高度専門職1号(ロ)で日本に在留している外国人の方が、一旦、会社を辞めて大学院で学びなおしたい場合、どうしたらいいでしょうか。
「会社を退職したが、大学院進学と就職活動を並行したい」
「いったん留学ビザに変えるべきか、それとも高度専門職を維持すべきか?」
今回は、上記をモデルケースとして、最も現実的でリスクの少ない考え方を検討します。
モデルケースの前提
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在留資格:高度専門職1号(ロ)
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2025年12月に会社を退職
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大学院(2026年4月入学)に合格
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就職活動を継続中
結論:最優先すべき「第一シナリオ」
このケースで最もスムーズな方法は、
退職後3か月以内に新会社と雇用契約を結び、
高度専門職1号(ロ)として在留資格変更許可申請を行うこと
です。
高度専門職1号(ロ)は「所属会社ごとの在留資格」ですが、新しい会社との雇用契約があれば、在留資格変更申請が可能です。
そして重要なポイントとして、
👉 高度専門職1号(ロ)のまま大学院で学ぶことは可能
👉 勉学は「就労」ではないため、資格外活動許可は不要
本業に支障がなければ、就職+大学院進学の両立は制度上認められています。
もちろん、就職している会社の就業規則や職場環境で、時間外に大学院に通うことが可能であることが必要です。あくまでも、本来の在留資格活動に影響がない範囲で、勉学する姿勢が重要です。
留学ビザへの変更が難しい理由(4月入学の場合)
「大学院に行くなら、留学ビザに変更した方が安全では?」と考える方も多いですが、注意が必要です。
退職後3か月ルール⇒※
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原則として、退職後3か月以内に次の活動が決まらない場合、在留資格維持が困難になります。
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4月入学の大学院の場合、退職後3か月を超えてしまうケースが多くなります。
そのため入管では、
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在留資格変更は不可
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いったん帰国してCOE(在留資格認定証明書)を申請するよう案内という、
形式的な運用がされることが少なくありません。
※入管法第22条の4では、「(6) 入管法別表第1の上欄の在留資格(注)をもって在留する者が、当該在留資格に係る活動を継続して3か月以上行っていない場合(ただし、当該活動を行わないで在留していることにつき正当な理由がある場合を除きます。)」は法務大臣は、在留資格を取り消すことができるとしています。(→解説は、入管法ホームページ「在留資格の取消し(入管法第22条の4)」) なお、この猶予期間は、高度専門職2号の場合は、6か月とされています。
法律では、「高度専門職が会社を辞めたら3か月経過後に、正当な事由のない限り、法務大臣は、在留資格を取り消すことができる」としているので、取り消されない場合も当然あります。
上記のケースでも、留学の在留資格変更申請は、入学の3か月前から申請できるので、高度専門職1号(ロ)から留学への在留資格変更許可申請をして、許可が降りれば、入学が4月であることをもって、帰国を指示されることはないという運用がされているようです。
しかし、これは個々の事情ごとに入管の判断も異なりえるので、事前に審査窓口の相談する方が安全かと思います。
大学院卒業と「高度専門職ポイント加算」の関係
高度専門職のポイント計算では、学歴については、①学歴(最終学歴が学士10点・修士20点など)、②特別加算(日本の大学卒業又は大学院修了で10点)、③法務大臣が告示で定める大学(10点)の3つのポイントチャンスがあります。①と②と③は、重複加算が認められています。
よくある誤解として、
「日本の大学は留学ビザで卒業しないと加点されない」
というものがありますが、そのような規定はありません。例えば、就労資格者が社会人大学院で修士を取るケースなどもカウントされます。
ポイントは次の点です。
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申請時点で法務大臣が告示で定める大学一覧に掲載されているか
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卒業していることが客観的に証明できるか
将来、高度専門職1号(ロ)を申請する時点で対象大学であれば、卒業時の在留資格に関係なく加点対象となります。
【入管法ホームページ】卒業すると特別加算10点となる大学は、入管法ホームページの「ポイント評価の仕組みは?」に「法務大臣が告示で定める大学一覧」という項目で説明されています。
この大学の種類は3種類あって、分かりやすいのは、大学名がリスト化されている「世界大学ランキングに掲載されている大学」です。
しかし、これも注意点があって、PDFには掲載されていても、高度人材ポイントを申請する時点では、世界大学ランキングに入っているかどうかは、それぞれ対象の調査機関のHPで確認しないといけないということです。
さらに、ややこしいのは、「スーパーグローバル大学創成支援事業(トップ型及びグローバル化牽引型)において補助金の交付を受けている大学」というカテゴリーがあって、文部省のHPにリンクされているのですが、実は、この補助金は既に廃止されていて、対象大学はないのです。この矛盾は早晩、修正されるはずですので、ここだけでポイント加算を期待しない方がよさそうです。
・法務大臣が告示で定める大学一覧 1. 世界大学ランキングに基づき加点対象となる大学(PDF) (令和7年1月時点) 令和7年1月時点の大学ランキングに基づき作成されているため、申請の際は、必ず最新の3つの世界大学ランキング(※)も併せて御確認下さい。 (※)世界大学ランキング (1)クアクアレリ・シモンズ社公表のQS・ワールド・ユニバーシテイ・ランキングス(https://www.topuniversities.com/university-rankings) (2)タイムズ社公表のTHE ワールド・ユニバーシテイ・ランキングス(https://www.timeshighereducation.com/world-university-rankings) (3)シャンハイ・ランキング・コンサルタンシー公表のアカデミック・ランキング・オブ・ワールド・ユニバーシテイズ(https://www.shanghairanking.com/rankings) 2. スーパーグローバル大学創成支援事業(トップ型及びグローバル化牽引型)において補助金の交付を受けている大学(文部科学省ホームページにリンクします。) 3. 外務省が実施するイノベーティブ・アジア事業において「パートナー校」として指定を受けている大学(PDF)
複数の分野で2以上の博士若しくは修士の学位又は専門職学位がとれた場合
この場合、上記の①学歴のカテゴリーで5点加算されます。
この場合、専攻が異なることを学位記や学位証明書で証明する必要があります。それだけでは、明確な立証ができないときは、成績証明書で、どのような科目を修了しているかを示して証明します。
在留資格を短期間に何度も変えるリスク
制度上は、
高度専門職 → 留学 → 高度専門職
という変更も可能です。
しかし実務上は、
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短期間に何度も在留資格を変更
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活動の一貫性が見えにくい
場合、「在留実態を慎重に見る」審査になり、結果として不許可となるケースもあります。
就職がすぐ決まらない場合の考え方
退職後3か月以内に雇用契約が間に合わない場合でも、
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就職エージェントの利用
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応募履歴・面接記録
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ハローワーク登録
など、就職活動を客観的資料で説明できれば、一定期間の在留が認められる余地はあります。
ただし、
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どのくらい認められるか
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どの在留資格になるか
は、入管の裁量判断となります。
まとめ|迷ったら「高度専門職を軸」に考える
このモデルケースから言える実務的な結論は、
✔ まずは高度専門職1号(ロ)での就職を最優先
✔ 大学院進学は「補強要素」として活用
✔ 留学ビザへの切替は慎重に検討
という考え方です。
高度専門職の制度は柔軟ですが、タイミングを誤ると選択肢が一気に狭まるのも事実です。
行政書士中村光男事務所について
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