の主なポイント ■ 遊休農地の権利設定迅速化

■ 農地所有適格法人の議決権特例

■ 地域計画の変更手続整備

■ 目的に「食料安定供給」明記

■ 農用地区域指定要件に「地域計画達成に必要な土地」追加

■ 都道府県同意基準に「面積目標達成」追加

■ 国の関与強化

■ 転用許可後の定期報告義務化

■ 原状回復命令違反の公表制度

■ 権利取得要件に法令遵守状況追加

■ 農地所有適格法人要件の明確化

実務上の特徴 ・将来ビジョンの共有
・地域の合意形成重視
・10年後の姿を描く
・任意参加だが実質義務化
・長期的視点(10年以上)
・面的なゾーニング
・変更手続に時間要する
・都道府県の関与大
・個別案件の審査
・短期的判断
・即時性高い
・転用の最終判断

■用語ミニコラム(No3版)

基本方針
国が示す農業振興地域制度の運用指針です。自治体はこの方針に沿って農用地区域の設定や除外審査を行います。

地域計画との整合
農振除外や転用を検討する際に、地域計画での農地の位置づけと矛盾しないかを確認する考え方です。

メリハリある運用
守るべき農地は守り、農業利用が見込めない土地は現実的な活用を検討するという方針を指します。

出典:

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