ものづくり補助金 行政書士中村光男事務所

ものづくり補助金を申請する際、事業計画書の中で避けて通れないのが「付加価値額の増加」という要件です。

ここでまず注意したいのが、ものづくり補助金でいう「付加価値額」は、会計学や経済学で使う一般的な意味とは少し違うという点。補助金制度の中で、明確に次のような数式で定義されています。

付加価値額= 営業利益+人件費+ 減価償却費

最新の公募要領でも、付加価値額は「営業利益、人件費、減価償却費を足したもの」と明記されています。

今回は、この付加価値額の正しい捉え方と、申請書を書く上で多くの人が引っかかりやすい「本事業」と「事業者全体」の境界線について、分かりやすく解説します。

そもそも「付加価値額」って何?

ものづくり補助金における付加価値額とは、ざっくり言うと「その事業を通じて、世の中にどれだけの価値(富)を生み出し、社会に分配したか」を測る指標です。

構成要素は次の3つです。

  • 営業利益:本業でしっかり稼いだ儲け

  • 人件費:従業員のみなさんに支払う給与や賃金(社会への分配)

  • 減価償却費:設備投資など、将来のために使ったお金の当期分の費用

例えば、ある会社の一年間の数字が以下のようなケースを考えてみましょう。

  • 営業利益:300万円

  • 人件費:500万円

  • 減価償却費:100万円

この場合の付加価値額は、全部足して 900万円 になります。

つまり、審査サイドは「単に会社に利益がいくら残ったか」だけでなく、「従業員にしっかり給料を払い、設備投資も行いながら、会社全体としてどれだけ経済を回しているか」を見たいのです。だから人件費や減価償却費もプラスされるのです。

補助金の「基本要件」

ものづくり補助金をもらうためには、「補助事業が終わってから3〜5年の間に、付加価値額を年平均で成長させます」という約束(計画)を出す必要があります。

基本要件としては、「年平均成長率(CAGR)3.0%以上」の増加が求められます。

そして、ここからが今回の本題。この「3%以上増やす」というのは、一体どこの数字を指しているのでしょうか?

「本事業」ではなく「事業者全体」で見る

結論から言うと、付加価値額の成長要件は、原則として「今回取り組む新しい事業(本事業)」単体ではなく、「会社全体(事業者全体)」で判断されます。

ここで言葉の定義を整理しておきましょう。

  • 本事業:補助金を使って導入する新しい機械や、新しく始めるサービスのこと。

  • 事業者全体:法人なら会社全体、個人事業主ならその個人事業の全事業。

例えば、ある個人事業主の方がすでに「飲食店」を営んでいて、今回ものづくり補助金を使って新しい製造設備を導入し、「テイクアウト商品の通販事業」を新しく始めるとします。

この場合、審査サイドがチェックするのは「通販事業だけで付加価値額が3%伸びるか」ではありません。「既存の飲食店事業+新しい通販事業」を合算した、事業全体として3%以上伸びるか、という点を見られます。

ここを勘違いして、新事業の計画だけを作ってしまい、既存事業の数字を盛り忘れると不採択になるでしょう。

では、「本事業」の数字は不要なのか

では、本事業単体の売上や利益の見込みは不要なのかというと、そうではありません。

ものづくり補助金の申請では、補助金を使って行う本事業が、事業者全体の売上・利益・付加価値額の増加にどのように貢献するのかを説明する必要があります。

つまり、関係は次のように整理できます。

区分 役割
本事業 補助金を使って実施する新たな取組み
本事業の売上・利益計画 事業者全体の成長を実現するための根拠
事業者全体の付加価値額 基本要件の達成を判定する対象

したがって、申請書では、

本事業によって新たに売上・利益が生まれる
  ↓
人件費や減価償却費を含めて付加価値額が増える
  ↓
結果として、事業者全体の付加価値額が年平均3%以上成長する

という流れを示す必要があります。

個人事業主の場合の注意点

個人事業主の方も、基本的な考え方は法人とまったく同じです。確定申告書(青色申告決算書や収支内訳書)の数字をベースに、現在の付加価値額とこれからの計画を計算していきます。

ただし、個人事業主特有の注意点が1つあります。それは「人件費」のカウント方法です。

  • 人件費に入れていいもの:従業員への給料、青色事業専従者(家族など)への給与

  • 人件費に入れてはいけないもの:事業主本人の生活費、事業主貸

オーナー本人の取り分は「人件費」ではなく「所得(利益)」の一部として扱われるため、計算を間違えないように気をつけましょう。

よくある誤解

  • 誤解①:「本事業さえ黒字なら文句ないでしょ?」 新事業がどれだけ絶好調でも、既存の本業がそれ以上に大赤字で、会社全体として付加価値額が減ってしまうような計画は要件を満たせません。既存事業の維持・テコ入れの見込みも合わせて書く必要があります。

  • 誤解②:「利益だけを必死に増やせばいいんでしょう?」 前述の通り、付加価値額は「利益+人件費+減価償却費」です。つまり、設備投資をして減価償却費が増えたり、事業拡大に伴ってスタッフを雇い(人件費増)、賃上げをしたりすることも、付加価値額を押し上げる立派な要素になります。

  • 誤解③:「補助事業の売上だけアピールしておこう」 「新しい機械を入れて、これだけ売れます!」だけでは計画書として片手落ちです。その結果、最終的な会社の決算書(営業利益、人件費、減価償却費)にどう着地するのかまで、数字のつながりを見せる必要があります。

申請書での書き方のポイント

申請書では、次のような構成で説明すると分かりやすくなります。

【伝わるストーリーの具体例】

  1. 現在の状況:「当社は現在、既存製品Aの製造販売を中心に事業を行っていますが、市場の飽和という課題を抱えています」

  2. 本事業の取り組み:「そこで今回の補助金を活用し、最新の高精度加工機を導入。新分野向けの『新製品B』の製造に挑戦します」

  3. 具体的な効果:「新製品Bの投入により、これまで外注していた工程を内製化して原価率を〇%改善。さらに、新規取引先〇社へのアプローチが可能になります」

  4. 全体への貢献(着地):「この本事業による売上増と利益率改善が寄与することで、事業者全体の付加価値額は、計画期間において年平均〇.〇%の増加を達成できる見込みです」

このように、「今」から「未来」へのつながりを一本の線で結んであげるのがポイントです。

まとめ

ものづくり補助金における「付加価値額」は、「営業利益 + 人件費 + 減価償却費」。 そして、その成長要件は、新事業単体ではなく「会社(事業者)全体」でクリアする必要があります。

大切なのは、「本事業で何をするか」「それでどう儲かるか」「結果として会社全体がどう潤うか」を、一つの物語として一貫性を持って説明することです。

特に個人事業主や小規模事業者の方は、現在の確定申告書の数字としっかり向き合い、現実的かつ要件を満たす計画を作っていきましょう。

参考資料

中村光男

この記事を書いた人

行政書士中村光男事務所 代表 中村光男(行政書士・防災士・AFP)

東京都杉並区 TEL 03-6356-3571

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