育成就労の転籍 杉並区 | 行政書士中村光男事務所

第2回では、技能実習との違いを一覧で見ました。今回はその中でも関心の高い「転籍」、つまり働く職場を変えることについて説明します。

技能実習では、原則として職場を変えることはできませんでした。育成就労では、一定の条件を満たせば本人の希望で職場を変えられます。ただし、条件はかなり細かく決められています。働く人の側の条件と、受け入れる企業の側の条件に分けて見ていきます。

転籍には2種類ある

育成就労の転籍には、次の2種類があります。

  1. やむを得ない事情がある場合の転籍
  2. 本人の意向による転籍

一つ目は、暴力やパワーハラスメントなどの人権侵害を受けた場合や、受入れ企業の倒産などで働き続けられなくなった場合の転籍です。これは技能実習でも認められていたもので、育成就労でも引き続き認められます。

二つ目が、育成就労で新しく認められた転籍です。職場に特別な問題がなくても、本人が希望すれば一定の条件の下で職場を変えられます。

どちらの場合も、転籍できるのは今と同じ「業務区分」の中に限られます。たとえば、ある分野で働いていた人が、まったく別の分野の仕事に移ることはできません。人手不足の分野で人を育てるという制度の目的に合わせた制限です。

本人の意向による転籍の条件(働く人の側)

本人の希望で転籍するには、主に次の条件を満たす必要があります。

同じ職場で一定期間働いていること
今の受入れ企業で働いた期間が、「転籍制限期間」を超えていることが必要です。この期間は分野ごとに1年から2年の範囲で決められています。分野によって違うため、確認が必要です。

転籍制限期間 分野
2年 介護、建設、工業製品製造業、造船・舶用工業、自動車整備、飲食料品製造業、外食業、資源循環
1年 ビルクリーニング、リネンサプライ、宿泊、鉄道、物流倉庫、農業、漁業、林業、木材産業

※育成就労制度に係る制度の運用に関する基本方針・分野別運用方針 https://www.moj.go.jp/isa/03_00169.html

なお、分野の期間が1年を超えていても、受入れ企業の判断で1年とすることができます。また、1年を超える期間を定める場合には、昇給など、分野ごとに決められた待遇の向上が求められます。転籍を制限する代わりに、働く人の待遇に配慮するという考え方です。

一度転籍した人がもう一度転籍する場合も、新しい職場で転籍制限期間を過ぎていることが必要です。

技能と日本語の試験に合格していること
分野ごとに決められた水準の技能と日本語の試験に合格していることが必要です。技能は技能検定基礎級などが、日本語はA1~A2相当の範囲で分野ごとに定めた試験が想定されています。

一定の育成が進んでいることを確認したうえで、転籍を認めるという仕組みです。

転籍先と費用の条件(受け入れる企業の側)

転籍は、働く人の希望だけでは成り立ちません。転籍先となる企業にも条件があります。

転籍先が優良な企業であること
技能や日本語の試験の合格率、法令を守っているかどうかなどから見て、優良と認められる企業でなければ、本人意向の転籍者を受け入れることはできません。

転籍者の割合に上限があること
受け入れている育成就労外国人のうち、本人意向で転籍してきた人の割合は3分の1までとされています。さらに、大都市圏の企業が地方から転籍者を受け入れる場合は6分の1までです。地方から都市部へ人が流れすぎないようにするための調整です。

初期費用の一部を転籍元に払うこと
転籍元の企業は、受入れのためのあっせん費用や講習費用などを負担しています。そこで、転籍先の企業は、国が告示で定める額に、転籍元で働いた期間に応じた割合をかけた金額を、転籍元に支払うことになっています。

転籍元で働いた期間 割合
1年6か月未満 6分の5
1年6か月以上2年未満 3分の2
2年以上2年6か月未満 2分の1
2年6か月以上 4分の1

転籍元で長く働いた人ほど、転籍先の負担は小さくなります。育ててきた企業の負担に配慮しつつ、転籍そのものが難しくならないように調整した仕組みです。

手続きと、気をつけたい点

本人意向の転籍は、本人が希望を申し出たうえで、転籍先の企業が新しい育成就労計画を作り、外国人育成就労機構の認定を受けるという流れで進みます。転籍元の計画をそのまま引き継ぐのではなく、転籍先で改めて計画の認定を受ける点が大切です。

また、転籍の仲介には制限があります。転籍にあたって民間の職業紹介事業者を関わらせてはならず、職場探しは監理支援機関、外国人育成就労機構、ハローワークなどを通じて行うことになります。悪質な仲介業者が介入して、働く人や企業が不利益を受けることを防ぐためです。

受入れ企業の立場からは、「せっかく育てた人が移ってしまうのでは」という心配があると思います。制度上は、転籍制限期間、転籍者の割合の上限、初期費用の支払いといった歯止めが設けられています。そのうえで、働く人が「ここで働き続けたい」と思える職場環境を整えることが、結果として人材の定着につながるという考え方が制度の前提にあります。

まとめ

育成就労では、やむを得ない事情がある場合に加え、本人の希望による転籍が新しく認められました。ただし、同じ業務区分の中で、同じ職場で一定期間働き、技能と日本語の試験に合格していることが条件です。転籍先の企業にも、優良であること、転籍者の割合の上限、初期費用の負担といった条件があります。

転籍制限期間や試験の水準は分野ごとに異なります。具体的な内容は、分野別運用方針で確認する必要があります。

次回は、受入れ企業、監理支援機関、外国人育成就労機構など、制度を支える仕組みについて説明します。

参考

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